思いつき短編 その2
※注 この短編は、鬼装天鎧バンカイザー本編とは関係ありません。
人間関係、時間軸などおかしな所が多々ありますが気にしないように。
今回色々壊れてます。壊れまくっています。
ドコド・ンという男は意外に勤勉である。
銀河に名だたる組織を作り上げたのが伊達ではない。ただ座って威張っているだけでは組織は成り立たないし人は付いてこない。そう言うものだ。
そう言うわけで彼は各種手続きを取り指示を出しながら、集った勢力からの陳情に目を通していた。
寄り合い組織なのだから各部に軋轢や衝突もあり、意見の食い違いも起こる。そこを上手く調整し事を上手く運ぶようにするのも大切な仕事である。それが分かっているドコドは積極的に部下の声に耳を傾けるようにしていた。その視線は、最近多くなった“ある意見”に注がれている。
「ふん……」
大したことではない、と思う。しかし気になっている人間が多いのも確かだ。ならば一つ試してみるしかあるまい。
このドコドの決意が一つの騒動を巻き起こす。
~思いつき短編その2・まずは形からとか言ってるとろくな事にならないっていう話~
集められたカダン傭兵団の幹部達。その彼らに向かってドコドがいった事を要約すると――
「貴様ら、地味」
――という事だった。
「ええっと……話が良く分からないのですけれど?」
引きつりながら、それでもなんとか笑顔を保とうと努力しているシャラが問う。ドコドは手にした資料を見ながらそれに応えた。
「前線の連中からアンケートが来たんだけどよゥ、貴様らの格好は地味すぎるって意見が多いって事よ。士気を上げるためにゃあ、指揮官もそれなりの外見しとけって話らしいぜェ」
「は、はあ……確かに地味と言われればそうなんですけれど」
そんなもんですかねと思いながら、ダンは己と仲間の格好を確認する。
自身はスーツの上にコートという、良く言ってもインテリヤクザと言った風情。シャラは秘書か女教師かといったきっちりとしたスーツ姿。ヴェンヴェは着古し着崩した野戦服。見ようによっては土方のおっちゃんに見えるだろう。ニキは全身タイツ。彼の場合は都合によりこの姿にしかなれないのだから仕方がない。
「地味……この服ブランド物なのに……結構高かったのに……」
約一名目に見えて落ち込んでいる者がいるが、その他はどうしたものだろうかと首を捻る。戦争は格好でするものではない。大体前線に出るときにはそれなりの格好になるのだ。普段の姿にまで文句を言われる筋合いはないと思うのだが。
「まあそう腐るんじゃねえよ。ものは試しってヤツだ、適当に意見を募ってそれなりのモンを用意させたからよ、ちょいと袖を通してみろや」
『はあ……』
気乗りしない様子で、彼らは衣装の入った荷物を受け取る。このあたりで何か嫌な予感に捕らわれたシャラだったが、確証もないことを口にするつもりはない。渋々ながらも更衣室へと消える。
暫し後。
どどどどどどどがんどかんどばん!
「なななななな、なんですかこれはああああ!?」
もの凄い勢いで扉を蹴破り現れる影。
顔を真っ赤にして飛び込んできたのはシャラ。しかしその格好は何とも言いがたいものであった。
一言で言えばおどろおどろしいビキニアーマー。基本的には彼女のスタイルにマッチした色っぽい格好なのだが、全身のあちこちに付いたトゲトゲの装飾とか怪しいマントとかどう見ても邪悪なティアラとか、色々台無しであった。メイクが普段のままなのがせめてもの救いか。恥ずかしがっているようだがならばなぜ着込んだのか。着るときに気が付かなかったのか。謎である。
「誰ですかこんなセクハラな服装用意したの……は……?」
絶叫が、途中でしぼむ。自らの格好を忘れてぽかんと口を開ける彼女の目の前には……。
「ふむ、たまにはこういう野性を感じさせる様相も良い物でありますな」
上半身裸。その上に鎖を巻き付けたどこのバーバリアンだと言いたくなるような格好のヴェンヴェ。
「……にんにん」
いつもの格好の上から黒装束を纏った忍者……というかNINJYAなニキ。
「あ、これは意外と楽しいものですね」
パンクスかビジュアル系か。黒を基調としたど派手な鎧の上からマントを纏ったダン。
見事な仮装大会であった。
唖然としているシャラに気付いたダンが、格好に合わないにこやかな表情で彼女に話し掛けた。
「ああ、シャラも用意できましたか。なかなか似合っていますよ。……それでですね、それぞれ格好に相応しい行動の取り方とか言う資料もありまして」
「……はあ」
混乱したまま手渡された資料に目を通す。え~となになに、まずは笑い方から――
他の連中も目を通したのだろう、それぞれが笑い方の練習を始める。
ヴェンヴェは腕を組み、虚空を見下すような態度で下品に笑う。
「ゲーッハッハッハッハ!」
ニキは俯き、暗く笑う。
「……くっくっくっくっく」
ダンはマントを翻し、全てを睥睨するかのように笑う。
「ふははははははは!」
……とりあえずシャラもやってみた。体を反らし胸を張り、口元に手の甲を当てて己が最高とばかりに笑う。
「おーっほっほっほっほ!」
…………………………。
「おるァあ!」
突然資料を床に投げ捨て、げしげしと踏み付けるシャラだった。
「ちょ、どうしましたか!?」
「どうしたもこうしたもありますかっ! 少しは疑問に思って下さい!」
きしゃーと吠えるシャラだったが、ダン達はきょとんとした顔を見せるだけだ。
「いやしかし……様式美というのはこういうものなのでしょうから。それにこの格好もやってみればそう悪くもないのではないかと」
「然り」
「……にんにん」
もしかしてこの人達は気に入っているのだろうかこの格好を。後頭部に汗を流しながら不安を覚えるシャラ。そんな彼女の様子に気付く事なく、ダンは胸の前に掲げた己の両手を見ながら感じ入りつつ言う。
「なんというかですね、こう、力が湧いて来るというかノリが良くなってくると言うか。いまならかるーく地球征服もできそうな気がしますね。根拠はありませんけど」
異様なまでに自信が満ち溢れているというか、調子に乗っているというか。嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
「首領、さすがにこれはどうかと……」
ドコドに具申しようとして彼の方に向き直ったシャラは、即座に全てを諦めた。
ぎんぎらぎんだった。そうとしか表現の仕様がなかった。だれだあのおっさんの格好薦めたの。
「これはもうあれですね、この勢いのままちょっくら侵略の一つもしてこいと言う神の思し召しか何かですね。つーことでちょっと出かけてきます」
「え゛? ちょ、ちょっとダン!? なんかおかしいですよちょっと皆も止めて!?」
「勢いというものは大切ですからな。小生もお供いたしますぞ」
「……にんにん」
「おう、ぶわあっと派手にかましてこいや」
「うわだめだこいつら! ……ちょ、やめてはなして誰か助けてえええ!?」
ノリノリの馬鹿達に引きずられて、シャラは姿を消す。それを満足げに見送った派手な格好のおっさんは、「やはり我もこう、特徴的な笑い声の一つも……」などとうきうきしながら何か考えている。
もちろん、止めるものなど誰もいなかった。
スクランブルがかかり、チームインペリアルは侵略行為が行われているという現場に急行した。
だが。
「え~、どういう事?」
バンカイザーのコクピットの中で、萬は呆然と声を上げる。
視線の先では――
「ゲーッハッハッハッハ!」
「……くっくっくっくっく」
「ふははははははは!」
「おーっほっほっほっほ!」
――ノリノリの馬鹿三人と、半泣きになりながらやけくそのように胸を張る一人が高笑いしている。
それはいい。色々と言いたい事はあるが良しとしよう。問題はそこじゃなかった。
「……なんであいつら、“幼稚園のバスジャックなんかしてるんだ?”」
もちろん、上手く行くはずがなかった。
「あっれェ? 上手く行くかと思ったんですけどねえ?」
「どこをどういうふうに考えたらそうなるのか説明して下さい」
黒こげになって這々の体で逃げ帰ったダンに、同じく黒こげになったシャラがジト目で詰め寄った。
「……確かに、ノリと勢いだけで行動してしまった感がありますが……ふうむ」
アフロのままカッコつけて考え込むダン。普段だったら決まっていただろうが、今の彼ではギャグにしか見えない。
ややあって、彼は何かを思い付いたのかぽん、と手を叩いた。
「これはあれですか? もしかしたら格好とノリと勢いが派手なほど、作戦指揮能力は下降するという公式が成り立つと!? 論文にして発表すれば侵略業界に新風が巻き起こるかも知れませんね!」
「……もう好きにして下さい」
ちげえ、そういう事とは絶対ちげえ。そう思いながらも全ての気力が失われたシャラに、ツッコミを入れる余力などなかった。
後に、『侵略行動と装飾の相互関係』と銘打った論文が銀河の学会で発表され、一大センセーションを巻き起こしたとか起こさなかったとかいう話だが、詳細は定かではない。
「萬、萬! 今度からこの四大精霊をモチーフにしたスーツでまずは白兵戦から!」
「いえ、こちらの四聖獣をモチーフにした方が新しいのではないかと……」
「古式ゆかしきトランプをモチーフにしたものもご用意いたしました」
「お前らちょっとそこ座れ。正座だ」
どこか別なところにも、ちょっぴし影響が出たとかでないとか言う話だが、詳細は定かではない。定かでないったらない。
だめだこりゃー。
思い付いたが最後光の速さで仕上がった今回の話。
どうしてこうなったorz
本編とかもう一つとかそっちのけで何やってるんだろう自分……。