表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/35

思いつき短編 その1


※注 この話は鬼装天鎧バンカイザー本編とは関係ありません。

時間軸、人間関係、その他諸々がおかしくても気にしないように。


後某勇者王を知らないとわけが分からないと思います。見ていない人は予習必須。








「ふい~っと、すっきりした」

 

上級職員用宿舎の個室に備え付けのバスルームから出てきた萬は、タオルで頭を拭きながら部屋を横断する。キッチンの冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取りだして封を切り、一気に煽った。

 

訓練と任務漬けの日々の中、久々に休暇を翌日に控えた彼はまったりと夜を過ごしていた。こうしてだらだらと時間を過ごすのはいつぶりになるだろう。ともかく今夜は時間を気にする事もない。たまには滅多に見ないTVなんぞ見ながらのんびりと過ごしてみるかと備え付けのソファーベッドにどかりと身を預け、かなりしばらくぶりに電源を入れるTVのリモコンを操作し適当にチャンネルを選びながら再びボトルを傾けた。






ばばばっ、ばばばバンカイザー! ばっばっばばばばバンカイザー!


 




“その映像”が流れ出した瞬間、萬は思いっきり噴いた。











~思いつき短編その1・趣味人に金と権力と暇を与えてはいけないというお話~











「ンしいいいれええいいいはああ! どこだあああああ!」

 

扉を蹴破る勢いで、突然司令室に乱入してくる萬。

非常に珍しいことに、かなり激しく感情を顕わにしている。真っ赤に染まったその顔は、一見単に激怒しているだけのようにも見えるが。


「あら、どうしましたの? ご機嫌ななめのようですけど」

「ななめにもなるわ! つーかひっくり返るわ!」

 

丁度休憩していたのかのんびりと湯飲みを傾けていた蘭の元に詰め寄り、どかんと机に何かを叩き付ける。

画像記録用のメモリーチップ 。そのまま机に手を突き、ぎりぎりと歯を噛み鳴らして萬は蘭を睨み付けた。


「ちょーっと“この中身”について言いたいこととか聞きたいこととか山ほど……」

「ああ、その前に少し待って頂けますか? はずみ」

「はっ、丁度“お時間”にございます」

 

萬の言動をのらりと流して、はずみに何かを命ずる蘭。そう言う場合じゃないと食って掛かろうとした萬を手で制して、彼女は電源の入った壁のモニターに視線を向ける。

 

萬はもの凄く嫌な予感を覚えた。だってこの女、“もの凄くわくわくした顔で人の話なんか耳に入っていない”もの。

 

そして、“その映像”が流れ出す。


 




怒れ! 炎のTEOIW乗り。

紅い鎧に白銀の瞳。

腕に輝くエントリーギア。迫る理不尽砕くため。

今こそ立ち向かえ!

人の幸せ打ち砕く数多の侵略者を許せない。

ばばばっ、ばばばバンカイザー! ばっばっばばばばバンカイザー!

バーストモード、コンタクトだ。今だ双刃合一だ。

空、間、分、断!

「フォームデュランダル!」

必中、ひらめき、熱血、覚醒。

誕生! 無双の、爆炎の鬼神。

ぼくらの鬼装天鎧!

ばっばっばっばバ・ン・カ・イ・ザー!


これは、地球の未来を切り開く戦士達の物語である。


 




約30分後。


「ふう、今日もいい出来映えでしたわね」

 

つやつやと上気した、やたらと満足げな表情で蘭はうっとりと言う。

流れていたのはアニメ。セルとCGを芸術的なレベルで組み合わせ、これでもかという懲りようで制作されたそれはアクションもののロボットアニメだった。

熱く、激しい物語は近年まれに見る名作と言っても過言ではない。蘭は個人的にそう思っている。

 

ただ問題は。


「さ、お待たせしましたわ。今回は何用……って、あら? どうなさいましたの五体倒置で身を震わせて?」

 

目の前の床に突っ伏してぴくぴくいってる萬の姿を見て、蘭はきょとんと小首を傾げる。 

しばらく何事かと考えていた蘭であったが、やがて合点がいったという表情になってぽんと手を叩く。


「先のアニメに感動しましたのね? そこまで喜んで頂けると作らせた甲斐がありましたわ」

「ちげーよ! 喜んでねーよ! つーかやっぱりアンタが作らせたのかよ!」

 

ぐわばっと身を起こして即座にツッコミを入れる萬。もちろん今流れたのが、そしてメモリーチップに録画されているのがただのアニメであったなら彼もここまで激しく反応する事はなかっただろう。

では何が問題ななのかと言えば……まあすでに皆さん分かっていると思いますが。


「いつのまにこんなモン作りやがった! “オレとバンカイザーが主役のロボットアニメ”なんぞ!」

 

そう、なんかやたらと話とキャラクターが美化されてはいたが、それは間違いなくGOTUIを舞台にした萬の戦いの記録であった。

羞恥プレイもいいところである。いやさそれどころではない。披露宴の会場でもこんな恥ずかしいモノは見られないだろう。ネタにされている当人の心境はいかなるものか。穴があったら入りたいどころじゃねえ。

きしゃーと気勢を上げる萬だったが、蘭の方は何を言っているのかしらとのんびり構えている。


「まあいわゆる一つのプロバガンダと言うヤツですわ。良い題材ですし、子供とディープな趣味の方に訴えかけるにはもってこいでしょう?」

「なにその凄く狭い範囲へのアピール。つーかオレに話の一つの通してないってのはどういう事だ」

「あら何かリクエストがありましたの? 仕方ありませんわねヒロインとの親密度をもっと上げる方向で」

「超ちげえ! 許可とか取れっつってんだよ! 出さないけどな!」

 

萬の剣幕に、目を見開く蘭。


「なにゆえ!? ロボットアニメの主役と言えば殿方が一度は見る夢でしょう!?」

「どこの殿方だそんな趣味的な夢見んの!」

「父様は今でも憧れてますわ!」

「駄目じゃねーかGOTUI総司令!」

「まあTEIOWのマスター登録は澄まされておりますし、やろうと思えばいつでもパイロットになれるのですが」

「止めろよ全力で!」

 

いかんこいつら親の代からアレだ。心が萎えるがここで退いたら羞恥プレイが続いてしまう。お天道様の下を堂々と歩けるかどうかの瀬戸際なのだ。萬は気力を振り絞って立ち向かった。


「大体良いのかよ、あのOPテーマ宇宙開発公団を隠れ蓑にした防衛組織のテーマソングをもろパクってんじゃねーかよ」

 

勇者の王様いるんだこの世界。それはともかく確かに音楽関係の怖い人達が文句を言ってきそうな話ではあったが。


「問題ありませんわ。だってあの組織の最大支援者が天地堂ですもの」

「金にあかせやがったぞこの女!」

 

世の中の暗黒面をかいま見るような酷い話である。もちろんそれだけでは終わっていない。


「まあいい、千歩、いや億歩譲ったとしよう譲りたくないけど! ともかく話の内容だってかなり酷いじゃないかコレ! なんで毎回毎回ヒロインが窮地に陥って主人公が間一髪で助けに来てる! 一回しか憶えがないんですが!?」

 

ヒロインが誰をモデルにしているかは言うまでもない。ただ外見はともかく中身が美化されすぎだとだけは言っておく。決してたおやかな性格じゃないだろう誰かさんは。

まあそう言った文句に対しての返しも澄ましたもので。


「あら、毎回助けに来て下さるではありませんか。……わたくしの夢の中で」

「妄想までネタにしやがったああああ!?」

 

処置なし。天地堂 蘭は絶好調、その快進撃は留まるところを知らない。悪い方向に向かって。

と、不意に蘭は真剣な表情となった。


「本音が混ざった冗談はともかくとして……実際問題周囲の状況を鑑みてもイメージ戦略というのは大切ですわ。これはあくまでそのうちの一つ。多少趣味に走っている事は否定しませんけれど、GOTUIという組織の一員として協力して貰わねば困ります。それにあくまで実話を元にしたフィクションと銘打っているのですから、誇張表現が入るのは致し方のないこと。ある意味情報攪乱の効果も狙っていますから我慢して下さいな」

 

それにですね、そう言葉を続ける蘭は、少しはにかんで見せた。


「フィクションの中とは言え、惚れた男の格好良い姿を見続けたいと思うのは、いけませんかしら?」

 

女はずるいと萬は思う。不意打ちでそう言う態度を取られると困るではないか。分かっていてもどきりとせずにはいられない。

 

結局、彼は矛を収めるより仕方がなかった。

 

いつの時代も、惚れたら負けなのである。


 




その後、当然だがアニメの件は皆にばれた。しかし萬の前でその話題が上る事はなかったという。

その話が出そうになった途端、暗黒のオーラを背負って「三ヶ月……三ヶ月我慢さえすれば……」とぶつぶつ呟き出されたりすれば誰だって退く。自然とその話題はグランノア内での禁忌となっていった。萬も、そして周りの人間も、速く三ヶ月過ぎてくれと祈りまくっていたのはいうまでもない。

 

だが、皆知らなかった。

 

人気の高いアニメは再放送が行われる事もあるのだと。

 

そして、人気が高ければ続編が作られる可能性があるという事を。

 

悪夢はまだ、終わらない。


 




めでたくなしめでたくなし。






   


某勇者王を見てたら思い付いた話。替え歌とかダメだな自分。

あとすでに相思相愛っぽい本編無視仕様。気にしたら負けだ、自分が。


長々と引っ張っておいて一発目がこんなん。まことに申し訳ない。

果たして次はあるんでしょーか?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ