超外伝・聖夜に鳴り響くは福音か終焉の喇叭か。
※このお話は鬼装天鎧バンカイザー本編ストーリーには一切関係ありません。つー事で多少ナニかが壊れていても気にしないよーに。
「はあ? 特殊任務?」
司令室に呼び出されたチームインペリアル。そこで下された命に対して、萬が素っ頓狂な声で返事を返す。
「ええ、この年末のクソ忙しい時期に面倒な事ではありますが、やってくださいませんかしら」
いつものごとく澄ました顔――に見えて、額にぶっといお怒りマークを浮かべた蘭が、苛立ちを隠そうともせずに言い放った。
時は暮れも押し迫った十二月某日。戦時中であるとは言え余裕のある箇所は一年を終わらせ新年を迎えるための準備を着々と進めている、そんな時期。一応GOTUIもそのための準備をささやかながら整え、小規模ではあるがパーティやイベントなどが行われる予定である。
そんな状況での特殊任務。さては空気を読まない宇宙勢力が何やら画策したかと気を引き締める萬たちだったが――
「今度の任務に、TEIOWは使いません」
――などと宣言され、訝しげな表情で顔を見合わせる。それを気にした様子もなく、どこか不機嫌な表情のまま蘭は言う。
「その代わりと言ってはなんですが……“これ”を使って頂きますわ」
蘭の合図を待って、やいばとはずみが“あるもの”を四人に手渡す。
萬の表情が盛大に引きつった。
寒風が吹き抜けつつも、柔らかい光で満たされどこか暖かい空気が流れる歓楽街。
その中を歩く結構大所帯な男女の姿があった。
「グランノアん中じゃ分からなかったけど、やっぱ外寒みいわ」
ダッフルコートの襟を弄り白い息を吐きながら、私服姿のライアンが愚痴る。
「だらしないわねえ、鍛え方が足りないんじゃない?」
その傍らで、微かに笑いを含んだ声でからかうように言うのは、これまた私服姿のパトリシア。
「なんてーか、自然に寄り添ってるよねあの二人」
「この先の展開、読めるよな」
二人のやや後ろで肩を竦めているのはフェイとユージン。どこかげんなりした風の彼らであるが、その雰囲気を吹き飛ばすかのような調子で掛けられる声があった。
「まあまあ、折角こんな時に休暇取れたんですし、そうふて腐れないで」
「そうよ? 楽しまないと損じゃない。こんな綺麗所が揃っているんだし」
姦しく二人を囲むのは、パトリシアと同じ小隊の魔女見習たち。無論揃ってちょっとおめかしした私服姿。
きゃっきゃと楽しそうにまとわりつくその様子をさらに後方で頭を振りながら眺めているのはターナ。
「呑気なものだわ。こんな事してる余裕があるのかしら」
「いやちゃんと休暇は取っているから問題はないんじゃないかい? ……それより全く関係ない別組織のボクがこの場にいるのは色々と納得いかないんだが……」
ターナの隣でどうしてこうなったと言わんばかりの態度で首を傾げているのは、作者もすっかり忘れていた存在であるカンパリスン。いやホント、なんでコイツがここにいるのだろう。
「ご都合主義ってヤツなんでしょ。外伝だからってテキトーぶっこいてんのよ誰かが」
「遠慮なくぶっちゃけたよこの子!?」
……さて、なぜコイツらがそろってここにいるのかと言えば、今日この日がクリスマスイブで全員纏めて休暇が取れたので、折角出し皆で出かけようと意気投合したからである。まあ色々とおかしい話でではあるが、それこそご都合主義って事で納得して頂きたい。
「しゃらっとスルーされた上に開き直られた!?」
「気にしたら負けよ多分。何にかは分からないけど」
最早何か色々と諦めたターナの様子を見て、いいのかなあと戸惑うカンパリスン。どうにも本編と違って至極真っ当……と言うかツッコミ役に成り下がっていた。
「ま、たまにはいいじゃねえか。羽目を外せるのはこんな時しかないんだぜ?」
「そうそう、外伝なんだからちょっとくらいキャラクターが変わってても問題なしってね?」
「うわーこの人たちなんか微妙にムカツクね」
「浮かれすぎだな確かに。……後で酷い目に遭わなきゃいいが」
「はいそこおどろ線を背負わない!」
「もー、自分達だってこうやって可愛い女の子に囲まれてるんだから妬かない妬かない」
『うんうん』
「……まあいいけどね。回りもみんな似たようなものだし」
「いいのかなあ。……と、とりあえずそうだな、ボクがいい店を知っているからそこで揃って食事でも……」
引きつった笑顔ながらもカンパリスンが仕切ろうとしたその時、彼方から何か騒々しい音が響いてきた。
浮かれてはいてもそこは流石に軍事訓練を受けた者達。咄嗟に散開して警戒態勢に移るが。
彼方から集団で現れた者達の姿を見て、全員が凍った。
「悪い゛子ばい゛ねがあああああ! 聖なる夜に、いちゃいちゃしとる不埒な男女はい゛ねがああああ!?」
響くだみ声。
ホッケーマスクや三角の頭巾で顔を隠し、手には釘バットやチェーンソウなど凶悪な得物。
おどろおどろしいその集団はところ構わず周囲を破壊しながら行軍を行っている。
異様なその光景に息を飲むGOTUIの若手。だがそれは脅威を感じているのではなくどちらかと言えば……。
「待て! これ以上の狼藉はこのボク……カンパリスン・アブ・ジクトが許さない! 即刻武器を捨てて投降したまえ! でなければ実力を持って諸君を鎮圧する!」
やっぱりこの男は基本的に馬鹿だった。その行動は一見勇敢にも見えるだろうが、どう見ても真っ当どころか暴徒としか見えない連中相手に、丸腰でどう立ち向かおうというのか。多分義憤だけで行動に移ったのだろうが考えなしにもほどがある。
カンパリスンの姿を認識したのか、謎の暴徒たちの動きが弛み、中でもひときわ大きな体格を誇り、鉄仮面で顔を隠した人物が前へと進み出る。どうやらこの集団のリーダー格らしい。
「ほう……我らに抵抗しようというその意気や良し、だが……」
仮面の下の目が、ぎぬろとカンパリスンたちを睥睨する。瞳の中で、何やら妖しげな光が強まった。
「貴様らごときが、我らを止められるとも?」
『いやこの人だけだし、やる気あんの』
「酷おっ!?」
一斉に手をぱたぱた振って私たち関わり合いになりたくありませんと態度で示すGOTUIしたっぱーず。カンパリスンは泡を食って彼らに詰め寄った。
「いや休暇中とは言えその態度はどーかとおにいさん思うんですよ!? 一応こう、人類の守護者的なアレとかナニとかでいきり立って一般市民を護ろうとかそういうシーンでしょうねえアナタ!?」
「落ち着けよキャラ崩壊してんぞ? 仕事外で厄介事に首突っ込んだってしょうがなかろ。それに……」
詰め寄られたライアンは、どこか達観したような顔でこう言った。
「あんなしょうもない連中に、シリアスになってたまるかい」
「しょうもない連中とは、吠えてくれる!」
ライアンの言葉を聞きとがめた鉄仮面が怒気を膨らませる。慌てて対峙し直すカンパリスンだったが、したぱーずは呑気なもの。飯喰った後どうする~カラオケかあ~とか状況を完全に無視した会話を繰り広げていた。
びきりと鉄仮面のこめかみ辺りからいかにも勘に障ったぞコラといった音が響く。周囲の覆面たちも同様、血走った目でぞろぞろと集まり迫り来る。
「くくく、よかろう。貴様たちには極上の恐怖を味あわせてくれる。この我々……」
シリアスな顔でごくりと唾を飲むのはカンパリスンだけ。無論最初からオチが読めてる残りの面々は付き合ってられねえと言った風情だ。
「……【(K)クリスマスにいちゃいちゃする(K)クソ忌々しいリア充どもを(K)強襲する友の会の団】、人呼んでKKK団が、正義の鉄槌を喰らわせてくれるわ!」
カンパリスンの目が点になった。緊迫した空気が一気にダメエアーへと成り下がる。
とりあえずカンパリスンにできたのは、呆然としながらもツッコミを入れる事だけだった。
「……クリスマスのスペルの頭は、Kじゃありませんよ?」
「だまらっしゃいこのイケメンが!」
キレられた。なるほど真っ当に相手したくはない。こいつらすごい馬鹿だ。空気が読めないことに定評があるカンパリスンでも、なぜライアンたちが真っ当に相手をしようとしないかが良く分かった。
ギャグじゃねえかこの話。
あーもーどーしたもんでしょと頭を抱えるカンパリスンを見ておののいたとでも思ったのか、げははははと下品な笑い声を上げて鉄仮面は吠える。
「恐れろ! 怯め! そして滅び行くが……」
鉄仮面は最後まで台詞を言い終える事ができなかった。なぜならその前に、横合いから叩き込まれた何かに吹っ飛ばされたからだ。
それは暴徒鎮圧用のラバーボールスラッグ弾。しかしその大きさが尋常ではない。砲丸くらいあるそれは、ラバーとは言え直撃したら骨が折れるでは済まないはずだ。次々と飛来する弾丸と、“真空の刃とか気の塊とか”に為す術もなく吹っ飛ばされていく暴徒たち。ぽかんとその光景を見やっていたカンパリスンの耳に、攻撃が叩き込まれてきた方向から聞き覚えのある声が届いた。
「よーしこれでこの辺はオッケーだな。ちゃっちゃと次行くぞ、次」
見やればそこには4つの影がある。
伊達眼鏡をかけてライフルを構えたサンタ。
筋骨隆々とした、威風堂々と腕組みしているサンタ。
大太刀担いだミニスカサンタ。
そしてカートリッジタイプの連射式バズーカを袋に押し込もうとしている、妙にやさぐれたサンタ。
「……って、なにしてんだ萬?」
目が点になった状態で、ライアンがやさぐれたサンタに問い掛ける。が、サンタは至極面倒臭そうに頭を振ってこう応えた。
「あ~、今のオレは八戸出 萬じゃない。とりあえずレッドサンタという事で」
「で、自分がローテサンタ」
「ワシが赤サンタ」
「紅サンタだよ~♪」
そう名乗った4人は、適度にポーズを決めて唱和する。
『幸せ運ぶ四凶星、聖夜戦隊サンタレンジャー』
ひゅう、と冷たい風が吹き抜けた。
「良く聞いたら思いっきり不吉な名乗りじゃないか」
「つーか全員赤いぞオイ」
げんなりした顔でツッコミ入れるフェイとユージン。それに対して萬――じゃなかった、レッドサンタは服の襟辺りを弄りつつ応える。
「ああ、最初は一応色分けしてあったんだがな…………返り血で」
『待てええええええ!?』
不穏な台詞に全員がツッコんだ。レッドサンタはしかめっ面になって、背後で警察に連行されていく暴徒たちを指す。
「しょーがねえだろこの馬鹿ども全国規模で展開してるんだし。容赦してる余裕なんざねっつの。……ったく、なんでこんなあほな仕事がGOTUIに回ってくんだよ」
「でも生身で人シバきまわせるしのお」
「峰打ちでも骨を砕く感覚とかがこう、えもしれぬ快楽を……」
「黙ってろバトルモンガーども。とにかくそういう事でだ、オレたちゃ忙しいんで行くぞ。休暇中に邪魔したな」
ぢゃ、と背中向きで手を振りながら、やさぐれサンタとその仲間たちは去っていった。後に残るは呆然とした若者たちのみ。
「…………クリスマスって、ボクたちが思っている以上に色々あるんだなあ…………」
「気にしたら負けよきっと。どうやったら勝てるのかは全然分からないけど」
カンパリスンとターナの声が、虚しく夜空へと溶けて消えた。
「ふううううう、何でこんなに忙しいんですの!? 本当だったら今頃萬と一緒にディナーとしゃれ込んでいるはずでしたのにいい!」
半泣きになりながら書類の山と格闘しているのは言うまでもなく蘭とその従者たち。何故だかクリスマス直前になって急ぎの仕事がこれでもかってくらいに舞い込んできたのだ。
「うううう、政府からチームインペリアル名指しで暴徒鎮圧の仕事入ってくるし、なんですの厄日ですの!? 責任者出てきて下さいませ!!」
「ふぁ、ふぁいとです蘭様。あと三分の二くらいです!」
「た、たかだか部屋を埋めつくさん程度の書類の山、ものの数では……数では……」
「ふえええええん!」
なお、これらの仕事と暴徒鎮圧の任務が、過保護な父親による横槍だと蘭が知るのは数時間後。
彼女は本気で暴れ、総本部を半壊させかけたらしいが、まあどうでもいい話である。
ちなみに任務を終えて帰ってきた萬にラーメン奢られてころりと機嫌を直したらしいが、これもまたどうでもいい話である。
山もオチも意味もなく終われ。
構想三十秒。
執筆時間半日。
クリスマス目前で不意に思い付いて突貫工事で仕上げました外伝、いかがだったでしょうか。
多分これが今年最後の投稿ですいいのかそれで緋松 節!
もう一方は結局今年いっぱい放置か緋松 節!
反省はしているが次に生かされるかは分からない。
とにもかくにも皆様、メリクリ&良いお年を。




