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12・天地堂 後編


 




数多の診察項目をクリアし、やっとの事でダンは医療施設から解放された。

 

ごきごきと肩を鳴らしながらふむと一息。ふっと遠い眼差しになってぽつりと一言呟いた。


「…………逃げるか」

「逃がすと思っているのですか」

 

いつの間にか背後に現れ、がしりとダンの肩を掴むシャラ。目は据わり、額には青筋。どうやら相当に怒り狂っておられるようだ。

だらだらと汗を流し捲りながら、ダンは引きつった笑みを背後に向けた。


「いえあの、歴史上の人物でニゲルカ・ココワという人物がいらっしゃいましてですね……」

「この宇宙では実際いそうな名前で誤魔化せるとでも?」

「……ごめんなさい私が悪うございました」

 

即座に頭を下げる。土下座という概念があったらやりかねない卑屈っぷりだった。

もちろんそんな事では怒りを収められないシャラは無言でダンの襟首を掴み、そのまま彼を引きずりながら移動を開始する。「ちょ、待った……」とかなんとか言うダンの抗議は無視。少しは引っ張り回される気持ちを味わえばいいのだ。憤懣やるかたないと言った態度を保ったまま、彼女はダンが聞いているかどうかも構わずに一方的な言葉を叩き付ける。


「怒られるのがイヤならば最初からやらないでください。まあどうせ自分なんかがいくら心配したところで毛ほども気にかけないのでしょう貴方は。いつ死んでもいい覚悟ができているのと本当に死ぬのとは違うのですよ? いくら後進に任せておける準備が整っているからとは言ってもまだまだやって貰わねばならない事が山ほどあるのですから。……最低でも今回の戦が片付くまでは死んで貰ったら困ります」

 

結局のところ、彼女は最後の言葉が言いたいだけだった。ダンが無茶をするのは毎回の事。そのたびに彼女はこう言う。この戦が終わるまでは死ぬなと。

 

そして、ダンは行動で――確実に生き残る事でそれに応えてきた。

 

彼らには彼らにしか分からない繋がりというものがある。それはきっと、愛とかそう言ったものではない、死地を共にした者達だけが分かり合える何かだろう。

 

まあ怒った様子を見せながらも、怒りとは別の形で頬を微かに紅く染めているシャラが内心どう思っているかは別問題として、彼らカダン傭兵団の絆は周囲が思っているより遙かに強い。ダンを中核とした家族――いや、“狂気という名の意思で統一された”一個の群体生物に近いのかも知れない。

要するにお互い分かってやっているのだ。どう言っても止まらない時には止められないと。

 

それほどの敵。それほどの、極上の獲物。

 

アレを倒しきらなければこの戦は負ける。戦術で戦略上の不利を塗り替える事は不可能とは言わないが難しい。しかしアレはそれを為し遂げられる存在だ。その上今一歩のところまで追い詰めておいてなお、隠し球を持っていた。次に相対する事があればさらに脅威度を増しているのは間違いない。

 

それに……個人的には“食い足りない。”あの強敵との戦いを心ゆくまで味わいたい。そんな獣の本性が疼く。


何という星だろう。なんという存在を生み出してくれたのだろう。生憎神という存在を信じてはいないダンであったが、この邂逅の機会を与えてくれた事にだけは感謝してやってもいいと思っていた。敵対することがあれば3秒ほど逃げる時間をくれてやろうかと思うくらいには。

 

だが……今度動く時には熱く滾る思いを封じなければならないだろう。

 

なぜならば自分達だけではない、依頼者にして盟友とも呼べる存在であるドコドの、そして彼が牛耳る勢力の命運がかかっているのだから。


「……【ユニット】の準備は整ったかい?」

 

首根っこを掴まれたままだったダンが、急に真面目な 声で問う。シャラは立ち止まり、手を放して応えた。


「定数は揃いました。機能チェックも終了。いつでも打ち込めます」

「では……次のミッションはいつでも行えるという事だね」

 

にい、と嗤って埃を払いながら立ち上がる。次のミッションではTEIOWと当たる可能性は少ない。個人的には惜しいとも思うが、どのみちいずれ再びかち合う相手だ。まずは起死回生の一打とも言えるミッションを終わらせてから。決着はその後でいくらでも付けられる。


「さて、それじゃあくとしますか」

 

虚空を仰ぎ見る。その心眼が見据えるのは蒼き星。

 

数時間後、ダン・ダ・カダンが提唱し指揮を執る侵攻作戦が発動する。

 

オペレーション・フェンリル。

 

神をも喰い殺す獣の牙が、地球を狙う。


 










火が消えたような、という表現はこういう時に使うのだろう。

 

表面上は全く変化がないが態度の端々に精細を欠く蘭の様子を見ながら、ジェフリーはやれやれと頭を振った。

 

萬が意識を失ってから、五日が過ぎていた。あいも変わらすGOTUI周辺は騒がしく、グランノアはてんてこ舞い。だがその騒動も終結に向かい始めている。

政治、経済。そして暴力。全ての戦場で、GOTUIは辛かったり甘かったり様々な形で勝利を収めてきた。対抗勢力の半分以上が駆逐され、残りも手を引いたり地下に潜ったりと敗走を始めている。地球圏での混乱は、収まりつつあると言っても良い。

 

まるで未来を読んでいるかのような手際。考えてみれば設立時の課程からして先を読み手を回し、巧妙な手腕で勢力を拡大し続けていた。ブレーンは神がかったほどに優秀なのだろう。でなければこうもとんとん拍子で上り詰める事などできはしない。

 

ともかくまだ片付けなければならない事は多いが、山場は超えた。GOTUIの職員たちも落ち着きを取り戻し始めている。

 

ただ、その光景の中に萬だけがいない。


(それだけで、こうも調子を狂わされるとはなあ)

 

いくら優秀とは言ってもやはりまだ少女であったという事なのだろうと、一人納得するジェフリー。

 

不安はない。むしろ安心したというのが正直な感想だった。

 

萬を見出す前の彼女は、表面上にこそ見せなかったがどこか冷酷な、人の血が通っていないような気配を内包していた。部下を死地に送り込む指揮官としては優秀であったとも言えるが、それでは人はついてこない。そんな彼女が他者を欺くためではなく本当の意味で表情豊かになり人間らしさを表すようになったのは、やはり萬の影響が大きかったのだろう。時折自分自身の感情を持て余すようなところもあったのはご愛敬の範囲だ。仕事はちゃんと片付けていたのだし。

今の彼女であれば、無慈悲なだけの指揮を執る事はあるまい。しかし。

 

それも萬が無事復帰しなければどうなるか。


今後戦力とならなくても意識を取り戻せば何とでもなる。だがそうでなければ。

果たして元の冷酷な指揮官に戻るのか。それとも……。


(どちらにしろ、八戸出 萬次第という事か)

 

暗澹たる思いで、ふんと鼻を鳴らすジェフリー。

彼の推測は半分だけ当たっていた。確かに萬の身に何かあれば蘭の心は大きくかき乱される事であろうが、それ以前に彼女は萬は必ず立ち上がってくると信じて疑っていない。それは信頼と言うよりもそう祈っていると言い換えても良かったが、ともかく萬の復帰に対して心配こそしているものの不安を感じているわけではない。

 

彼女が不安に思っているのは全く別の事である。

 

出生、存在意義。その他諸々自身の、天地堂 蘭の全てを知られてしまう事。

 

ただそれだけを、彼女は恐れていた。











「つまりアレか? 天地堂の一族はここから世界を“識る”のが目的の集団だと?」

「大雑把に言うと、その通りですね」

 

眉唾だとでも言いたげな表情で問う萬に、ベルザンディは唇の端を歪めた表情のままさらりと応えた。


「正確に言うとそれ事態は目的ではなくあくまで手段。天地堂内部にも様々な思惑がありますが、まずはここに接触する事が大前提なのですよ。そしてここに辿り着いた者は、“これ”を読みとる役目を担う事となります」

 

光り輝き伸び続ける根。その中に幾つか毛色の違うラインがある。その一つにベルザンディが触れると、様々な映像、情報が萬の眼前に現れ流れていく。


「これらのラインは天地堂の行動指針……通称チャートと呼ばれるものです。過去から現在に至る全ての情報、そしてそれらから予測される、“天地堂にとって最大の利益を得られる行動”それが示されている行動予定表のようなもの。高次元情報集積帯から引き出される情報を元に組み上げられるそれは、ほぼ100%に近い精度の的中率を誇る……“はず”でした」

 

次々と流れ込む情報。ああ、と萬は得心する。これは、この感覚はあの時と――リンゲージドライブが過剰駆動した時に見た、あの感覚と同じだ。なるほど、世界の全てという無限の情報を一気に叩き込まれたからあのような現象が起こったのか。そりゃ耐えられるはずもない、意識くらい軽く吹っ飛ぶ。よく脳がパンクしなかったものだ。

天地堂という仲介機構の重要性を身に染みて実感する。あの情報の奔流の中に何の用意もなく飛び込んだりしたら、人間の自我なんぞ即座に消え失せるだろう。よくぞここに辿り着いたものだ。運が良かったなどと言うものではない、奇跡と言って過言ではないレベルの話だった。


「……って、おい、これは?」

 

時間を遡って流れるままであった記録が、突如ある場面で停止する。

 

そこは小さな、朽ち果てかけた公園。

 

夕暮れの中、そこで対峙しているのは精一杯虚勢を張る三人の少女と、ずたぼろになった一人の少年。少女たちの側から俯瞰のようになった光景の中、少年が何かを叫んでよろよろと歩み寄りすくみ上がった中央の少女の頬に撫でるような一撃を入れて背後に消える。

 

どこかで見たようなシチュエーションだった。


つーか思いっきり心当たりがあった。


「この時。この少年と遭遇した天地堂 蘭が受けた影響。ここから天地堂一族のチャートは歪んでいく事に……え? あ、あら?」

 

語り掛けたところで萬本人からバックロードされる記憶に気付くベルザンディ。おいちょっとまさかと後頭部にでっかい汗を流しながら、高次元情報集積帯からダウンロードされた情報の処理、記録を担当している人工精霊【ウルズ】にアクセス。萬がこれまで辿ってきた行動記録を洗い出し本人の記憶と照らし合わせ確認する。

ぎぎぎい、と軋むような音を立てながら引きつった表情で萬へと向き直る。天地堂の総力を挙げても完全な未来予測など不可能、小さな事で予定など覆るといったような内容の話をしようとか考えていた事は頭の中からすぽーんと抜け落ちた。何かの間違いだ、単なる人工知能では絶対に有り得ない信じがたい思いで萬の表情を見やれば。

 

彼は腕を組み、だらだらと汗を流しながらそっぽを向いていた。

 

彼と意識が同調しているジェスターも、そっぽ向いてだらだらと汗を流していた。

 

もう全員悟っていた。

 

この時あほな少年がぶん殴ったのは蘭ではなく、“天地堂が見据えていた未来そのものだった”という事に。


「あ……あ……」

 

製造されてから今で一度もない、頭が真っ白になると言う状態を経験しているベルザンディは、激情のまま吠える。


「あんたなんばしよっとですかあああ!?」

「ふ、不可抗力だああああ!?」


 










しばらくの後。

 

ぜーはーぜーはと肩で息をしている三人。この場ではただの映像イメージに過ぎないはずなのだが、精神的な徒労感は現れるものなのだろう。

荒い息の中、最初に発言したのは萬だった。


「よ……よく考えてみたらよ、世界中の記録が分かるんなら、この事も最初から分かってたんじゃねえのか?」

 

同じく息を荒げながら、ええい面倒なとでも言いたげな表情でベルザンディは応える。


「全ての記憶を識るのと、全ての記憶を吟味するのとは違うのですよ。他の接触者の脳がパンクする危険を犯してまでこの少年の身元――貴方の過去を洗い出す必要性はなかったと判断され、一般的な調査方法で追跡されたわけなんですが……全部徒労に終わるはずですよコレ」

「ふ……ふふふ、そうだよなあ……なんか怪しい太古から復活した魔法使いとやらの変な実験に生け贄にされかけて地球の反対側まで吹っ飛ばされたり、怪しい地下組織に攫われて潜水艦で北極の氷の下にある秘密基地に連れ込まれたり、某中華系マフィアに捕らえられてコンテナの底に詰められて大陸間横断したりしたからなあ……」

 

良く生きてるなこの人と、半ば呆れながら萬からあふれ出す記憶を読みとるベルザンディ。

見たところどういうわけだか萬の周囲には運の揺り返し――“不運と悪運が交互に訪れる”という現象が起こっている。何か特殊な血筋というわけでもなく、突然変異といったわけでもないのにどうしてそのような現象が起こるのかは全く不明だ。強いて言うならば、“ただ単にとことん運が悪かった”としか言いようがない。


「ふむ? しかし今現在はこれ程はっきりと過去が読めるではないか。先ほどの話と矛盾していないか?」

 

あっさり思考を切り替えて周囲のメモリーを確認していた(流石に電脳の人工精霊だけあってもうコツを掴んだようだ)ジェスターが問い掛ける。ベルザンディは頭を振りながら応えた。


「それは萬さん本人から流れ出る記憶に引っ張られたという理由と、後一つ、あなた方の天地堂との接触率が過去類を見ないほどに高いレベルにあるから、という理由が挙げられます」 


さきの萬の経験から分かるとおり、高位次元情報集積帯との接触は危険を伴う。天地堂を介していてもそれは同じ事。非人道的な面もある天地堂一族といえど数少ない接触者を使い潰すわけにもいかず、天地堂へのアクセスは慎重に慎重を重ねて行われてきた。偶然とは言えその課程をすぽーんと飛び越えて一気にこの領域までたどり着いたのだ。得られる情報の量、密度は今までとは比較にならない。それはその気になれば人類一人一人の人生が辿れるほどのものだ。


「……ゆえにあなた方の重要性は一気に跳ね上がりました。そうでなくても萬さん、貴方が天地堂関係と接触するたびに何が起こったか。……お分かりに、なりますね?」

 

最早問い質すまでもない。意識を傾けると同時に情報が流れ込む。

 

まず最初から、あの一撃から全ては歪み始めた。元々GOTUIという“天地堂一族の外敵を叩き潰すための暴力機関”を統率するために、最高の遺伝子操作技術でもって生み出されたデザインチャイルドである蘭に萬が与えた影響。それは心的外傷トラウマであると同時に一種の羨望のようなものでもある、複雑なものだった。よほどの事では動じないように育てられてきたはずの蘭が精神的な安定感をなくし、彼女の育成は見直しを計らざるを得なくなる。同時に彼女に影響を与えた人物――萬の捜索が平行して始められたわけだが、結果はさきの通り。成果は全く現れなかった。

その事実が疑心暗鬼を呼んだ。つまり蘭に接触した少年は偶発的に現れたのではなく、最初から蘭に影響を与えるべく接触したどこかの手の者。そういう可能性に行き当たったのだ。それはすなわち、天地堂のチャート読みとるほどの能力――天地堂と互角の情報習得、推測能力がある存在が背後にあるという事だと、一族の幹部は考えた。とんでもない勘違いではあるが、当事者から見ればそうとしか考えられないほどに足跡が辿れなかったのだ。萬という少年は。

ともかく情報戦に置いて天地堂一族と互角の何者かが敵対していると仮定され、一族はその方針をねじ曲げるしかなかった。最低でもGOTUIがそのまま単なる自己防衛のためだけに存在していては後手に回る。そのように判断が下されGOTUIに関するチャートは“最適である事”を半ば無視して大幅に変更された。


防御的性質から攻勢の性質へ。ただ自身を守るために集積された技術は、勢力を拡大するために大胆に用いられる。結果公的機関とのパイプが太くなり、反面防衛組織としての活動範囲を大幅に広げなくてはならなくなる。

組織編成自体も、身内だけでは手が回らなくなってきたので情報の流失という危険性を押して外部からの人材を大量に招き入れる事になる。結果天地堂一族本体との接触は減らされ防衛機関として独立が計られる事となった。その分組織としての自由度は上がる。

 

そして……その切り札たる存在も、変わらざるを得なかった。

 

本来TEIOWは、“リンゲージドライブを用いる事を前提として設計されている。”通常のパイロットでは耐えられない機体の乗り手として想定されていたのは、最高レベルのデザインチャイルドである蘭と、各種特殊能力を持つ選抜された人間との遺伝子を組み合わせた強化クローン兵士たち――“使い潰す事を前提とした量産パイロット”であった。以前のGOTUIであれば躊躇なくそれは実行されたであろうが、防衛機関として表に出始めた以上非人道的な手段を使うわけにはいかない。結局リンゲージドライブの採用は見送られて機体は再設計され、遺伝子提供源として選抜されていた特殊能力者の中から、最も機体に適した人間がパイロットの候補として選び直された。


TX-03(リンカイザー)まではそれでよかった。しかしシンボリックマシンとして蘭が駆る予定となったバンカイザー――TX-04が再設計される時点で再び待ったがかかる。

 

問題となったのは、蘭が子供のケンカだったとは言え心理的な敗北を喫したという事だ。要するに蘭を倒せるかも知れない者が存在する可能性は常にあるという事を考慮に入れなければならないという話である。シンボリックとして祭り上げられる以上、蘭が敗北する事は対外戦略的に好ましくない。そして最高傑作とも言える彼女の代理となることは、“予備パーツ”として生み出された従者――留之姉妹を持ってしても不可能に近い。

であれば蘭には指揮に専念させ、パイロットは別な人物――“蘭を倒せる可能性を持つ人間を、さらに倒せる可能性を持つ”人物を選ぶべきだという判断が下された。この時GOTUI 上層部は総合力で蘭に勝る人間が選ばれるだろうと想定し、それを元にチャートを組み直したのだが、人工知能たちから選抜されたのはご存じの通り八戸出 萬という生き汚い以外には取り柄のない青年。巡り巡って再び天地堂関係と接触する事となった青年は、TEIOWパイロットしての枠を超えチャートを、GOTUIを、天地堂を引っかき回す事となる。

 

彼が選ばれてから蘭たちは想定外とも思える変化を始めるわ(この時蘭は萬が自分に一発入れた少年のなれの果てだと気付いたが、上層部に報告を入れなかった。これも変化の一つだ)オミットしたはずのリンゲージドライブを無理矢理組み上げるわ、挙げ句の果てに一族の苦労を台無しにする形で一気に天地堂の深部まで到達するわと、本人全く自覚無く好き放題をやらかしまくった。

 

最早天地堂による未来予測は不確定となった。その要因となった萬が天地堂の最奥まで到るとは、皮肉以外の何者でもない。


「……もしかしたら、人工精霊(われわれ)が貴方を選んだのは、微かながらも天地堂からの情報流失があったからかもしれませんね。能力だけでは計れない、全てを覆すワイルドカードのごとき存在。それがGOTUIには――これからの天地堂には必要だと、そう本能的に判断したのかも」

「えらい買いかぶりだなあ。……つーかオレの不運に組織ごと巻き込まれただけじゃなかろか」

 

なんかあり得る話だなあと、萬はぽりぽり頭を掻く。途中で何か蘭や留之姉妹に関して重要な情報が流れていたような気がするが、萬はあっさりと流していた。

人の出生をどうこう言えるほど偉くもないし、第一世の中にはもっととんでもない生い立ちを持つ存在だって在る。“この程度の細かい事”なんぞ萬は欠片も気に留めてはいなかった。蘭の心配は完全に杞憂だったわけである。


「ともかく萬には天地堂を変えてしまった責任というものがある、という事だな?」

「有り体に言えばそういう事ですね」

 

そう言いつつも、その変化は悪い事ばかりではないと人工精霊たちは考える。GOTUIという組織が拡大するにつれ、天地堂一族にも変化が訪れた。天地堂というシステムのみに執着していた彼らは、外部に目を向けざるを得なくなり、そして様々な勢力と接触する羽目に陥った。ただ配下に収めるだけでなく、手を携えて協力しあう事を覚えた。自身が存続するためには他者を守ることも必要だと学んだ。

 

彼らは正義の味方ではない。利己的で身勝手な悪党の集団だ。だからこそ見識が広がったとき“自分達のために世界を守るべきだ”と判断した。“手段を選ぶ事”を覚えたのだ。

 

まあその分どっか愉快な人達に成り下がってしまったような感があるが、そこはご愛敬と言うヤツだ。そういう事にしておこう。


「どっちにしろ何をやるにしろ、このままじゃ埒が開かない。“起きる”ぞ、やり方を教えてくれ」

 

話は終わりだとばかりに流れをぶった切る萬。責任問題に関してはスルー。どっちみち後で問いつめられるのだ。今はまず現世に戻る事を考えなければならない。

決して話を誤魔化したつもりはない。


「……まあいいですけれど。まずはサーキットを安定化し、段階的に安全域まで持っていきましょう。幸いにして最高レベルの医療補助が入っているようですから萬さんの体力はまだ保ちます。負荷を限界まで抑え安全性を計った後……」

「いや、ともかく動けるようにするのを最優先だ。多少の負荷は構わない」

 

また無茶を言うと、ベルザンディは眉を顰めた。


「落ち着いて下さい。そんな事をすれば再び暴走する事こそないでしょうけど、機体のダメージが貴方に直接伝わるとかいった不都合を排除する事ができませんよ? 一応天地堂の重要人物となったのですから、少しは自重してもらわないと」

 

その言葉を萬は鼻で嗤う。


「立場が変われば現状が変わるってモンでもないだろうが。不完全になったとは言えチャートを見てんなら分かるだろ? “上の方にも斜め上のヤツがいる。”時間的な余裕なんざどこにもないさ」

 

それになと、萬の言葉は続く。


「周りが踏ん張ってるってのに、一人呑気に寝てるなんざあ……」

 

ああもう、とベルザンディは白旗を揚げた。この男はそういうヤツだった。理屈なんぞで留められるはずもない。彼女は頭を振って萬の言葉を遮り――


「分かりましたよ。格好悪いわけですね、そういうのは」

 

――にい、と笑った。


「分かればよろしい」

 

萬もまた、鏡で映したように不敵な笑いを浮かべる。

 

結局のところベルザンディ――ノルンも、萬の影響を受けまくっているのだ。

 

もしかしたら、萬が天地堂に到ったのは運命というやつなのかもしれない。

 

誰に聞いても否定するではあろうが。


 









空に大穴が空く。

 

大気圏上層部。何の前触れもなく無数に現れたそれから、巨大な楔のようなモノが出現し地表へと降り注いだ。

遅れて警報が鳴り渡る。


「大気圏上層部に空間転移反応! わ、惑星表層上ぎりぎりで超空間航法を!?」

 

まともに考えれば自殺行為どころの騒ぎではない。常識を逸した奇襲。理論上は可能だがその後が続くはずもない、減速等の関係で突入カプセルなどを用いたとしても強行降下の衝撃だけで中の人間が死んでしまうほどの無謀。ゆえに使うはずはないとハナから除外されてきた一手。


自動機械(オートマトン)群か!? だがこの数ならばまだ対処できる!」

 

最悪は、予想の斜め上を来る。

 

巨大なクレーターを穿ち地表に突き刺さる楔。

 

その周囲に広大な空間の歪みが発生する。

 

天を貫く回廊から現れるのは、無数の軍勢。突き刺さった楔はゲートシステムと同様の空間跳躍を内包したモノ。

 

地球に向けての侵攻上問題となるのは補給線の確保だった。例え地表に戦域が到達しても物資が届けられない、そのために瓦解した戦線も多い。であれば銃後から直接物資を送れる“門”を送り込めば。単純ではあるが恐るべき策をもって、ダン・ダ・カダンは地球に挑む。

 

決戦の火ぶたは、今斬って落された。











次回予告っ!






かつてない脅威が地球を襲う。

全身全霊をかけたダンの策に、やはり全身全霊で立ち向かうGOTUI。

蘭は、ゼンは、弦は、鈴は。そして萬は。

命が火花を散らし、魂と魂がぶつかり合う。その結果は。

次回鬼装天鎧バンカイザー第十三話『BANG』に、コンタクトっ!







  


ネタばらしの回。

さて次はクライマックスなのだろうか?






しかしどーしたもんでしょこのアクセス数。

いや滅茶苦茶嬉しいんですがごひいきに毎度。

皆様のおかげでぢみちに頑張らして頂いております。



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