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0・始まりの日

 





朽ち果てそうな小さい公園だった。

 

夕焼けの赤に染め上げられているそこは……地獄のような光景と化している。

 

倒れ伏す子供達。呻き声と鳴き声が場を満たす。

 

その光景を生み出したのは三人。二人は従者、揃いのエプロンドレスを身に纏い、ヘッドドレスを頭に付けた、鏡で映したかのごとく瓜二つな恐らく双子のメイドらしい少女達。そしてその二人を左右に従えた主が一人。背筋を伸ばし、腰に手を当て、王者のごとく威風堂々と立つゴスロリを纏った金髪の少女。

 

最初は、些細な事だった。乱暴な男の子達が自分達より弱い子供や小さな子供をこづいたり威嚇したりして追い立て、公園の一部を占有しようとしたのだ。

そこに颯爽と現れた三人は、救いの女神かとも思われた。しかしそれもつかの間、その少女達は余りにも過激で、容赦がなかった。

嵐のように少年達を蹂躙し、叩き伏せる。泣き喚こうが謝ろうが彼女らは止まらない。まるでその存在を消し去らんとするかの勢いで、暴れ回る。

他の子供達は早々に逃げ出し、止めようとした勇気ある者も先の少年達と同じ運命を辿った。

 

たった一人を除いて。


「まだ分かりませんの? 貴方ではわたくしに勝てないという事が」

 

年端もいかない少女のものとは思えない、確として冷静な言葉。だがそれは僅かに苛立ちのようなものを含んでいた。

その言葉を投げかけられたのは一人の少年。年頃は少女達と同じくらいだろうか、荒い息で呼吸をしながら少女達を睨め付けている。

よく見ればその身は満身創痍。全身の至る所に擦り傷や青あざができており、顔は見るも無惨に晴れ上がっている。足下もおぼつかず、立っているのもやっとの風情。だというのに少年の目は未だに死んでいない。叩き伏せられても投げ飛ばされても、彼は歯を食いしばり起き上がってくるのだ。

 

何が彼をそこまでさせるのか、少女達には理解できなかった。彼女らは力を持って生まれ、必要だと思われる時にはそれを躊躇わず振るえるよう育てられてきた。そうでないただの人間が、ここまでされて立ち上がってくる理由。そんな物があるはずもない。何よりも“自分達のやった事は間違っていないはずだ。”彼が自分達に立ち向かう必要などなにもない。

だが少年はゆっくりと、しかし確実に自分達の方へと向かってくる。その光景に、少女達は確かな苛立ちと――

 

僅かな恐怖を感じていた。

 

少女達はその年齢に添わないほど聡明であったが、感情面でも成熟しているとは言い難かった。そういったメンタリティな面では、同年代の子供達と大差ないと言って過言ではないだろう。ただそれを取り繕う術を知っているだけだ。だから隠す。虚勢を張って、威風堂々を装って、心が震えだそうとするのを。

 

ゴスロリ少女は再び口を開く。そろそろ終わりにしてやると、この少年の心もへし折ってみせると。自分自身を鼓舞しながら。


「良いでしょう、分からないと言うのであれば分かるまで何度でも――」

「関係……ねえ」

 

少女の言葉は途中で叩き斬られる。他でもない少年によって。

 

絞り出すような声。意識が朦朧とし始めているのか、呻くように途切れる。だがその声は少女達の耳に響き、その目に宿る光は彼女らを射抜く。


「……分かんねえよ……なんで……オレ……こんな事してんだ……ほっときゃ、良いのに……知らねえ……やつらなんか、どうだって……いいのに」

「!?」

 

どういう事だと少女達は驚愕する。てっきりこの少年は叩き伏せた者達の仲間だろうと思っていたのに。ならばなぜだ。なぜこの少年は見ず知らずに人間のためにここまでするのだ。

自分達の理解を完全に超える行動。こいつは、この目の前の生物はなんだ。少女達は今度こそ、恐怖に身を凍らせる。

分からないと言うのがこれ程怖い物だとは思わなかった。そう戦慄する少女達など知った風でもなく、「けどなあ……」と唸るように前置きした少年は――


「――――――――――――――!!」

 

咆吼するように言葉を吐いて、一気に駆け出し少女達へと躍りかかった。

 

先程までの会話、そしてその言葉に思考を奪われた少女達は反応できない。だめだ。なにも、何もできない。今までの人生で自分が学んできた全てが体からそっくり抜け出してしまったかのようだ。絶望と共にゴスロリ少女が唯一取れた行動は、“ただの女の子のように、身を縮ませて目をつぶる事だけだった。”

 

ぺちん。

 

己のみを吹き飛ばすほどの衝撃を覚悟した少女。その頬を打ったのは、痛みなどほとんど感じないような打撃。それだけであった。


「………………え?」

 

何が起こったのか理解できないまま、少女は恐る恐る目を開ける。

そこには、誰もいない。状況が理解できずに彼女は泡を食ったような表情で周囲を見回すが、件の少年の姿はまるで幻のごとく消え失せていた。

一体何が起こったのか、少女は呆然と立ちつくす。残されたのはすっかり人気がなくなった(他の子供達は皆逃げ出したようだ)小さな公園と、未だに必死になって目を閉じている己の従者二人のみ。

 

少女は気付かなかった。

 

自身の背後にあった落下防止用の金網柵が一部壊れていた事に。

 

その先は半ば崖のようになっており下には大きめの用水路が通っていた事に。


「ごぼがべごぼがべごぼがががーーーー!!」

 

そして、勢い余って柵から落っこちた少年が、溺れながら下流に流されている最中である事に。











この日、少女達の心に一つの楔が打ち込まれ、少年の艱難辛苦が始まった。







……ロボ物と銘打っときながらロボ欠片も出てこないよ!?


初めての人もそうでない人もこんにちわ、学名スキマ産業的物書きモドキ、緋松 節と申します。


このプロローグ的な話だけではちっとも分からないと思いますが、この作品はあくまでロボットアクションです。信じて下さい。ただ、平行してもう一本作品を投稿している関係上、更新間隔はおっそろしく長いと思いますので主役ロボはいつ登場するやら。詐欺だと罵られてもおかしくはないかと。


もしそれでも読んで下さるのであれば、気長に続きを待って頂けると有り難いです。


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