第1章 秘密の住処 第6話 進展
「滅された? え? え? 何言ってるんですか? ゲームの話でもしてるんですか」
「おい...お前。今なんて言った?」
「いや、ゲームの話ですか? そのなんとか国が滅されたのって」
「ゲームだと...... ふざけるな!! てめえ舐めた口を聞くのはいい加減にしろよ! なんとか国でもない!! アルパ王国だ!! 言い直せ!!」
ロバートの血管は破裂するのではないかというぐらい、いくつもの青筋を顔に浮き出しながら怒鳴り上げ和哉の胸ぐらに掴みかかった。
「んっ...」
和哉の身体は今現在、空中に足をばたつかしている。ロバートが胸ぐら掴んでいるため喉を圧迫されて声を出す以前に呼吸すらもままらない。
「ず...み.........ん」
何故謝罪をしているのか、呼吸もできないこの状況では意味はわからないが相手がキレてきたらとりあえず謝ってしまう、日本人の体質なのかもしれない。
ードカッー
「ハーハー。...すまない...流石にやりすぎたかもしれない。大丈夫か?」
大丈夫なわけないだろう、第一に、かもってなんだよ、死ぬとこだったぞ。やりすぎだろう。
正常に呼吸ができ脳に酸素が行き渡り正常に考えができるようになっていくにつれこの男への敵意が強いものになっていく。
それもしょうがない。何一つ状況が読み込めず、いきなり意味がわからない質問をされ会話は噛み合わず、そして急にキレてきたら胸ぐらを掴まれ殺されそうなのである。
だからといって相手は自分より身長が高いだけでなく身体はがっしりしていて片手で自分のことを持ち上げれるほどの筋肉量である。それに加え腰には剣付きときてる。どうしたって喧嘩して勝ち目はない。
「ふー...全て説明していただけませんか? 失礼があったなら謝りますが、怒らしてしまったわけも含め僕は何一つ理解ができていません。
昨日、僕らが目を覚ましたらあの森にいました。そこから水を探しに歩き出したらあの動物に遭遇。あなたと昨日のお姉さんに助けて貰え感謝を伝えたかったが言葉が通じずその後、殴られ気を失わされました。痛かった... というか今も痛い。
そして今日です、牢屋の中で朝を迎えていました。床硬かったですね。身体はバキバキです。起きるとすぐに貴方が来て僕をここまで連れて来たら最初まったく言葉が通じなかったのに急に日本語ペラペラときた。それだけでなく意味がわからない質問をされ最後はキレられ胸ぐらを掴まれた。
以上です! これが僕が昨日から今に至るまであったことです。
わからないことしかありませんが一つ質問です。絶対に答えてください。」
「あなたは誰なんですか? 」
和哉は自分に起きた出来事を昨日から受けた仕打ちへの苛立ちをぶつけながら伝えた。そしてこのわからないことが起き続ける状態でもこの目の前の男が一番の疑問だった。
誰なのか? 何故日本語が話せるのか? そして何故急に我を忘れるほど怒ったのか? 知りたいことは山積みだった。
しかしロバートは和哉の話に返事をするわけでも相槌を打つわけでもなく質問を返すわけでもなかった。ただ眉一つ動かさずに和哉に対して質問をした時と同じ無表情でいた。
会議室は二人の男が睨み合う膠着状態が続き、もし二人の無関係な人間がいたなら逃げ出してしまう程の重苦しい空気が流れている。まさに一触即発である。
そんな空気が数分続いていた。お互い視線を外さなかったが口を先に開いたのはロバートであった。
「...まったくお前の正体わからないがお前の言いたいことはわかった。そして聞きたいこともだ。俺は、ロバート・グリーグだ。周りからはロバートと呼ばれている。この国のアルパ王国第一騎士団副団長だった。お前の名はなんだ?」
(...だった?)
「--はい。武藤和哉といいます。... 昨日はあの動物から妹を救っていただきありがとうございました」
「ふっ。 そうか、武藤和哉というのか」
「そんな変な名前でしょうか?」
「いや、別に名前を笑ったわけではない。あの女はお前の妹か? 」
「そうですが、それが何か?」
「あの時救ったのはお前とお前の妹を救ったことになるがお前は妹を救ってくれてと言ったことが少々可笑しくてな」
「あの時、僕は自分が犠牲になって妹を逃す時間を稼ぐつもりでした。しかし僕が犠牲になったところで妹があれから逃げられた確信はなかったから妹を救ってくれてと言いました」
「お前が死ぬことは良かったのか?」
「もちろん良くありません。心から感謝しています。ただ...」
「ただ?」
「自分が殺されずにすんだことより、ゆめが...妹があそこで殺されずに生きていける確信が得れたことに感謝しました」
「お前は怖くなかったのか?あの時」
「怖かったですよ。でもそれよりも妹を助けたかったんですよ。兄ですから」
そう答えたとき和哉は、澄み切った笑顔だった。
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第7話も明日を予定しています。
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