第1章 秘密の住処 第3話 不思議の交差
和哉と夢が金髪の美女に殴られ気を失ってすぐに筋肉質の男は息も切らさず全速力で戻ってきた。身元不明な人間が二人倒れていたからである。
「おい! サリー! 何があった!? なんでこいつらは気を失って入る!?」
サリーの顔は引きつり怯えていた。男の声が何も聞こえていない。
「おい! サリー!! 俺を見ろ!!」
男はサリーという美女の肩をもち自分の方に顔が向くように回し、同じように声をかけるとサニーは虚ろな目が正常に戻った。
「あ、ロバート隊長...戻られましたか...」
正常に戻ったサニーであるがお化けを見た子供のように怯え震えている。
「いいか、ゆっくり呼吸しろ。--そして何があった? 答えてみろ」
スーハースーハー
静寂な森の中でサニーの息をする声だけが響きサニーはまだ震える声でゆっくり話し始めた。
「こ、この男が急に炎を発生させました。おそらく魔法だと思われます。なので私はこの二人は闇族のものだと思い気を失わせました。捕虜とし少しでも情報を得るべきです」
「闇族が我ら人の地域のこんな中心部分まで来るわけなかろう!!」
「私とてそう思います。しかしこの男は[実際に西洋で使われていた火の付け方 ]
です。魔法以外と考える方が難しいです。」
その話を聞いた、ロバートは鍛え抜かれた身体が震えるのを必死に我慢した。この話を聞いて震える姿を自分の部下に見せてしまうと自分の尊厳にかかわってしまう。
「わかった...お前が見たのはおそらく真実なのであろう...」
「はい、おそらく私の考えとしては闇族のものが我ら人間族から隠れこの地域にまで進入してきたのだとお思います」
しかしロバートには引っかかる思いがある
なぜこいつらはあのバイカ(和哉と夢を襲った動物のこと)から逃げていたんだ?
普通の闇族のものならあの動物は時間さえかければ無傷で倒せるはず。それに今回は二人もいて我らの領地にここまで進入できる手練れ。
ロバートはまだ怯える表情でこの得体の知れない二人を見るサニーに自分の考えを伝えた。
「--それは... 私にはわかりません...」
普段であればわからないのにお前は殴ったのかとジジくさく小一時間説教を垂れるところであるが部下を残し自分があるものを探しに行ったのは判断ミスである。
確かに言葉が通じない二人の監視役にまだ若いサニーが残り(私は見ていないが)炎をみたら悪魔族と思うのは当然か...
「こいつらはどのようにして炎をつけたのか?
炎を発生させる詠唱をとなえていたか?」
"詠唱とは魔法を発生させるために必要な呪文を言葉で唱えることである"
「いえ...詠唱はとなえていませんでした」
詠唱をとなえないレベルで炎を発生できる魔術師がバイカに手こずるわけない。しかしサニーが嘘をついてるとはもっと思えない。ロバートはこのわからない難題に頭を働かせた。
ロバートが思う一番の不思議はバイカとあの二人が対面した時のことだ。バイカは少しの間、動くのを止めた。バイカは強いわけではない。しかし突進が主な動物である。途中で止まるとは聞いたことがない。
あれはなんだったんだ...
「わかった...とりあえず俺たちの国へ持って帰ろう。そしてこいつらが目を覚ましてからゆっくり話しを聴けばいいだろう。--サニーはその小さい女を運べ。俺はこの男を運ぶ」
「はい、かしこまりました」
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二人の兄妹はロバートとサニーが住む国の犯罪者の牢屋へと入れられた。10畳ほどのその牢屋の隅には埃がたまり蜘蛛の巣が張っていてトイレも含め衛生的とはいえるところではない。
時間が立ち太陽が昇り光が差し込み明るくなると同時に和哉が眼を覚ました。
「...? どこ...痛っ! 頭が痛い」
サニーに殴られた和哉の頭にはたこ焼きサイズのたんこぶができていた。
「ここ? 牢屋か... 捕まったみたいだな。どんな悪いことしたら海外で捕まることになるんだよ...そんな日本で悪い子じゃなかったぞ、俺。とりあえずゆめが俺の隣で寝息を立ててるし命に別状はなさそうだな。タンコブはあるかもしれないが...
はー。こんなでかいタンコブなんで聞いたことないぞ。頭がおかしくなっちゃうじゃないか」
ロープで結ばれた手で頭をさすりながら既におかしい頭を心配していた。
和哉は昨日から続く何一つわからない出来事を頭の中で一つ一つ整理していた。最後の記憶はタバコを吸おうと火をつけた瞬間に目の前の美女が鬼の顔して頭を殴ってきたことである。
「禁煙だったのかな...そうだとしても気失う程頭殴らなくていいだろうに」
こんな時に真剣に考えなくて済む性格しているのが和哉の長所であり短所だろう。夢とは逆であり、夢であればなぜ殴られたのか絶対にわからない答えを求めひたすら自問自答するだろう。
「おい!! 何をぶつぶつ言っている!! 黙れ
お前が起きたら隊長を呼べといわれている。静かに待っていろ!!」
和哉と夢が入っている牢屋の前には二人の兵隊がいる。この短髪の若い兵士は和哉が目を覚まし独り言を言っていることを気づくと怒鳴った。もう一人よ和哉が眼を覚ましたことをしっかりと確認し兵士は駆け足で隊長を呼びに行ったようである。
「でかい声で何を言ったってこっちからしたらわかんないっての」
和哉が当たり前のことを思っていたときに夢が男の大声で静かに眼を覚ました。
「...ん、痛い...」
「大丈夫か? どこ痛い? おれは頭だ。タンコブがすごいでかい...」
「お腹...昨日殴られたみたいで。--ここ牢屋? 私たち捕まっちゃったの?」
「おそらくな。お兄ちゃんな、昨日タバコ吸おうとしたら殴られたから多分禁煙だったんだと思う。ごめんな。お腹結構痛いか?」
「時間経てば大丈夫だと思う...でも殴る理由流石に禁煙者だとしてもそれはないね。口で言えばいいのに」
夢はまだ眼が冷め切ってきないようで和哉のボケか素なのかわからない会話に真面目に返しているとき昨日とまったく同じ黒の制服を着たロバートが呼びに言った男とゆっくりとやってきた。
「眼を覚ましたか、お前ら。そこの女はいい。男よ。こっちへ来い。聞きたいことがある」
ロバートが和哉を見て手招きする姿を見た横にいた若い男は鍵を開け和哉の手を引っ張り牢屋から出したのである。
「お兄ちゃん、待って!!」
夢はいきなり兄が連れていかれる姿をみて寝ぼけがすっ飛んだようだ。
自分の妹が昨日と同じように顔に不安の表情を灯したことに気づいた和哉は優しく声をかけた。
「大丈夫、殺されるなら昨日殺されてるし、何言ってるかわからないけど事情聴取みたいなもんだろ。俺だけで大丈夫みたいだし適当に答えてすぐ戻ってくるよ。安心しとけ」
和哉は妹に心配をさせないように笑顔で牢屋を出た。
夢は俺が守る。そう心に思いながら。
1話と2話を少しだけ編集しました。
第4話はあしたの朝の9時過ぎに投稿したいと思います。
どうぞよろしくお願いします。