れーたん
「これは、おとーたん、これは、おにーたん、これは、おかーたん、これは、おじーたん、これは、おばーたん、これは、れーたん」
はぁはぁ、と息切れするほど一気に喋ったメグミは、それでも満足そうに笑っていた。
れーたん、と呼ばれた人物以外の家族が、メグミを微笑ましく眺めていた。
「めぐのちゅくったチョコあげゆー!はい、どーじょ!」
家族一人一人がメグミの小さな手から、小さなチョコレートを渡される。
メグミが作ったと言っているが、母親が冷やし固めた四角いチョコレートをメグミがパラフィンでキャンディーのように包装しただけだということを、全員知っていた。
しかし、すごいね、とみんな心からメグミを褒めた。
「れーたん、て誰だよ」
メグミの兄が思い出したように言う。
「さあ、保育園のお友達かしら?」
母親が首をかしげる。
「まさか彼氏か?」
父親が内心焦り気味にメグミを抱き上げた。
「ちがーよ、れーたんはおいえにいるよ」
「おいえに?」
祖母が驚いて見せる。
「そーだよ、れーたんはずっとおいえにいるんだよ」
「……座敷わらしかの?」
祖父が目を細めて微笑む。
「座敷わらし?」
兄が問う。
「子供の姿をした神様じゃよ、見たものには幸せが訪れるんじゃ」
「へぇー」
兄が鼻白む。
「れーたんはこどもじゃないよぉ、れーたんはおーっきなおじしゃんだよぉ」
メグミの言葉に全員、顔を見合わせる。
「れーたんはメグミをおよめしゃんにしゅるんだってーメグミがおーきくなったられーたんがとーくへちゅれていくんだってー」
嬉々として喋るメグミにだんだんと不穏な空気が忍び寄る。
「あ、れーたんだ!れーたん、メグミのちゅくったチョコあげりゅー!」
メグミがあらぬ方向に一つだけ余っていたチョコを、高々と掲げた。
「ふん」
兄が失笑すると、他の家族も安心したように苦笑した。
幼い子供にありがちな、空想のお友達だったと肩を撫で下ろしたのだ。
しかし、次の瞬間、メグミの手にあったパラフィンに包まれたチョコが消えた。
それをメグミ以外の家族はしっかりと見ていた。
無言の空間にチョコを失ったパラフィンがカサリ、と落ちた。
「れーたん、おいちー?……よかったー……うん、おかーたんがちゅくった、でもでもメグもてちゅだったもん!」
メグミは父親の膝の上で空を見上げ、会話している。
祖父はメグミの手をしっかりと握り、祖母は両手を合わせて念仏を唱える。
兄は真っ青な顔で固まり、母親はメグミを化け物でも見るような顔で睨んだ。
「メグミ!」
父親がメグミを包み込むように抱きしめ、目隠しをすると、天井から「おい!」と、知らない男の声が確かに聞こえたのだった。