友チョコ
「友チョコ友チョコ」
卓球部の先輩である彼は、いつもの明るく軽いノリで昼休みの人気のない屋上前の踊場で、チョコレートを渡してきた。
透明な袋に入った友チョコなるものは、明らかに手作りっぽい。
いびつな丸いチョコレートの団子。
トリュフだっけか?
「ちょっとちょっとー、そんな顔しないで、友チョコだっつってんでしょ!」
「……はぁ……」
今日は男の人からチョコレートをもらう日だったかな?と私はふと、疑問に思う。
「ねえ、よかったら今、食べてみてよ」
「今、ですか?」
「うん。あ!無理にとは言わないけど」
そう言いながらも、先輩の目は期待に輝いている。
断ることは私のメンタルではできない。
「分かりました……」
「え!ほんとに?」
「はい」
私は階段に腰掛けて、包みを慎重に開ける。
先輩も私の隣に座って、その様子を固唾を飲んで見ていた。
先輩の心臓の音が聞こえるような緊張が私にも伝染する。
一つ、指でつまみ口の中へ入れた。
男の人の手作りした物を生まれて初めて食べた。
先輩の作ったチョコは甘さがベタベタとまとわりつき、溶けた後もしつこく舌や喉にへばりついている。
「どう?」
先輩がはち切れそうな期待を、穢れなきまなこに宿していた。
「お、おいしいです」
「ほんとー!マジで?」
「はい、こんなの初めてです」
「……よかったー!よかったー!」
先輩がどさくさに紛れて、私の肩に頭を預けてきた。
「よかったー…….」
えぐえぐと嗚咽を漏らして先輩が肩を揺らす。
泣いておる……いつも笑顔の先輩が泣いておるぞ。
「泣かないでください」
制服が汚れます、とは言わない。
「うえーん!」
先輩は私の言葉をどうやら誤解して受け取ったらしく、さらに泣き出し、私を抱きしめた。
「先輩、先輩……」
がっちりホールドされた私は抜け出すことを諦めて、先輩の後頭部をポンポンとしてあげる。
先輩を突き飛ばすことは、私のメンタルでは……できない。
先輩、友チョコって泣くほど重いものだったんですね。