私のスキに相応しい
呪いをかけるように、溶け始めたチョコレートをゴムベラでゆっくりと同じ軌跡を描きながら混ぜる。
スキ
スキ
スキ
スキ
スキ
スキ
スキ
スキ
こんなもんじゃないけれど、とりあえず、スキ、とチョコレートに描き思いを込める。
怖いかな?
でも、スキなんだもん。
こうやって外にこぼさないと破裂するんだ。
ハートの形のホイルにチョコレートを流し入れて冷蔵庫で冷やし固める。
「簡単だなぁ……」
手作りチョコレートはぁと、とかって言っても、溶かして固めるだけだ。
思いは込めたけれど、味はきっと食べ慣れたチョコレートだよね。
彼の体内に入ることを考えると、もう少しパンチが欲しいよね。
私は冷蔵庫からチョコレートを取り出す。
まだ全然固まっていない。
「うーん……」
腕組みして頭の中に色々な食べ物を浮かべる。
アーモンド、コーンフレーク、砕いた飴、ホワイトチョコ、ドライフルーツ……
「うーん……」
どれもこれも私のスキには敵わない。
敵いそうなもの……敵いそうなもの。
イナゴの佃煮、マムシ酒、蜂の子、キャビア、トリュフ……
ん?なんかヤダ。
もっと可愛く攻めたい。
いや、可愛いだけじゃ物足りない。
「うーん……」
私は戸棚や冷蔵庫を何度も開け閉めしながら、私のスキに敵う食材を探した。
「ないな〜」
室温でチョコレートの表面が固まり始めてしまった。
「うーん!」
焦って悩み方も乱暴になる。
もう梅干しか!唐辛子か!と、刺激的な感じしか思い浮かばない。
彼は私の想像の中で実験動物のように、何がしか入ったチョコレートを幾度も食べさせられていた。
ごめん、でも、私が目指すゴールのためなの。
「僕も好きだよ」と、優しい笑顔で私を受け入れてくれる彼を、どうしても手に入れたいの。
そのために私はチョコレートに思いを込めて、その思いに相応しい食材を入れるのだ!
「ただいまー」
間抜けな声を出しながら弟が帰ってきた。
「ねーちゃん、母さんは?」
つらそうな顔で弟がキッチンにいる私に訊く。
「知らない。スーパーじゃん?」
私は忙しいので、ハエを追い払うように雑に答えた。
「ハラヘッター!母さんに電話して今日、焼肉にしてって言ってよ、ねーちゃん」
「っ!それだー!」
彼は私のチョコレートを口に含むと、一生懸命に微笑んでくれました。
ミッションコンプリート!
サンキューミート!