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恋した乙女

気づけば息を止めている。


急いで深呼吸して、血液を全身へ巡らせるイメージを思い浮かべた。


いつ渡そうか……その前にどうやって声をかけよう……


あ、ダメ、心臓が速くなった。

あー誰か助けて!


……今日はやめとこうかな。


でも、昨日、夜中までかかって作ったチョコケーキ、もったいない。


あの人のこと考えながら作ったチョコケーキ、自分で食べるの悲しすぎる。


思い切って行くしかないよ、私!


パッと呼び止めてパッと渡す。

「大好きです」は、メッセージカードに書いてあるから、言わなくていい!

ほんとは直接、言ったほうがいいんだけど、そんなことしたら私、きっと死んじゃう。


大丈夫、大丈夫。

きっと受け取ってくれる。

友達とかじゃないけど、普通に会話はできるんだし、受け取ってくれるはず。


もう一度、深呼吸すると心臓が喉までせり上がって来たかと思うほど、鼓動が強く響く。


大げさにならない感じの、モノトーンにラッピングされた箱をカバンから取り出す。


私の両手に乗るくらいなサイズだから、邪魔にならないよね。


もう渡す。

タイミング的には今しかない。

もう渡すよ。

あの人が一人で席を立ったから、戻って来る廊下で渡すしかないよ。


周りの目があるから、用意していた小さい茶色の紙袋にチョコケーキの箱を入れて、私は立ち上がった。


渡す。

渡す。

あの人に私の思いを渡す。


一歩進むたびに現実感がなくなっていく。

緊張しすぎと酸欠で頭がふわふわとしてきた。


深呼吸、深呼吸……ヒ、ヒ、フー……違うぅぅ。


あー、あー、誰か助けて。

誰か私の気持ちを鎮めてよお!


あの人がこちらに向かって歩いて来る。

周りには誰も居ない。

絶好のタイミング!

これは、もしかして、運命が味方してくれているの?

私があの人と結ばれることの示唆なの?


笑顔、笑顔よ!

強張った顔で渡すのはダメ!

笑顔!


好きを伝えるのは恥ずかしいことなんかじゃない。

生きていく上で最重要課題なことなの。


結ばれなくても、完膚なきまでに玉砕したって私は決して後悔しない。

好きな人に好きと言えない人生なんか、絶対イヤ!


そうよ、この口でちゃんと好きと伝えなきゃ。

後悔しないためには度胸よ、勇気よ!

好きと言うことを考えただけで死にそうなくらい好きなんだから!

こんなに好きな人に出会えたこと、風化する思い出達と一緒の記憶にしたくない!

……好き……好き、大好きなの!


全身に響く鼓動と共にゆっくり深呼吸を、する。


そして、私はいっそ誇らしい気持ちと、震える足であの人へ向かって行った。

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