マーブル
「これ食べたらもう他の女の子と遊んだらダメなんだぞ!」
ぼくの部屋で、チョコカップケーキをぼくに手渡しながらサナエは言う。
「どうしてサナエにそんなこと決められないといけないのか、さっぱりわかりません」
ぼくはきっぱりと言い返し、チョコカップケーキを一口で頬張る。
ビターでたいへんよろしい。
「イヤイヤイヤイヤ!サナエが作ったやつ食べたらりっくんはサナエのものなの!」
「……ぼくという人間は、誰のものでもない。それにサナエの作ったカップケーキを食べたからってそんなこと強制するのはやり過ぎじゃないかな?」
ぼくはきっぱりと言い返し、期末テストの勉強を再開する。
「……やり過ぎじゃないもん!強制じゃないもん!これはサナエのお願いだもん!」
ノートの上にサナエの両手が差し込まれ、シャープペンシルの芯がふっくらとした手の甲に突き刺さる。
「い、痛くないもん!」
涙目のサナエが強がる。
「もんもんうるさい」
ぼくはきっぱりと言う。
「もんもん言ってないもん!あ!」
サナエが自分の言ったことに驚く。
まったく、サナエは……かわいいな。
「サナエ、ぼくの彼女になりたいかい?」
「彼女になりたい!」
「ぼくに抱かれたいかい?」
「抱かれたい!」
「ぼくの子供を妊娠したいかい?」
「妊娠したい!」
「ぼくと一生一緒にいたいかい?」
「一生一緒にいたい!」
「サナエ、ぼくが好き?」
「りっくんが好き!」
「……」
「りっくん?」
「サナエ、ぼくはサナエが嫌いだ」
ぼくはきっぱり言い放つ。
サナエはずっとぼくにつきまとってうっとおしいったらない。
見た目や性格はかわいらしいが、時々、どうしようもなく痛い目にあわせたくなる。
かわいらしさが憎らしさと混ざり、サナエの笑顔が化け物に見えてくるのだ。
「イヤイヤ!イヤだ!嫌わないで!サナエ、りっくんの言う通りにするからあ!」
ほら、こういうのがぼくの中身をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
シャープペンシルの芯が、また、サナエの手の甲を突き刺した。
「痛い?」
ぼくは試すような聞き方をした。
「……い、たくない」
サナエは涙目で微笑む。
無数の蟲が背中を這い上がっているような震えを感じた。
シャープペンシルをサナエの首元へ移動させ、カチ、カチ、と芯を出す。
サナエは微笑みを硬直させ、目尻からひとすじの涙をこぼした。
ぼくは反対に柔らかく笑ってみせる。
「りっくん……かっこいい……」
性懲りも無くサナエは、ぼくのかりそめの笑顔に恐怖を見ようとしない。
馬鹿なサナエ。
「サナエ……大嫌いだよ」
やわいサナエの首の皮膚は、障子を破くようだった。




