空からペンギン
檸檬色の空にツカサが浮いている。
「ツカサ?なにしてんの?」
私が声をかけるとツカサはゆっくりと降りてくる。
「なにしてんのじゃねーよ!」
「え?なによ、なんて口の聞き方なの?」
「うっせー!」
ツカサが上から私の頭を叩く。
「痛いー!やめてよ〜」
「キモ!ぶりっ子すんな!」
ツカサはそう言い捨てると、また浮き上がってどこかへ飛んで行ってしまった。
「ツカサのバカ……」
私は頭を撫でながら涙をこらえる。
きっとツカサのことだから、千里眼で見てるはず。
ここで泣いてしまったら絶対、絶対、またバカにされるに決まってる。
「んっ!コホン!」
私は一つ咳払いをして、素知らぬ顔で歩き出す。
ポコン!
「え?」
頭に柔らかい感触が落ちて、私の足元にペンギンのぬいぐるみが転がっている。
かわいい……
愛らしいくちばしとつぶらな瞳に、胸がキュンとなる。
だめだめと、正気に戻りしゃがんでぬいぐるみを持って、上を見上げても誰もいない。
「ツカサ……?」
檸檬色の空は、ゆっくりと流動しているだけだった。
私はため息をついて、ペンギンのぬいぐるみを抱えたまま、また歩き出す。
ポコポコポコポコポコポコポコ………
「なになになにー!」
ペンギンのぬいぐるみの雨が降ってきて、私は立ち止まり後退りする。
ポコポコポコポコポコポコ………
「ツカサ、ツカサでしょー!ちょっと、やめなさーい!」
道を埋め尽くすペンギンのぬいぐるみに恐ろしさを覚え叫ぶと、ぬいぐるみの雨が止む。
「ペンギンが好きなんだろ!」
ツカサのぶっきらぼうな声がしたかと思うと、抱っこしていたペンギンがツカサになって目の前に現れた。
「ツカサ?!」
私の両手はぬいぐるみを抱えていた格好のまま、ツカサの腰の後ろで繋がれたままだ。
「バレンタインのプレゼントだよ、ありがたく受け取れよな!」
ツカサは頬を赤らめて言うと、私のほっぺにキスをした。
「きゃ!」
私はびっくりして肩を跳ね上がらせる。
「……キモいんだよ、男の子だろ?」
ツカサは苦笑しながら、今度は唇に……
「もう、ツカサは女の子なのに積極的で困るんだから……」
唇を解放された私は、恥ずかしくて死にそうなのを隠すために怒って見せた。
「うっせー、早くぬいぐるみ拾えよ」
私の手からすり抜けたツカサは、笑いながらどこからともなく大きな袋を出して、私に持たせた。
「がんばれよー」
ツカサは無邪気に笑い続け、自分のツインテールを手で真横に引っ張ると、鳥になって檸檬色の空高く舞い上がった。
「ちょっとー!これ私一人で拾いきれないんだからー!」
鳥に向かって叫んでも、ツカサは戻ってくるはずもなくどんどん遠くへ行ってしまう。
私はペンギンのぬいぐるみの海の真ん中でヘナヘナと座り込む。
「もー、ツカサのバカ!」
文句を言いながらも、ペンギンのぬいぐるみがかわいくて私はつい微笑んでしまった。