表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

《君の名は?》 ~煙草と清酒のある風景~

その名を受け継ぐ者

作者: 白い黒猫

 マメゾンというと、お洒落な人が街を歩く時に手にしている珈琲の会社というイメージのあるカフェを運営している珈琲豆総合商社の会社である。そんな会社に俺が内定をもらったというと、皆一様に驚いた。それはそうだろう。どちらかというとダサくコンパとかでも盛り上げ役でお調子者。いわゆるカフェが似合うイケてる男でもなかったからだ。

 名前からしても【鈴木浩平】と平凡そのもの。顔も『カフェというより居酒屋の店員だろ!』と皆から笑われた。そして四月になり新入生研修受けていて、自分が酷く浮いているのを感じた。なんかみんなお洒落! なんかキラキラしている! そして話をしている内容もイケているし頭も良い感じ。そしてなんか苗字からしてなんかスゴイ人ばかり。【夛田】【大宜見】【五百藏】とか……名札をつけているのに読めなくて名前が分からない人ばかりいる。それでもなんとなく愛嬌と気力で乗り越えつつも、俺はこんな人たちと仲間としてやっていけるのだろうか? そう不安に苛まれていた。


 そんな俺が配属されたのは、千葉にある配送センター内にある倉庫。研修後にその辞令を聞いて自分でもなんだか納得してしまった。イケてるセンスとか、実は自分でも知らなかったグルメ的な技能が見込まれてマメゾンに採用されたのではなく、ガタイもよく倉庫といった所での作業で使えそうだからだ。逆に背広とか着て机に張り付いていなくてはいけないような仕事ではなかった方が嬉しかった。


 そして配属初日、流石にTシャツとジーンズではカジュアル過ぎるかなと思い、黒のチノパンに襟付きのシャツを着て職場を訪れると、なんか優しい温かそうな人ばかりで、俺の事を明るく迎えてくれた。ここに居る人達は、お洒落そうでもないし、なんか親近感も感じる。そうか、会社というのはいろんなタイプの人がいろんな部署で活躍するからなり立っていく事を早くも学ぶ。そしてあの研修センターにいた同期たちは、マメゾンの表舞台で活躍するメンバーで、俺は彼らを影で支える裏方人員。ここならば俺でもやっていける気がした。何よりも、物凄く歓迎もされている。

「おぉぉおお 鈴木くん君の事まっていたんだよ!」

「え?! ついに鈴木くん!?」

「キミの事、もう一年も待っていたんだよ!」

 一年というのは言いすぎだろう。とは思うが俺は笑顔で挨拶をしながら、ここで頑張って行こうというやる気もムクムク芽生えていく。


「今年は、我々の部署にも新人を迎える事ができました!

 そして喜ばしい事に、その新人は鈴木くん!」

 鈴木部長の朝礼での俺の紹介がなんかチョット変である。しかしそう思うのは俺だけのようで、部の皆から『オォォオオ』と歓声が起きる。

「ということで、鈴木浩平くん! 今日から君は【B】となる。頑張ってくれたまえ!」

 意味が分からない。【ビー】って何? それってどういう役割をする人の事なの? 何故みなそれに大きな拍手をするのか? 俺は戸惑う。

「あの、それってどういう仕事なのでしょうか?」

 そう聞くと、部長はハハハと笑い、顔を横にふる。

「仕事ではないよ、君のここでの名前だよ! ということで君は今日から【B】君だ」

「はぁ」

 【ビー】ってアルファベットの【B】なようだ。

「君も鈴木だから分かると思うが、ここにも【鈴木】の苗字のヤツが多いんだよ! そして俺も鈴木だし、このセンター内だけでも【鈴木】が十二人もいるんだ。しかも名前もかぶっている奴も幾人かいるということで、【鈴木】がきたら、来た順番でアルファベットのあだ名で呼ぶようにした。そこで君は【B】くんになった訳だ! 因みにセンター長が【A】さんで。俺が【C】だから。宜しく!」

 確かにありきたりな苗字だから仕方がないとして、俺が【B】なのはオカシイだろう。だってここには十二人【鈴木さん】がいるんだろ? そしたら【N】とかにならないか?

「いえいえ、そんなセンター長と部長の間なんて恐れ多いですよ! 末番でいいですよ俺は!」

 そう答えると、部長は顔を横にゆっくりふる。

「そういう訳にはいかないんだよ! もうあだ名となっているだけにコロコロ変えられない。混乱するたけだから!

 そこで新たに入った鈴木が、欠番となった名前を受け継ぐ伝統になっているんだ! そして君は昨年辞めた鈴木正太郎さんの【B】を受け継ぐそれが運命なんだ!

 この名誉ある名前をどうか受け取ってくれ! そして君には期待しているんだ! 【B】くん!」

 

 なんか俺は変な会社に入社してしまったようだ。こうして俺は【B】を受け継ぐ事となった。しかし慣れてみると鈴木だらけの職場も楽しく、取引先の人や運送会社の人にも【B】くんと呼ばれ普通に答えるようになってしまった。この会社に来てよかった事は、平凡で面白くもなんともない【鈴木】の名前が、なんか特別な素敵な名前に思えるようになった事かもしれない。




なんか【珍名】な人しかいないと思われている【マメゾン】ですが、ちゃんと平凡な名前の方もいっぱいいます。そして鈴木さんも大勢いらっしゃいます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ