表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

懐事情

毎月五日は家賃その他を含んだ下宿代の徴収日。

異世界から来たここの住人達はどのようにお金を工面しているのか気になる所。

管爺「下宿代の回収ですよ」

そんな声とともに扉が叩かれるのです。


case1

くノ一「ああ、もう、仕事の報酬はまだなの!!」

『すいません、本部の方がちょっとごたついてて。来週には用意できます』

くノ一「そ、れ、じゃ、遅いのよ。今日必要なの」

『そんなこと言われましても、現金で三百万なんてうちみたいな小さい組織じゃすぐには用意できませんってば』

くノ一「ふざけないで」

――コンコン

管婆「くノ一さん下宿代の回収に来ました」

くノ一「おばあさん!! すいませんちょっと待ってください」

管婆「はーい、分かりました。一時間後くらいにまた来ますから、それまでに耳揃えて用意しておいてくださいね」

くノ一(ばれてる)

『どうかいたしましたか?』

くノ一「……今すぐにいくら用意できるの」

『えーっと、三十、家々違います五十万です』

くノ一「なら、月五十万の半年払いで勘弁してあげる」

『え、そ、そうしてもらえるならありがたいです』

くノ一「今からすぐに取りに行くから用意して待ってなさい」

   一時間後

――コンコン

管婆「くノ一さん、いいですか?」

くノ一「お待たせしてすいません。下宿代五万八千円ですね。重ねて申し訳ないですけど少し細かくなります」

管婆「………………はい、丁度ですね。ありがとうございます」

くノ一「いえいえ、こちらこそ。今月もよろしくお願いします」

くノ一さんは持ち前の足の速さを活かして、不定期で『物』を運ぶお仕事をしています。

運んでいるのはなんなんでしょうね?

安心してください、合法ですから……大半は。


case2

魔術師「あれ、どうして? お金が足りない」

管爺「どうしたんだい、魔術師さん? そんなに顔を青くして」

魔術師「おじいさん!! いえ、何でもないです」

管爺「そうかいそうかい。それじゃ、丁度いいから下宿代回収しますか」

魔術師「すいません。少しだけ待ってください」

管爺「ホホホ、そんなことじゃと思ったわ。二時間ばっかし待ってやるからちゃーんと用意してくれよ」

魔術師「本当にすいません」

管爺「それじゃ、また後での」

   移動 自室

魔術師「どこだ……どこだ……どこだ……あった。えっと、先月は……四十五万だよな。振込予定日は……今日!? 急がなきゃ」

   二時間後

――コンコン

管爺「おーい、魔術師さん。覚悟はできたかい」

魔術師「あ、はい、大丈夫です」

管爺「今月も五万八千円じゃぞ」

魔術師「すいません六万円からお願いします」

管爺「ひーふーみーよ――、六万円あるな。ほいお釣じゃ」

魔術師「一、二千円はい。ありがとうございます」

管爺「ワシだったから良かったものの、あれが婆さんじゃったら、えらいことになっとたかもしれんぞ。今後は気を付けるように」

魔術師「……はい。ご迷惑おかけしました」

魔術師さんのお仕事はマジシャンです。

種も仕掛けもないすごいマジックを披露して、そこそこ有名になって来ています。

副業でちょっとしたアルバイトもしています。


case3

――コンコン

管婆「下宿代回収に来ました」

遊び人「あ、はい、今手が離せないんで、来てもらっていいですか」

管婆「それでは失礼します」

遊び人「粗茶ですが」

管婆「これはこれはご丁寧に、それで下宿代――」

遊び人「これ、和菓子の有名な店で新発売だったんですよ。一つどうですか?」

管婆「いただこうかしら」

遊び人「どうぞどうぞ」

管婆「あら、おいしいわね、これ」

遊び人「いやー、おばあさんのお口にあってよかったです」

管婆「それで、下宿代の方は――」

遊び人「ああ、おばあさん肩凝ってるでしょ。もみますよ」

管婆「言われてみれば最近肩が重くてね。頼んでいいかい?」

遊び人「お任せください。こう見えて地元じゃ一二を争う肩もみテクニックの持ち主だったんで」

管婆「そうなのかい。遊び人さんは意外な特技があるんだねえ。ああそこそこ」

遊び人「ええ、まあ」

   (何とかして後三十分稼がなければ)

   三十分後

管婆「ありがとう、おかげで大分楽になったよ」

遊び人「それは良かったです」

管婆「それで、この茶番に付き合ってあげたんだから、きちんと用意できてるんですよね」

遊び人「え、ええ、勿論ですよ」

――コンコン

「遊び人さん」

遊び人「はーい、ぼろ儲けだったでしょ」

「……大外れでしたよ」

遊び人「……へ?」

「まあ、自分は遊び人さんのお金でやったから損はしませんでしたけど。報告は以上です」

遊び人「いや、ちょっと待――」

管婆「遊び人さん?」

遊び人「いやー、あっれー、おっかしいなー」

管婆「他には?」

遊び人「きっとあいつが持ち逃げしたんです。今から追っかけて取り返して――」

管婆「遊び人さんっ!!」

遊び人「はいっ!!」

管婆「二カ月前も言いましたよね? 度が過ぎてますって」

遊び人「……はい」

管婆「……はあ、今回も十日後に来ますから、それまでに用意しなさい」

遊び人「……利子はいかほどで」

管婆「とごですよ」

その後一週間遊び人は馬車馬の如く働きどうにかお金を用意することができました。

一週間で十万近く稼げる仕事ってどんなものなんでしょうね? 気になります。


after

   十日後

遊び人「疲れたよー」

くノ一「いや、あんた自業自得でしょ」

魔術師「そうですね。それで、来月は大丈夫なんでしょうね? 流石にボクの所は、しばらくはあなたを呼べる状況じゃありませんよ」

くノ一「私も同じよ」

遊び人「だーいじょうぶ、大丈夫。今度は自分でやるから」

くノ一・魔術師『いい加減にしろよ』

遊び人「言っても、お前ら二人だって似たようなもんだろ」

くノ一・魔術師『一緒にするな』

おじいさんとおばあさんを待たせたという点に関しては、三人とも同じです。

時間が違うだけで。




管爺「婆さんや、うちも銀行振替とかいうのにした方がいいのかね?」

管婆「そうですねえ……でも、手続きとかが大変そうですし、何よりみなさんとお話しするのは楽しいですし、このままで良いではありませんか」

管爺「そうか。そうだな。余所は余所、うちはうちじゃな」

管婆「はい、そうですよおじいさん」

麻黄荘のデジタル化はまだまだ先なようです。

まあでも、住人達の間ではこの手渡しシステム意外と好評みたいなんです

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ