食事風景
麻黄荘では朝食と夕食はできるだけみんなで食べるようにしています。
七十二も部屋があるため住人は多いです。なので、学食のような食堂になっています。
そんなある日の夕食の話です。
管爺「それでは合掌」
一同『いただきます』
case1
神官「あ、あの、おばあ様。私、以前宗教上の理由でお肉を使った料理は食べれないと申し上げませんでしたか?」
管婆「聞きましたよ」
神官「でしたらこのハンバーグは!!」
管婆「大丈夫ですよ。だって神官さんのハンバーグ、豆腐ハンバーグですもの」
神官「!?」
管婆「初めて作ったから味に自信はないですけど、どうかお食べになってください」
神官「あ、あ、ありがとうございます」
管婆「いえいえ。冷めないうちに召し上がれ」
神官「いただきます」
管婆「どうかしら?」
神官「お、おいしいです」
管婆「あら、よかった。これからは一人だけ除け者にせずに済むわ」
この言葉を聞いた神官さんは嬉しさのあまり涙を流しました。
おばあさんは次はどんなものを作って食べてもらおうかとほくほく顔で考えています。
case2
僧侶「あ、あの、おじいさん。拙僧、戒律により飲酒だけは固く禁じられておりますと申しませんでしたか?」
管爺「間違いなく言っておったな」
僧侶「だ、だったら、これは」
管爺「知り合いの神主から譲り受けたお神酒、神の酒じゃ」
僧侶「!?」
管爺「つまり、神の認めた酒なのだから、飲んだところでなーんも悪いことなんてない。その神主も言っておったぞ『お神酒を飲まないなんて罰当たりな』って」
僧侶「へ、屁理屈だ」
管爺「ほれ、一杯飲んでみい」
僧侶「う、ううう」
管爺「ほれ、ほれ」
僧侶「な、ならぬ。拙僧の信じる神は酒を飲まぬゆえ、ご馳走様でした」
管爺「っち、今日も失敗か」
毎度毎度おじいさんはよくやるなと他の住人達は思いました。
おじいさんはどうやって晩酌に付き合わせようかと悪い顔で思案するのでした。
case3
管婆「メイドさんは一緒に食べないんですか?」
メイド「使用人が同席するなどとんでもありません」
管爺「メイドさんは使用人ではなく下宿人なのだが」
メイド「私の魂は使用人なのです!!」
管婆「……そう」
神官「あー、メイドさんがおばあさんを泣かせた」
管爺「なんじゃと!!」
メイド「え、え、あの、えっと、おばあさん、私何かしましたか」
管婆「いいの。一緒に食べてほしいなんてとんだわがままだったみたいね。困らせっちゃってごめんなさいねメイドさん」
僧侶「メイドよ。一緒に食卓を囲むくらい良いではないか」
メイド「そ、それは、なりません。私のような者が皆さまのような方と、食卓を囲むなど天がお許しなるはずがございません」
管爺「もしもし、神主か。ちと尋ねたいが、使用人が食卓を囲んだらいけないと神は言ったことがあるか?」
神主『そんなこと言うわけないだろ。神様そこまで狭量じゃないよ』
管爺「そうか。突然すまんな」
神官「私の所もそんなこと言ってないわよ」
僧侶「拙僧の奉ずる神もまた同じだ」
メイド「いや、でもですね、ほら、私」
管爺「言い訳を考えるくらいな席に着かんか!!」
メイド「は、はい」
管婆「おや、一緒に食べてくれるんだね。ありがとう」
メイド「はっ、しまった、また。あの涙は演技なのですね」
管婆「ふふふ、こう見えても昔は色々とやっていたのよ」
こうしてメイドさんはなんともいえない罠にかかり、食卓を囲む一員となるのでした。
おじいさんとおばあさんは賑やかな食卓を大いに楽しむのことができ、とてもとても嬉しそうでした。
after
神官「ふー、おばあさんの料理は相変わらずおいしいわ」
メイド「はい、とーってもおいしいです。それに栄養バランスもパーフェクトなんですよ」
神官「でも、ちょっと困っちゃうのよね」
メイド「そうなんです」
僧侶「どうしたのだお二方? 悩みがあるなら拙僧が相談に乗るが」
神官・メイド『だ、大丈夫です』
僧侶「そうか。ならばよいが。では、また明日」
神官・メイド『また明日』
神官「こんなこと男の人に話せるわけないじゃない」
メイド「そうなのですよ」
神官とメイドを始めとした麻黄荘の女性陣は、深刻な悩みを抱えています。
悩みの理由は分かっています。おばあさんの料理がおいしすぎるせいです。
悩みの内容は彼女たちの名誉のために明記はしませんが、まあお分かり頂けるでしょう。
管婆「最近、皆さんの箸があまり進んでいないんです。私の料理が口に合わないんでしょうかね」
管爺「そんなことはないぞ婆さん。婆さんの料理は天下一だ」
管婆「そう……なのでしょうか」
管爺「少なくともワシはそう思っておるぞ」
管婆「でも……」
管爺「そうじゃ、なら――」
翌日
管婆「ご飯に関して何かあればこちらに書いてください。入れるときは匿名でいいですよ。直接は言いにくいのに今まで気が付かなくてごめんなさいね」
食堂に目安箱なるものが設置され、その隣には投書用の紙が置かれました。
賢しい女性陣は、おばあさんが最近悩んでいたことに気が付きました。
その原因も。
女性陣の苦悩する様を男性陣は不思議そうに見つめながらおいしくご飯を頂きました。