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コレクトコール

ここの住人は居場所をなくしたとはいえ元いた世界では名の知れたすごい人たち。そんな人達だから連絡もそれなりに来ます。

一部屋に一つ固定電話があるこの麻黄荘では今日も元気に電話が鳴ります。


case1

『神謀殿、どうか策をお授けください』

神謀「いや、オレ現役引退してるし」

『そこをなんとか』

神謀「んなこと言われても」

『我が国の危機なんです』

神謀「いや知らんし」

『それでもあなたは我が国の民ですか』

神謀「国籍変えてますんで違います」

   中略 三十分後

『爵位の授与も準備できてますし、一度ご帰還願います』

神謀「いらんし、帰らん」

――コンコン

管爺「神謀さん」

神謀「……!! もうかけてくるな」

『ちょ、まだ話は』

――ガチャ

神謀「おはようございます、おじいさん。今日もいい天気ですね。それでは」

管爺「神謀さん」

神謀「……はい」

   移動 応接室

管爺「故郷の方とのお話が楽しくて、つい時間を忘れて盛り上がる気持ちは、よーく分かりるがな」

神謀「いや、別にそういうわけではなくてですね」

管爺「はいはい、そういうことにしておいてあげるかの。でも、国際電話のコレクトコールでの長話はやめてもらえないかい」

神謀「いや、あの、そうじゃなくてですね、その……すいません」

管爺「分かってくれたようで良かったよ。まあ過ぎてしまったことは仕方ないことじゃし、今後は気を付けなさいな」

神謀「本当にすいませんでした」

管爺「それにしても……神謀さんへの電話はどこの国からかかって来てるんじゃ?」

神謀「し、失礼します」

慌てて帰る神謀さんをおじいさんは不思議そうに見つめるのでした。


case2

『剣神様、どうか我が国にお力添えを』

剣神「えー、やだ」

『何故ですか』

剣神「俺が出るとするじゃん、そうすっとあっちは槍神、そっちは弓神が出てくるだろ」

『剣神様がいれば物の数にはなりません』

剣神「確かに、やつらごときが束になったところで負ける気はしないけどさ」

『でしたら』

剣神「嫌なモンは嫌だ」

   中略 四十五分後

『つまり、こちらは剣神様ありきの布陣で臨めば万事解決ということですね』

剣神「はぁ、違うし。てか、戻る気なんてさらさらないからそういうのは止めろよ」

――コンコン

管婆「剣神さん」

剣神「……!! もう俺に頼んな」

『そんなご無体な』

――ガチャ

剣神「おはようさんです、おばあさん。今日は生憎の天気ですね。それでは」

管婆「剣神さん」

剣神「……はい」

   移動 応接室

管婆「昔の部下が自分のことを頼りにしてくれて嬉しくて、舞い上がっちゃってしまうのは分かりますよ」

剣神「いや、そんな訳ないじゃないですか」

管婆「はいはい、そうですね。そういうことにしておいてあげます。でもですね、コレクトコールでの長電話は止めてほしいんですよ」

剣神「えっと、あの、そのなんですかね……申し訳ないです」

管婆「分かってくれて何よりです。終わったことですし、次から気を付けてくださればいいですよ」

剣神「以後気を付けます」

管婆「それにしても……剣神さんへの電話はなんていう国からのなんだい」

剣神「し、失礼します」

目を泳がせながら席を立つ剣神さんをおばあさんは微笑みながら見守るのでした。


case3

『薬師先生、流行り病を根絶するために知恵をお貸しください』

薬師「症状は」

『はい、高熱と嘔吐です』

薬師「患者の特徴は」

『子供と年寄が八割、過度の渇き……なんだと』

薬師「どうしたんだ」

『患者の体からはんぺんが出てきました』

薬師『はんぺんだと! まさかPウイルスか!』

   中略 一時間半後

『分かりました。急ぎ用意します』

薬師「ああ頼む。あれは時間との戦いだ」

――コンコン

管爺「薬師さん」

薬師「ああ、それでは」

『ありがとうございます』

――ガチャ

薬師「おじいさん、おばあさん、おはようございます。すいません、ちょっと休ませてもらっても」

管婆「では、一時間後に応接室に」

   一時間後 応接室

管爺「いやー、故郷が大変だったみたいじゃな」

薬師「ええまあ、ですが多分何とかなりました。あと、急なことだったとはいえ、コレクトコールをそのまま繋いでしまってすいません」

管婆「ご苦労様です。緊急事態だったみたいですし仕方ないですよ。お茶でもどうぞ」

薬師「そう言っていただけるなら幸いです。いただきます」

管爺「まあ、後はゆっくりと休みなさいな」

薬師「お気遣い感謝します。それでは失礼します。お茶美味しかったです」

お茶を啜るおじいさんとおばあさんに一礼して薬師さんは部屋を出ました。


after

――バンッ

神謀・剣神『薬師だけズルい』

薬師「いや、ズルくはないだろ」

神謀「オレ三十分で叱られた」

剣神「俺は四十五分」

神謀・剣神『一時間半で叱られないってズルい』

薬師「だって、こっちは九割説明だったけど、お前ら八割雑談だったじゃん。それに、嫌々言ってる割に楽しそうに話してたし」

神謀・剣神『んなわけあるか』

薬師「だったら、拒否すればいいじゃん。コレクトコールなんだし、ガイドあっただろ」

神謀「いやだってさ、向こうから電話とか気になるじゃん」

剣神「そうだそうだ。内容まで予想できるか」

神謀「だよな剣神。もし万が一お前の所みたいに危なかったらどうするんだよ」

薬師「いや知らんし。嫌ならさっさと切ればいいじゃん」

神謀・剣神『……』

薬師「んじゃ、寝るから出てけ」

納得いかない様子の神謀さんと剣神さんを置いて、薬師さんは部屋に戻りました。




管爺「婆さんや。ここの下宿人達は皆、海外のご出身みたいだなあ」

管婆「そうですね爺さん。遠くにおいて来た人たちから電話が来るとやっぱり嬉しいんでしょうね」

管爺「儂たちからすると、孫から電話が来るような物なんじゃろうな。まあ、でも」

管婆「ええ、これはちょっと多過ぎですね」

『電話代 ¥800,000』

管爺「うーん、どうするか」

管婆「そうですねえ」

   数日後

『地元とのお電話は時間に気を付けて、楽しんでください』という張り紙が廊下の掲示板に張られていました。

それを見た住人達は皆いたく反省しました。

それと同時に、携帯電話の購入を検討し始めましたが、これはまた別の機会に。

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