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第17話「絡み合う世界」 中

 薄暗い洞窟。(おびただ)しい鮮血の中で、冴月の右手だけが無残に転げ落ちている。

 咄嗟に『気』で切断面を焼き止血は出来たものの、太刀筋も気配も分からぬ攻撃に冴月はただ相手の出方を伺うことしか出来なかった。 

 あの冴月ですら(かわ)すことの出来なかった攻撃に【名無しの姫】とリタも言葉を失ってしまっていた。

 

 洞窟内に重苦しい空気が漂い始める。


「ようこそ (つい)の洞窟へ――といっても、あなたたちが自分で掘ったんだから『墓穴』って言った方が正確かしら。とにかく私の『予言』どおり動いてくれて、あ・り・が・と・う。アレスティア王国第6王女、チェイミー・ルクタールがお礼を申し上げますわ」


 ネストの横に立ち、まるで舞踏会の挨拶かのような、そして明らかに相手を小馬鹿にした態度でチェイミーが会釈する。

 その態度にムっとした【名無しの姫】が負けじとやり返した。


「オイっ! 隣のチビねずみが自己紹介したついでにあんたも名乗ったらどうだ? あの戦闘狂に一撃食らわせたんだ……『姫』の能力なんだろ? しかも相当場数を踏んでるよな」

「ちょっとなんであんたなんかにチビ呼ばわりされなきゃいけないのよ! あんただってチビでしょっ! やーい、チビチビチビっ!」

「……挑発に乗るなチェイミー。こちらが隙を見せれば相手の思う壺だ」

「す、すいません……ネスト様」

「だが、現状こちらの優位に変わりはない。感謝するぞチェイミー」


 右手でチェイミーの頭を軽く撫でるネスト。チェイミーは褒められた仔犬のような仕草で頬を紅潮させて満面の笑みを見せる。


「では、そちらの問いに答える形で名乗らせていただこう。私の名は、ネスティアート・フィレシア・レイヴァン。今は無き西の小国、レイヴァン王国の第1王女だ。そして先ほどの攻撃は、私ではなく姉様の能力によるものだ」

「姉様って……どこにいるんだ?」


 【名無しの姫】が辺りを見渡してみても、ネストとチェイミーの他に洞窟内に人影はない。動物の気配すら感じられない。


「自分たちの周囲をよくよく眼を見開いて見るがいい。貴様たちがどれだけ諦めの悪い愚昧でも、チェイミーが『詰んだ』と言った意味が理解できるだろう」


 薄暗い中、【名無しの姫】は必死に目を()らす。その時、間近で何かがキラっと光った。


「これは……糸!?」


 【名無しの姫】が目にしたのは、洞窟内に縦横無尽に張り巡らされた糸よりも遥かに細くまるで髪の毛のような『何か』。それがまるで檻のように【名無しの姫】たちを取り囲んでいる。


「『無形の刃イリュージョン・ブレイド』……あらゆる形の刃に姿を変える能力を持つ姉様が、貴様達を屠るため姿を変えた糸状の刃。触れれば鋼さえ両断するこの糸の檻を貴様たちが無事に抜ける手立てなどあるまい」


 ネストの言葉にチェイミーがウンウンとうなづき、それに、と付け加えた。


「こーんな狭っ苦しい洞窟で大技でも繰り出せば途端にあなたたち生き埋め確定しちゃうわよ」


 確かにチェイミーの言うとおりだ。この刃の檻を壊すことだけなら【名無しの姫】の『自在の十字架エヴァーチェンジ・クロス』や冴月の『餓紗髑髏(がしゃどくろ)』なら造作も無いだろう。だが、そんな攻撃を放てばたちまち洞窟は崩れてしまう。姫2人だけならそれでも脱出できるかもしれないが、リタはそうはいかないだろう。冴月もそのことは理解しているらしく今のところブチ切れた攻撃は控えているようだ。まぁ冴月だから、今のところ……でしかないのだが。


「つまり、ここに野宿した時点で勝敗が決まったということですか。でも、なぜ私たちがここにいる事が分かりましたの?」

「アタシも冴月も後をつけてくる気配なんてまったく感じなかった、よな?……なのに」


 冴月と【名無しの姫】の疑問にネストが答えた。


「チェイミーの持つ『姫』の能力で貴様たちがここに来ることが既に分かっていた。だからこうして先手を打って仕掛けさせてもらったというワケだ」

「私の『予言(カサンドラ)』はね、自分以外の者の未来を見ることが出来る能力なのよ。で、あなたたち2人の姫がここで野宿するのが見えたの。どう? スゴイでしょう」


 【名無しの姫】がチェイミーの自信満々の説明に渋々答える。  


「ハイハイ、確かに未来を知るってのはスゴイ能力だ。恐れ入ったよ」

「でしょう!」

「――ってことは……だ」

「え?」

「テメェをボコればこれ以上先回りして邪魔されずに済むって話だよなぁ」

「えー――っ!? ちょっとなに言ってんの? 刃の檻で身動きとれないくせに偉そうなこと言ってんじゃないわよっ! ネスト様、早く用件済ませてコイツら始末しちゃいましょうよ!」

「それはこいつらの返答次第だ。とにかくもう少し大人しくしていろチェイミー」

「……はい」


 ネストに注意されたチェイミーは、今度は叱られた犬のようにしょぼくれる。

 ネストはそのまま【名無しの姫】に歩み寄り、こう問いかけた。


「ひとつ貴様たちに訊きたいことがある」

「オイオイ、あんたらの国じゃこれが人にモノを尋ねる態度なのか?」

「答えによってはこのまま刃の檻から出してやろうというのだ、素直に答えた方が得策だと思うがな」

「……分かったよ。で、なにを聞きたいんだ?」

「ある『ジンガイ』の姫を探している。名は『憎悪のシェラ』……我が国を一瞬にして滅ばした悪魔だ。そしてそいつは『始まりの姫』の1人とも名乗っていた」

「!!」

「――貴様、知っているのか?」

「その『憎悪のシェラ』ってヤツは知らないがな……だが、『始まりの姫』を名乗った別のヤツなら知ってる」

「では、そいつのことを詳しく話してもらおうか」

「ココを無傷で出るネタを出せないのは残念だけど、それはお断りさせてもらう。あいつはアタシの獲物だからな。横取りされちゃ困るんだよ」

「横取り? バカバカしい」

「どうだか。あんた自身からスゲエ血の臭いがするんだよ。どうせ出会った『姫』を片っ端から切り捨ててきたんだろ。そんなヤツに大事な(エモノ)のことを教えるワケにはいかないね」


 そう言って身構える【名無しの姫】にネストが呆れ顔で答えた。

 

「いいのか? しゃべらないということはこのまま殺してくれと言っているようなものだぞ」

「どの道、そういう腹づもりだろ」


 そう言って【名無しの姫】は十字架を盾のようにかざし、ネストに向かって突っ込んでいく。


「血迷ったか十字架の姫! そんなものでこの刃の檻を防ぎきれはしないっ!」

「そうかよっ!?」


 洞窟内に血飛沫が舞い【名無しの姫】の指が腕が脚が刃の檻によって切断される。だが、それでも突進を止めようとはしない。


「だぁぁぁぁぁっ!!」


 そのままネストに激突し、共に倒れこんでいった。


「ネスト様っ!」

「だ、大丈夫だチェイミー。それにしても四肢を犠牲にして一矢報いようとするとは……敵ながらなんという執念だ」

「あなた……あのボロ姫を過小評価してませんこと?」

「四肢を失ってこれ以上なにが出来ると――――っ!?」


 ネストが言い終えるより早く、その顔面目掛けて【名無しの姫】の左拳が炸裂した。

 一瞬なにが起こったのかが理解出来ず混乱するネスト。


「ば、バカなっ!? 確かに四肢は切断されたはず……なのになぜ!?」

「へっ、他人様よりちょっとばかし治りやすい体質なんでね」


 そう答えた【名無しの姫】の切断部から伸びた『根』が凄まじいスピードで切り落とされた部分を再生していく。


「これも……『姫』の能力なのか?」

「ネスト様……なんなんですかあいつ! あんなの『ジンガイ』過ぎますよっ!」


 その光景だけでもネストやチェイミーを圧倒するには充分なものだ。【名無しの姫】はそのまま倒れこみ、ネストに馬乗りになって殴りかかる。


「くっ……姉様っ、この者を屠る姿へ!」


 ネストがそう叫ぶと洞窟内に張り巡らされていた刃の糸が一斉にネストの右手へと集まってゆき、一振りの剣へと姿を変えた。


「調子に乗るなーっ!」


 そう言ってネストが斬りつけた剣を【名無しの姫】は右腕の十字架で受け止める。


「バカなっ! 鋼すら切断する姉様の刃を受け止めただと!?」


 その瞬間、共鳴音のような甲高い音が洞窟中に響き渡る。


「なんだっ!?」

「この音は――!?」


 ネストは咄嗟に【名無しの姫】を振り払って立ち上がり、体勢を整えて剣を構えた。先ほどより殺気が増している。それを確認した【名無しの姫】の顔に笑みが浮かんだ。


「剣士さんよぉ、これで勝負は分からなくなったな。鬱陶しい檻が無くなった分、少々派手にいかせてもらうぜ。『自在の十字架エヴァーチェンジ・クロス』、『大剣(クレイモア)』!」


 【名無しの姫】の十字架が大きな剣の姿へと変わっていく。その光景を驚きの目で見るネスト。

 

「先ほどの共鳴……もしや、この十字架も姉様と同じ……なのか?」

「なにブツブツ呟いてんだよっ!」


 そう叫んで斬り掛かる【名無しの姫】の大剣をネストは正面から受け止めた。


「ちぃっ! 見た目の割になんて頑丈な剣だよ……っ」

「ムダだ! 普通の剣なら簡単に折られるところだが、これは姉様の魂たる外導の金属。どんな武器と切り結ぼうと刃こぼれひとつしないっ!」


 その言葉と同時にネストの蹴りが【名無しの姫】の腹部に決まった。後ろに大きく吹っ飛ばされる【名無しの姫】。


「惜しいな……動きにキレはあるが所詮は子供。いかんせん軽量ゆえにパワーが足りな過ぎる。これでは得物が素晴らしくても活かしきれまい」 

「好きでガキやってんじゃねぇんだよっ!」


 洞窟内に剣のぶつかり合う甲高い音が幾度となく響き続ける。奥でうずくまっていたリタがなにかを感じ取ったように剣を交わす2人を見て呟いた。 


「なにか……2人の剣が悲しんでいるように聞こえる……」

すぐ小ネタに走るせいか戦闘シーンが絡むと全然話が進みません……。

これでも書いている方はノリノリなんですけどね(笑)

なんとか次回で決着をつけたいと思ってます。

頑張ります。

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