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第12話「ちょっとずつ、少しずつ」 下

 冴月の怒り全開の渾身の一撃。

 怪鳥の身体がくの字に折れ曲がり、その衝撃でリタを離した。

 小さな身体が上空に放り出される。


 怪鳥は落下途中で体勢を持ち直し、リタを諦めて南の街の方へと逃げ帰っていく。


「え、うそっ? アタシ落ちちゃうんですか? ムリですっ! 死んじゃいますー―っ!!」


 慌てふためき、混乱しているリタ。もちろん尻尾は逆立っている。


「気が散るから少し静かにしてくれるかしら」

「冴月サンっ!!」 


 落下しながら近づいた冴月は、リタをしっかりと抱きしめる。


「いい? このまま大人しく私に掴まっていなさい」

「は、はい!」

「大丈夫、無事に降ろしてあげますわ」


 ドクッ。ドクッ。


 『キモノ』越しにはっきりと冴月の心音……緊張がリタにも伝わってきた。


(……冴月サンでも緊張している!?)


「――……冴月サン」

「さすがの私もこの高さからの落下は初めてです。本当に……こんな事は二度とご免こうむりたいですわね」

 

(自分だけならまだしも、リタは人間とほぼ変わりませんし。ちょっとした失敗でも命取りになりますわね……)

 

 落下の勢いはどんどん増していき、地面が迫って来る。

 

「――……いきますわよ、リタ」


 頃合いを見計らって冴月が叫ぶ。


「『怒髪(どはつ)千手凱(せんじゅがい)』!」


 冴月の黒髪から生える4本の漆黒の巨大な腕。 


「『餓紗髑髏(がしゃどくろ)四重葬(しじゅうそう)』!」


 地面に向かい放たれた4つの光の髑髏が爆風を呼び起こし、2人を上へと撥ね上げる。


「くっ……、予想以上に爆風がっ」

「キャーッ!」


 勢いよく地面に投げ出される2人。


 ズザザザザァァーーーッ! 

 

 バキバキバキィィィィッ! 


 ドガァアッ!!


 そのまま地面を抉り、木々をなぎ倒し、岩場に激突した。砕けた岩が辺り一面に散らばる。


「冴月ーっ! リターっ!」

「――……まるで死んだかのような叫び声は止めていただきたいですわ」


 土煙が収まり、崩れた岩場に見つけたのは漆黒の塊。

 『怒髪(どはつ)千手凱(せんじゅがい)』の無数の腕がリタと冴月の身体を完全に覆い、衝撃から護っていた。


「おまえ、そんな事いつの間に?」

「落下の途中でどこぞのボロ姫が鎖で身体を覆っていたのを思い出しましたので、不本意ではありますが使う事にいたしました。本っ当ーに不・本・意ですわっ!」


 ようやくリタが気づいた。

 よく見ると冴月は身体中に傷を負ってボロボロの状態だ。


「あ、アタシのせいで、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ――……」


 座り込んで、怯えたように泣きながら謝り続けるリタ。しかし……。 


 ボカッ!


 いきなり、冴月の拳がリタの頭に炸裂した。……勿論、十二分に手加減はしている。冴月にしてみれば撫でた程度だ。が、


「痛ーっ!」 

「冴月っ!?」


「フン、脳ミソが飛び散らなかっただけありがたいと思いなさい」


 冴月はしゃがんでリタの両肩に手をやり、じっと目を見ながら話し始めた。 

 

「いいこと、あなたに謝ってもらってもこっちは少しも嬉しくないんですのよ」

「オイ冴月っ! なに言ってんだ!」


 だが、それには構わず冴月は話を続ける。


「あなたが私達を新しい飼い主なんかじゃなく、ちゃんとした仲間だと思っているのなら……少しでも同じ場所に近づきたいなら、こんな時は笑ってこう言いなさい」




「『ありがとう』って」




 リタの目から涙が溢れてくる。


「あと、いい加減、肉や魚料理が食べたいので、果物や木の実はもう結構ですからね」

「分かりました……」

「ま、まぁ……分かればよろしいですわ」


 と、リタがいきなり冴月に抱きついてきた。


「うわぁぁぁぁっ! ありがとうっ、冴月サァァァァン!」

「え、えぇっ!? ちょっとなんですの、いきなりこの懐き具合は!」


 泣きじゃくりながら身体をこすり付けるリタ。

 冴月は困りながらも優しくリタの頭を撫でている。


「仲良くなれて良かったじゃないか。なぁ、冴月」

「私はっ……別に、こんな……ひっ! く、くすぐったい! けっ毛が……ひゃあぁっ!」

「照れるな照れるな。2人共お似合いだって」

「そ、そうじゃなく早くこの娘を……ひゃあっ! し、尻尾が……ひぃっ……」

「冴月サァァァァン!」

「こら、ボロ姫っ! さっさとリタを引き離しなさー―いっ! きゃあっ……」


 人と人との距離が、すぐに縮まる方法なんて存在しない。

 でも……ちょっとずつ、少しずつ縮まる方法ならあるかもしれない。




 ――――翌日。ドアの前に川魚や野ネズミがごっそりと積まれていたのは、ご愛嬌という事で……。


  *  *  *


 ――――南部にある比較的大きな街『ヴァムーレン』。


 街の北側にある高台。

 そこに建っている、誰も足を踏み入れる事のなくなった古びた洋館。

 窓ガラスはほぼすべてが割れ、入口の扉は錆びつき、所々で壁も崩れかけている。

 

 だが、薄暗い大広間には男が椅子に座っていた。

 そして、男と向き合うようにして天井からぶら下がっている怪鳥の姿。


「オ……兄……ちゃン……ト……も……da……チ、イた……ヨ」

「――……」

「オ……兄……ちゃン……、オ……兄……ちゃン……、オ……兄……ちゃン……」

「――――……」

「ト……も……da……チ」

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