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第11話「ちょっとずつ、少しずつ」 上

お久しぶりの本編です。

 ――――山小屋から街道を西に行った所にある小さな町『ハーシュ』。


「これで3日目ですわよ……」

「3日目だな……」


 【名無しの姫】と冴月の起床後の宿屋での第一声。これで3回目だ。

 部屋のドアの前には果物や木の実がうずたかく積まれている。


「あの狐娘……リタでしたっけ、ちょっとやり過ぎじゃありません?」

「まぁ、でも美味いから問題無いんじゃね?」


 賞金首の褒賞を3等分にしたので2人はこうやって安いなりにもちゃんと宿屋に寝泊り出来るようになったのだが、その後のリタの貢物攻勢にはさすがの冴月も困惑気味だ。

 【名無しの姫】はそんな事など気にもせずにリンゴをほおばっている。


 狐娘……というか、愛玩目的で作られた狐の『ジンガイ』、リタ・ハーネット。

 彼女は2人の姫の威圧感に怯えながらも、何とか距離を縮めようとせっせと贈り物を続けていた。健気な狐娘()である。


「それで? リタをどうするつもりですの?」 

「どうするって何が?」

「厳しい事を言うようですが、『ジンガイ』といえどもリタは人間に毛の生えた程度。連れ歩いたところで足手まといにしかなりませんわよ」

「分かってる」

「大方、無理矢理『ジンガイ』にされた自分自身と重ねてらっしゃるんでしょうが」

「――……」

「異端教のやり口は気に入りませんが、アナタの目的は偽装種族(マガイモノ)の解放ではないでしょうに。そんな甘い考えでは、いずれ足元をすくわれますわよ」

「うるさいなぁ、分かってるよっ!」

「それに……何より本人が勘違いなさっているようですしね」

「……勘違い?」

「私、気晴らしに外を歩いてきます……あなたも少し頭を冷やした方がよろしいですわ」


 そう言って冴月は部屋を後にした。


「フィルならこんな時どうするのかな……」  


 ひとりベッドに腰掛け呟く【名無しの姫】だった。




 宿屋を出て町をぶらつく冴月。 


「あのまま喋っていたらエスカレートして宿屋を破壊してしまうところでしたわね」


 こちらも呟きながら、適当に店を眺める。が、あちこちから好奇の視線を感じる。

 

「オイ、何だあの変な格好の女は」

「この土地の者じゃないぞ」

「もしかして、最近の怪鳥騒ぎと関係あるんじゃ……」


 そんな会話に冴月は少し寂しそうな顔を覗かせる。


「……所詮は異国の者ですからね。まぁ、『ジンガイ』ならどこでも異端扱いですが」


 町の雑音を嫌い、町外れの林に足を踏み入れていく。

 木々の緑や香りが少しではあるが心を落ち着かせてくれた。

 

「――……」


「――――……」


「――――………リタ」

「はっ……ハイっ!」


 少し離れた後ろの木からリタの返事が聞こえた。


「何で付いてくるのですか?」

「近づけないなりに何かお役に立てればって……」

「言っておきますが、あのボロ姫はどうか知りませんが私には媚びても無意味ですから」

「え、でも……アタシは皆さんと少しでも仲良く……」

「必要ありません」

「――……」


 悲しそうな顔にうつむくリタ。


「それが、アナタの生きていく術なんでしょうが、いつまで奴隷根性でいるつもりですの?」

「!? そんな……あんまりですっ! アタシはただ――……」


 リタはそのまま林の中へ走り去って行った。

 

「……!」

「バッカヤロー―――――――――ッ!!」


 いきなり【名無しの姫】が殴りかかってきた。

 冴月は咄嗟に避けて切り返す。


「な、何でアナタがここにいるんですの?」

「おまえこそ何でそんなにリタを嫌ってるんだ?」

「別に、勘違いに気づかないのが気にくわないだけですわ」

「……勘違い?」




 ――――林の奥。


 ひとり木の上で塞ぎ込むリタ。


 その時、木々がざわめき、どこからかともなく女の子の声が聞こえてくる。


「ト……も……da……チ」

「何? 今の声……」

「ト……も……da……チ」

「どこから?」


 用心深く辺りを見回してみたが誰もいない。

 だが、わずかながらに感じるこの臭い。

 自分と同じ……『ジンガイ』だ。


「ト……も……da……チ…………見tuけタ」

「上っ!?」


 リタの真上には大人10人ほどの大きさはあろうかという巨大な鳥が羽ばたいていた。

 いや、鳥というには首の部分は細長く、そしてその先にあるものは……上下が逆になった長い髪の少女の顔。


「ト……も……da……チ、ト……も……da……チ、ト……も……da……チ……」

「キャアァァァァァァッ!!」


 その怪鳥はリタを両足で掴み、一気に上昇する。


 そこに、リタの悲鳴を聞いた【名無しの姫】と冴月が駆けつけてきた。


「な、何ですの!? あのバケモノは」

「アイツ……偽装種族(マガイモノ)なのか?」

「下からでは掴まれてるリタが盾になって攻撃出来ませんわ!」

 が、十字架から伸びる鎖も長さに限界がある。


「くっ、この高さじゃ鎖が届かねぇ!」

「【名無しの姫】! 鎖を使って私を投げ飛ばしなさい!」

「え、無茶だろ! 木にぶち当たっても知らないからな!」

「かまいません! いいから早くっ!」

「『自在の十字架エヴァーチェンジ・クロス』! 」


 鎖が冴月の身体に巻きつき、その瞬間。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 【名無しの姫】が、力任せに冴月を放り投げる。

 勢いよく上昇した冴月は上空で怪鳥を射程に捕らえた。


 怪鳥が冴月の存在に気づく。


「オねェチゃン……daレ?」


「本来であれば、ぶん投げる方が私の専門なのですが……今回ばかりは特別です」

「! 冴月サンっ!」


 リタも冴月に気づいた。


「アナタを素手で一発ブン殴らないと気が収まりませんからっ!」


 ドッゴオォォォォォオッ!!!! 


 冴月の『気』を込めた渾身の右が炸裂した。

 

「ブッ飛びやがれ! どサンピンがぁぁぁぁぁあっ!!!」

怪鳥のデザイン無茶苦茶ですいません。

みなさんの想像力にお任せいたします。

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