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第9話「一瞬で永遠の素敵な思い出」 3

今回、グロシーンがありますのでご注意下さい

 街の外れにある古びた教会。老朽化が酷く現在では廃墟も同然になっている。


「私の役目はここまで。では、素晴らしい出来を期待しておりますよ」


 淡々とそう告げると、祭壇のような場所にメルティナ姫を置き、早々に闇の中へと消えていく『空虚(くうきょ)のヴィアージュ』。

 メルティナ姫は薬か術によって眠らされている。周りには黒いローブを纏った者達がひしめいており、その中の指導者らしき男が一歩進み出て口を開いた。


「ようこそメルティナ姫。いや、聖櫃(せいひつ)の姫よ」



  *  *  *



 ようやく目を覚ましたフィルは思い出の木に拳を何度も打ちつけた。

 すり傷で拳に血が滲んでいく。


 飲み込まれたメルティナの姿が目に焼きついている。

 なにも出来なかった悔しさで、とめどなく涙が溢れてきた。

 

「畜生ぉー―――――――っ!!」

 

 必死に涙を拭い去ったフィルは、悔しさを吐き出しながらアセリア城に走っていった。

 

 


 ――――――アセリア城。


 「メルティナ姫が誘拐されたっ!? まさか、そんな……!」


 フィルの報告を聞き、騒然とする家臣達。

 国王ザレイン三世は王錫を床に叩きつけ激高した。


「異端教どもの仕業かっ! ぐずぐずするな、急いでメルティナを連れ戻すのだ!」

「はっ!」


 夜闇の中、多くの兵士達が松明をかざしながら街中を探し続けた。

 国外へ出る為の街道もすぐに封鎖されたものの、メルティナ姫の行方は依然として掴めない。

 

 国王の顔に焦りの色が見え始める……。


「メルティナ姫…………くそっ!」

 

 いてもたってもいられなくなったフィルが街に飛び出そうとした時だった。


「国王陛下っ! 異端教のアジトと(おぼ)しき場所を発見しました!」

「どこだ!?」

「南西オッツ地区にある廃教会です。周辺を兵が包囲し次第、突入します」 

「頼むぞ。メルティナ姫を無事に救い出してくれ」

「はっ」

 

 本来なら王に拝謁など敵わぬ身分なのに、他ならぬ姫のことだからと王に(まみ)え、そしてそのままそこの片隅に留まっていたフィルも、自らもメルティナを助け出そうと、急いで廃教会へ向かった。


(もう少しの辛抱だよ。今度こそ絶対に助けるから)


 廃教会を見つけたものの、辺りが騒然としている。

 よく見ると血まみれの兵士達が廃教会から我先に逃げ出していた。

 

「ば、化け物だぁーっ!! 行けば喰われちまうぞ!」

「助けてくれえっ!」


 叫びながら逃げ出す兵士達を潜り抜け廃教会の中へと入るフィル。

 中は静まりかえっている。

 教会の造りなど、規模の大小はあっても基本は大差ない、いるとするなら大聖堂だろうと、そこを目指し踏み込んだ途端、足元がズルリとすべった。


「!?」


 よく見ると、そこには巨大な血溜まりと兵士と異端教徒と思われる無数の死体……。

 死体にはどこからともなく巨大な『根』のような物が突き刺さってわずかに動いている。

  

 死体を……吸っている…………!?


「うっ……うげぇぇぇぇっ……げえっ! げほっ!」


 異様な光景と血と肉の生臭さで、嫌でも吐いてしまう。


「――……な、なにがどうなってるんだ? 他の兵士は? あの家庭教師は?」




 ――その時だった。



「――……ィル?」 


 暗闇の中、大聖堂の奥で物音と共にかすかな声が聞こえる。


「メルティナ姫!? 姫様ですかっ?」

「フィル? フィルなのっ?」

「待ってて下さい、いま助けに行きますから!」


「ダメぇっ!!」

「え!? どうして?」


 そのひと言に驚くフィル。

 少しでもメルティナに近づこうと足を進めようとした時、またメルティナの叫び声が。


「来ないでー―っ! お願いだから、私に近づかないでぇ……っ」

「なんでですか!? どうして行っちゃダメなんですかっ?」

「……だって」

「――……?」

「だって……私…………フィルには嫌われたくない……っ」


 近くに倒れていた瀕死の兵士が振り絞るように言った。


「逃げろ……あんなの姫じゃねぇ…………それどころか、人間なんかじゃねぇ」


 大聖堂のステンドグラスから青白い月の光が差し込み、ゆっくりとメルティナの全身を照らしだす。

 祭壇に上半身はを拘束され、泣いているメルティナ。


 ……だが、人間といえる部分はそこまでだった。

 

 メルティナ姫の下半身はもはや人の形を留めておらず、無数の巨大な『根』が伸びている。

 そして、その巨大な『根』が兵士や異端教徒を襲っていた。


 フィルは恐怖で足が震えて立ち竦んだ。


「こんな身体、怖いよね? 気持ち悪いでしょ? もういいから……来てくれただけで嬉しかったから。だからフィルは逃げて」


 だが、フィルは自分の拳で震える足を殴りつけた。何度も……何度も。

 足が内出血で紫色に腫れ上がり、ようやく震えが治まった。

 そして言う。

 

「怖いけど……絶対に逃げない」

「フィル……」

「だって、姫様がこんなにも泣いているんだもの。僕の大好きな、強くて恰好いいメルティナが」


 途端、メルティナ姫が顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる。

 そして、涙と鼻水まみれの笑顔で、こう言った。


「大好き、フィル」


 ひとつ頷いたフィルは兵士の死体から剣を取り メルティナを拘束している鎖を壊そうとする。


 ガシィッ キィィィン!


 が、ビクともしない。


「フィル!」

 

 剣先が折れ、刃先がフィルの頬を掠めた。

 頬から血が流れ落ちる。


 フィルはそんな事を気にもせず、ひたすら剣で鎖を切りつける。

 そして剣が使い物にならなくなれば、別の兵士の死体からまた持ってきてを繰り返す。


 フィルの身体には折れた刃先による傷がどんどん増えていった。


 だが、それだけの事をしても所詮は非力な子供。

 鎖に傷は付くものの壊すには至らない。


「もういいよ……もう」

「全然よくないっ!」

「このままじゃフィルだって兵隊さんみたいに私に殺されちゃうよっ」

「でも……っ」

「嫌だよ、フィルに死んで欲しくないもの……フィルを殺したくないもの! …っ!?」


 フィルは剣を放り出し、叫ぶメルティナを思いっきり抱きしめた。


 その時、フィルは思わぬ光景を目にした。

 首からかけている十字架がメルティナに近づくと、少しではあるが『根』の部分が人間の肉体に戻っていく。


(……そういえば、あれだけの人が『根』に喰われてるのに自分を襲っては来ない。それって……)


「大丈夫ですよ、姫様。これをかけて少し待っていて下さい」


 フィルは自分のかけていた十字架を外してメルティナの胸に置いた。


「うそ……なんで? 苦しくない……」

「必ず神様が、メルティナを護ってくれますから。少しだけ待っていて下さいね」


 フィルは再び剣を取り、教会の高廊に掲げてある大きな十字架に向かって走り出した。『根』を避けながら走りきる。


 そして着いたと同時に手にした剣で十字架の根元部分を削り始めた。   

 普通であれば不可能とも思われた行為だ。

 だが、老朽化で腐食していた事が幸いし、十字架はすこしずつ傾いていく。


(いける!)


 姫様を……メルティナを救い出せる。そう思ったら、力が湧いてくる。

 廃材を使ってみたり、体当たりをしたり、思いついた事は全てやった。 

 切り傷や血まめでボロボロの両手だって、全然気にならなかった。 

 


 

 そして……とても長い時間が過ぎ――……  

 

 ガシャー――――――――ン!!!


 教会中に響くほどの音を立てて十字架は倒れていった。




 重装歩兵部隊が到着したのは朝焼けも見え始めた頃だった。

 

 但し、彼らの任務はメルティナ姫の救出ではなく、化け物の抹殺。


 隊長の合図と共に部隊が一斉突入した。


「おい……どういう事だ?」

「化け物はどこに行った?」

「あそこを見ろっ! メルティナ姫だ!」


 駆け寄る兵士達。



 祭壇の上、人間の姿で眠るメルティナ姫と姫に覆いかぶさるようにして眠るフィル。

 

 そして姫の横には大きな十字架があった。

気張って書いたラブラブなシーンですが、なぜかグロさがUPしてしまいました。

すいません。

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