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七夕市の異変

 俺と清一はいつものように交互に歌を歌った。


清一が演歌を歌うものだから案の定どんなテンションでいればよいのかわからない。アップテンポの曲、演歌、バラード、演歌の繰り返しと清一の衣装とが合わさりもはやカオスな状況になっている。


 ひとしきり歌いお互いジュースがなくなったのでそれに気が付いた清一が気を利かせて二人分のコップを持ってジュースを注ぎに行こうと立ち上がった。


そのままの格好で。


俺はソファーに座っていたのだがドアノブを回そうとしている清一にいそいで飛びついた。


俺の手は羽につかまり膝から下はだらんと床に付いている。


「まてまてまてまて!お前その格好でジュースを注ぎに行く気か!」


 俺は慌てて呼び止めるが、清一はきょとんとした表情をして振り返る。


 だめだ。恐らく何がおかしいのかわかっていない。


 俺はきちんと立ち、清一からコップを取った。


「俺がジュースを注いでくるからお前は休んでろよ」


「そうかい?じゃあお言葉に甘えて頼もうかな」


 清一は笑顔でそう言うと元いたソファーに座りなおした。


 やれやれ、こいつといると気の休まることがないな。


来るときには気づかなかったが廊下に出て気がついた。


隣の部屋もかなり盛り上がっているようだ。防音とはいえ完全に聞こえないわけではない多少の音漏れは仕方ないとはいえなかなかの漏れっぷりだ。


相当大音量で歌っているに違いない。


戻ってきたら少しのぞいてみるか。


 セルフサービスのドリンクはその部屋とは反対の方角にある。


2人分のジュースを注いでいる時に「あのーすみません」と後ろから声が聞こえたので振り返ると女性の従業員がなんだか気まずそうな表情でそこに立っていた。


「すみません。他のお客様からの話しなのですがそちらの部屋に妙な…。その…。白い化け物を見たと情報があったのですが…。」


ものすごく申し訳無さげに言ってくる女性従業員が不憫(ふびん)に思えた。この人も客に対してこんな事聞きずらかっただろうな。


「言っておきます」


女性従業員は頭にクエスチョンマークが浮かんでる事だろう。せめてもの償いとしてとびきりの笑顔で言った。


部屋の前の廊下まで来た。


やはり隣の部屋からは大音量で歌が聞こえてくる。部屋の扉は一部だけ透明になっているのでその隙間から部屋の中が見える。


恐らく他のお客さんが俺たちの部屋を通った時ちらっと見て白い化け物を見たに違いない。


俺は両手にコップを持ち隣の部屋をちらりとのぞいた。すると予想もしてなかった光景に思わず目を見開きコップを落としそうになった。


てっきり複数いると思っていた部屋には1人しかいなかったのだ。今流行りのヒトカラというものだ。


だがそれだけではなくヒトカラをしているのがどうも俺の知っている人間のようだ。


確かあいつは木村真司(きむら しんじ)だったはず。


クラスは違うが同じ七夕高校に通う同学年だ。野球部で引き締まった体に日焼けした肌と坊主頭。白いシャツにジーパンという格好だが野球部特有のオーラが隠しきれていない。キリッとした眉毛に爽やかな笑顔。あまり喋った事は無いのだが俺の印象は爽やか好青年といった感じだったのだが…。


透明な隙間から見える木村は坊主頭をブンブン縦に振って歌っている。しかも失恋ソングを。


頭を振っているせいかまともに歌えていない。それどころか画面に映し出されている歌詞に歌が追いつけていない。


そのノリ方はおかしいだろ…。


俺はふと自分の部屋をのぞく。予想通り幸子が白銀の翼をはためかせて演歌を熱唱している。


木村が歌い終わったのか。両膝を床に着けて両手を上に向かって広げている。


七夕市ってこんな町だったか?


 俺は自分が現実世界にいるか不安になったので軽く頬をつねる。


 残念なことに夢じゃなかった。

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