住宅地のT-800
昼食を食べ終わった俺は清一を居間に残し一旦自分の部屋へ戻った。
流石に寝間着で外に出る訳にはいかないし部屋の片付けもしなくてはいけない。
待たせるのも悪いので急いで外行き用の楽なTシャツに着替え、散らかってる部屋もざっくりと整理した。足早に一階へ戻ると清一はテレビを見ながらお茶を飲んでいた。
その後姿を見てつい思う。
自分の家か!
「清一。準備終わったぞ」
清一はお茶を片手に俺の方を向く。
「おお。それじゃあ行こうか。清一の母上、美味しい昼食とお茶ごちそうさまでした」
清一は残ったお茶をぐいっと飲み干し台所で洗い物をしている母さんにコップを持って行き丁寧にお辞儀をした。
母さんは嬉しそうに「またおいで」と返す。おそらく心の底から言っているのだろう。こんな笑顔は嵐のライブDVDを見ている時しか出さない。
いつまでも清一をここに居させると母さんの邪念が消えないと思った俺は清一を連れてそそくさと外へ向かった。
靴を履き玄関を出ると夏のぎらぎらとした日差しが容赦なく体に降り注ぐ。
蝉のやかましい声が家の中にいた時以上に聞こえる。耳をつんざくようでうるさいのだがこれを聞くと夏がやって来たなと改めて思う。
「歩いて行くのか?」
俺は尋ねた。この日差しの下歩いていくならば到着した頃には汗だくになっているだろう。
「いやいやちゃんとその辺は準備してあるよ。原田さーん」
清一がそう叫ぶと地鳴りのような音を響かせながら何かが近づいてくる音がする。
すると、俺は一瞬大きな影に包まれたかと思えば、大きな物体が後ろから俺の頭の上をかすめて行った。ガシャンと大きな音を立ててそれは着地した。
俺は思わず「どわぁっ!」と言うと、その場に伏せた。
何だ⁉︎
よく見ると真っ黒のライダースジャケットに身を包み、サングラスをかけた30代後半ぐらいの厳つい男がハーレーにまたがっていた。
清一の実家が営んでいる八百屋の従業員、原田さんだ。
清一は笑顔で原田さんを見ている。
「やあ原田さん。早速で悪いんだけど僕たちをカラオケまで連れて行ってはくれないかな?」
原田さんはニヤリと笑う。
「承知しました坊ちゃん」
原田さんのその姿はガタイの良さといい人相の悪さといいどこからどう見てもターミネーターだ。Iwill be back.のセリフが日本で一番似合うんじゃないだろうか?
俺は突然の出来事にしゃがみ込んだまま呆気にとられていたが冷静になってみると明らかにおかしい点に気がついた。
いや、そもそも住宅地のど真ん中をバイクで人の頭をかすめながら登場した時点で十分おかしいのだが一旦それは置いといて。
俺はにこやかに談笑するジョンコナーと、ターミネーターの二人組の方を向いて言った。
「なあ、バイクだと後ろに一人しか乗れないぞ」
それを聞くとターミネーターコンビはハッとした表情で俺を見た後お互い顔を見合わせ、頭を掻きながら改めて俺を見て苦笑いする。
俺はしゃがんだまま頭をがくりと落とす。
起きてそうそうハードだな…。