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ひとまず今日は帰ろう【石原】

 ばたりと糸の切れた操り人形のように倒れこむ真司を葵先輩は抱きかかえ。「こんな大きな通りではまずいわよ。」と心配そうに言うと私にハンカチを手渡した。


「ほら、それで涙を拭いて。」


 先輩は優しく言った。


「とにかく、ここは私に任せて美香はもう帰りなさい。一緒に帰りたいところだけどこんな状況で木村君をほうり捨てていくわけにもいかないしね。」


 確かに真司をこのままにしておくわけにはいかない。


「わかりました。でも先輩も万が一のことがあるから。気を付けてくださいね。」


 葵先輩が私にここまでしてくれるのはありがたいのだが同時に危険にもさらしている。私だけならいい。でも周りの大切な人に危害が及ぶのは自分が何かされるよりも心が痛い。


 心配そうな表情でそんなことを考えていると先輩の優しい手がポンと私の頭の上に置かれた。


「私は大丈夫よ。それに真司君も心配しないで。ほら帰った帰った。」


 優しく微笑みかけられた後私は後ろを向かせられ背中をトンと押された。


 そのまま先輩は意識の無い真司をズリズリと引きずって行きケン〇ッキーの前まで連れて行ったかと思うと今度は店の前に置いてあったカー〇ルサ〇ダースの置物まで担いでどこかへ消えて行ってしまった。


 だ、大丈夫かな…。


 私は尋常ではない不安を抱きながらも家への道を歩くことにした。





 家に帰るため最寄駅へと向かう途中スマホの着信音が鳴った。誰からの電話かを確認したのち通話のボタンを押した。


『もしもし』


 聞きなれた声にホッとする。


「うん、どうしたの?」


『いや、今どこにいるのかなっと思って。』


「今から帰ってくるよ。特に寄り道もしないから1時間もせずに家には着くと思う。」


『そう、わかった気を付けて帰っておいで~。』


「はーい。」


 通話が終わる。


 心配かけないように早めに帰ろ。


 自然と歩みが早くなる。


 しかし今日はちょっと疲れたな。一日で二回も真司のせいで泣いちゃったし。


 ふと先ほどの会話が思い出される。


 すると急激に恥ずかしくなったのか顔が熱くなってきた。


 ま、まずい。今私どんな顔してんだろ。


 心配になり近くのお店のガラスに映った自分の表情を恐る恐る見る。


 やだ、真っ赤。


 顔のほてりを覚まそうと両手で顔をパタパタと仰ぎながら歩くことにした。


 まさかあんなタイミングであんな事言われるなんて思ってもなかったし、確かにあいつの言う通り服はビショビショ場所は大通りとシチュエーションは最悪だったけど。


 でも素直にうれしい。今まではぎりぎりの所で頑張ってきたけど今日言われた言葉でまた頑張れる。そしてまたちゃんと真司に会いたい。


 夏の晴れ渡った空と自分の心が同調したのは久しぶりだった。


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