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夏休みの深夜

八月某日。深夜。


絶賛夏休み中の俺。古村正信(こむら まさのぶ)は深夜自宅の自室である者と静かな戦いを繰り広げていた。


毎日が日曜日である俺はいつものように気持ち良く熟睡していたのだが突然安眠を妨げられる事となった。だ。


初めは目を閉じたまま音がした方の耳を叩いていたのだが、一向に音が止むことがない。しまいにはあまりにも叩き過ぎて耳がヒリヒリしてきた。


流石にイライラしてきた俺は部屋の電気をつけてベッドの上であぐらをかいた。


 本棚、衣装ダンス、机、テレビ、オーディオ機器。視線を素早く周囲に走らせる。


出てこい。叩き潰してやる。


だが電気をつけた途端に音が止み、辺りを見渡しても姿が見当たらない。


数分あぐらをかいたままじっとしていたが気配すら感じないので見つけるのを諦めそのまま寝ることにした。


数分後


いい具合いに眠気がやってきた頃。またあの音によって睡眠を妨げられた。


急いでベッドから飛び起き電気をつけて辺りを見渡す。がいない。


なるほど。なかなかの強者じゃないか。だがこの俺から二度も逃げ切れると思うなよ。


先ほどと同じようにベッドの上であぐらをかく。心なしか手の甲がかゆい。見ると赤く膨れている。


暗闇に紛れて血を吸うとは卑怯な奴め。姿を見せろ!根性叩き直してやる。


深夜に突然起こされたせいで妙なテンションになっている。


あぐらをかいたまま部屋中を睨みつける。すると壁に小さな黒い物体が見えた。


なかなかの強敵だったがこれで終わりだ!


俺はベッドから勢いよく飛び出し黒い点に向かって手のひらを思いっきり叩きつけた。部屋に爽快な音が響く。


やったか?


俺はゆっくりと手のひらを見る。だが、そこには何もない。失意の中ガックリと肩を落とす。


だが更に衝撃の事実を知ることになった。


叩いた壁をよく見ると黒い点がまだ残っている。しかしそれは蚊ではなく以前画びょうを刺していた時に出来た穴だった。


余りの馬鹿丸出し加減によりガクガクと震える足を俺は必死に手で抑えた。


こんな所を家族に見られでもしていたら…。ある意味深夜で助かった。


俺は蚊に恥をかかされた(逆恨み)事により完全に火がついた。


 目は血走り、髪は(寝ぐせにより)逆立ち、般若のような形相である。


やってやるよ…。ああやってやるよ!今夜はとことんお前に付き合ってやる。俺は明日も明後日も休みなんだからな。俺を相手にしたことを後悔させてやるわ!


俺と姿を現さない強敵との静かなる戦いが始まった。


翌朝


階段を上る足音が止み、部屋の扉が勢いよく開く。


「正信!夏休みだからってダラダラしてんじゃないのよ!朝はちゃんと起きて朝ご飯食べ…」


その光景を見た古村正信の母は言葉を失った。


それも仕方が無い。椅子はひっくり返り本棚の本は飛び出し、部屋中の家具が荒されている。フローリングには息子が大の字に横たわっているのだ。


「ちょっと正信!何があったの!」


母は悲鳴にも似た声を出し、近寄って俺の体を揺さぶった。俺はうっすらと目を開ける。


「何?空き巣でもあったの?お父さん呼んでくるから待ってなさい」


母はオロオロと心配そうに俺を見つめ父を呼びに行こうとしている。


俺は母さんの腕をガシリと掴み部屋を出ようとする所を捕まえ、限界寸前の理性の中絞り出すような声で言った。


「蚊取り線香買って下さい…。」



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