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私は…。【石原】

 空は澄み渡るような青空ですべてを明るく包み込むかのように太陽がさんさんと輝いている。それなのに私の心は曇る一方だ。


 私は校舎の二階から真司達が校内に入ってくる一部始終を見ていた。真司が隣の男性と何を話しているのかわからないがしばらくするとうつむきながら一人河川敷の方へ歩いていった。


私はその光景を窓越しに呆然と見守る事しか出来なかった。


 胸が痛い。


真司が校内へ入って来るのが見えた時、いけないとは思いながらも心が浮き足立つのがわかった。私は真司に逢いたかったのだ。


私以外誰もいないはずの廊下に足音が響き渡る。真司達と話を終えた葵先輩が戻ってきた。


「しかし外は暑いわね。ちょっと出ただけで汗をかいたわ。」


私は嫌な役を受け入れてもらった事に対し感謝の気持ちを伝えそして謝った。


先輩は優しく微笑み首を横に降る。


「いいのよ。それより酷い顔してるわよ。」


そう言われ窓に映った自分の顔を見る。ショートボブの女が疲れ切った表情で写っている。まるで自分じゃない他人を見ているようだ。


先輩は私の肩に「ポン」と手を乗せると「何かして欲しい事があったら何でも言って。」と言い、私の肩をぐいと自分の方へ向け私の頬を両手で引っ張った。


「ほら、そんな顔しない。せっかくの美人が台無しよ。」


先輩は両手を離すと「じゃあ私は玄関で待ってるよ」と言い笑顔で去っていった。


先輩の背中をぼうと眺めながらヒリヒリと痛む頬を撫でた。私は心が少し軽くなりクスリと笑う。


吹奏楽の朝練が終わったので教室へ戻り帰り仕度をする。今日もいつも通り葵先輩と帰る予定だ。鞄の中に荷物を詰め込みながらぼんやりと思う。


昔は毎日真司と一緒に帰ってたな…。


朝は私が家に迎えに行き、放課後は真司が私を迎えに来た。中学生の時は付き合ってるんじゃないかとよくからかわれたものだ。その度に強く否定した。だけど心のどこかでそう言われる事に喜びを感じている自分がいた。


高校受験の時は本当に迷った。昔からの夢だったキャビンアテンダントになるには星空学園に進学するのが一番の近道だった。でもそうすると七夕高校に進学する真司と離れ離れになってしまう。結局志望校提出のぎりぎりまで粘り星空学園へ行く事にした。


星空学園へ進学すると真司に言った時「そうか、キャビンアテンダントになりたいって言ってたもんな。頑張れよ。」とそっけなくだがそれとなく励まされた。きっと真司なりの優しさの表現の仕方だったんだと思う。


それでも素直になれない私は「これでやっと真司と離れ離れになれる。」なんて心にもない事をつい言ってしまった。そしていつものように喧嘩した。


あの時本当の気持ちを伝えるべきだったのだ。


高校の初登校前日の晩、一緒に登校する口実を考えていたのだがとうとう思いつかず朝になってしまった。結局いつものように迎えに行き「途中まで一緒だから行ってあげる。」なんて上から言ってしまう。


本当は私が一緒に行きたいのに…。


 真司の事を気になり始めたのは小学生の頃、いつも遊んでいた公園で言われたあのセリフがきっかけだった。その日から私は真司と一緒にいると妙に恥ずかしい気持ちになり、そんな気持ちを隠すためにわざとそっけない態度をとった。でも私がいくらそっけない態度をとっても真司は私が困っている時は必ず助けに来てくれた。


 小学生の時、夕方遅くまで遊んでいて帰り道がわからなくなり泣いていた時も真司が七夕市を走り回って見つけに来てくれた。私が大きな犬に襲われそうになった時も棒を持った真司が私の前に立ちはだかって犬を追い払ってくれた。中学の時は悪い先輩の彼女にされそうになった私を一人で立ち向かって助けてくれた。真司は私を助けてくれる度に「あたりまえのことだ」と素っ気なく言う。


 他にも色々な場面で真司には助けてもらった。いがみ合いながらも私を陰ながら守ってくれていた真司に私は何かしてあげたのだろうか。それどころか…。


 手の甲に雫がぽたりと落ちる。自分が情けなさすぎて自然と涙が(あふ)れてくる。


 教室の扉ががらがらと開く。待ってもなかなか来ない私を心配したのだろう葵先輩が入ってきた。


 私は先輩にばれないよう涙を手の甲でふき取り笑顔で先輩の方を向く。


「すみません。帰る準備に手間取って。」


 先輩は柔らかい笑みを浮かべながら言う。


「全く。なかなか来ないから先に帰ってようかと思てた所よ。」


 


 廊下を歩いている途中ふと窓に写った自分の姿を見る。


 目が赤くなってる…。


 泣いたせいで赤くなったのだろう。その事に先輩が気づかないわけがない。


 あえて言わなかったのか…。


 先輩は最近面白かったテレビ番組の話を笑いながら話している。


 私は隣を歩く先輩の優しさにまた救われたような気がした。



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