我ながら情けない【木村】
古村と家倉に合った日の夜、ランニングをするために外へと出た。
虫達が心地よく合唱している。真夏特有の生ぬるい熱気が肌に触れる。ランニングをやろうと思ったのは野球部という事もあるがランニングをする事によって気分も紛れると思ったからだ。
外に出た時つい美香の家を見てしまう。家の明かりは灯っているが美香の部屋は真っ暗のままだ。
今日も美香にメールをしたのだが素っ気なく切られた。
気の向くまま軽く走り始める。熱気のせいですぐに汗がにじむように出てくる。
いつからだろう。美香と会えば憎まれ口を言い合うようになったのは。いつからだろう。誕生日プレゼントを毎年あげていたのに恥ずかしくてあげなくなったのは。いつからだろう。昔はあんなに毎日遊んでいたのに遊ばなくなったのは。いつからだろう。美香の顔を見るとドキドキするようになったのは。
中学の時、違う高校に行くと美香が言った時言葉が出なかった。ようやく絞り出した言葉は簡単な励ましの言葉だけだった。付き合ってるわけじゃない。ただの幼馴染。美香の進路に対してとやかく言えるような立場じゃない。
高校の初登校の日。途中までは一緒だからと言って美香が朝俺を迎えに来た時は顔や態度には出さなかったが心は浮き足立っていた。そんな気持ちを悟られたく無かった俺はわざと素っ気ない態度をとった。
美香と十何年も一緒にいたのにたった2ヶ月合わなかっただけでこれだ。我ながら情けないと思う。それでも美香の事が好きだと認める事が出来なかった。認める事によって今の関係が崩れてしまうのが怖かった。
ただ、今は美香ときちんと話しをしたい。どうして俺を避けているのか。たとえ彼氏が出来て俺を避けているのだとしてもそれを面と向かって言って欲しい。そうすれば俺も前を向けるのに。
汗が目に入り目をこする。気の向くままに走っていると小学生の頃夜に美香と抜け出して遊びに来た丘のある公園に来ていた。
小さな公園だ。危険だという理由でいろんな遊具が公園から消える中、この公園の遊具はあの時とほとんど変わらない。像の形をした滑り台、定期的にインクを塗り替えるためたびたび色が変わるブランコ、整備が行き届いてないのかギシギシと音を立てるシーソー。公園の真ん中には小さな丘がある。
あの頃は大きく見えた遊具も丘も今では小さく見える。
目の前にある丘で2人座って話した内容を美香はまだ覚えているだろうか。
公園はあの時のまま残っているのにそこで遊んでいた俺たちは月日が経ち変わってしまった。
ぼんやり立ち止まって丘を見ていると急に自分が情けなくなり皮肉のように笑う。
「帰るか。」
綺麗な夏の大三角形がきらめく空の下、ポツリと呟いた。