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堕天使の思考。

「やめろ!!」

「…?」

「テッド!あんた、テッドって名前だろう!」

「テッド…?」

「ずっと捕獲・殺処分命令が出てる!危険すぎるから抹殺しろって…!」

「まっサツ?」

「でもできたら捕獲しろって国は言ってるんだ…あんたのことを手懐けることができれば国のために役立つんじゃないかって…」

「?」

「生物兵器にしようとしてるんだよ!僕の言ってることわかる!?」


大量の血を流しながらぐったりしているシオンの首を掴んでいる不気味な容姿の人外、テッドに向かって必死に声を張り上げる。

今言ったことは事実だが、テッドが理解できているようには見えなかった。

テッドはそこら中で現れる神出鬼没の狂気的生物と言われ、どうやって移動しているのか、何故現れるのかもわかっていない。

わかっているのは現れると物を片っ端から壊していくことだ。

生き物もテッドの中では「物」に分類されているようだが、「食べられる物」として見ているようで生きたまま肉を食べているところを目撃している者も多い。

壊す物を区別しているわけでもなさそうで、目の前の壊せる物をただどんどん壊していくだけのようだった。

その様は、欲求を満たそうとしているように見える。

そんな理解できない生物を野放しにすることは危険すぎる。

だからみんなあらゆる武器を、魔法を使い、捕らえようと、殺そうとした。

魔法系や武器を一切使わないのに体力、脚力、スピード、パワー、その他も基礎的なものだけが全て異常なほど高く、強い。

体の鱗は傷つきはしても鱗の下の肉は守り、切り裂かれることはない。

魔法は攻撃の場合、単体に向けて使う場合と、広範囲に向けて使う場合とで大体は分かれる。

テッドの八つの目はちゃんと機能しているらしく、何をどう見ているのかはわからないが、単体魔法は何でも破壊されてしまう。

攻撃魔法も催眠や麻痺等の攻撃ではない効果系ですら、手で何かを握る素振りをすると効果が現れない。

広範囲の魔法も同じことで、周りの被害が魔法によって更に拡大してしまうだけだ。

単体魔法も大勢が同時に放つのはやはり危険だ。

つまり、魔法は効かないのだ。

テッドは周りの殺意、攻撃を恐れることなく変わらず壊し続け、気が済むとふらっとどこかに消えていった。


歪んだ笑い方しかせず、不気味な容姿で八つもある目が特徴的なテッドは見た目は女性だ。

胸があることから性別上は一応女性と言われているが、実際のところは本当に女性なのか知っている者はいない。

そんな性別よりも先に、生き物として危ないものだとみんな思ってしまうほどの狂いっぷりだ。


彼女の身体能力は異常なほど高く、強い。

しかし、異常なほど低く、弱い部分が逆にある。


それが、脳だ。

脳の機能として身体面は高いのかもしれないが、思考する力、言語、理解能力が低いのではないかと言われている。

動物的機能が高く、人間的機能はあまりないようなのだ。

容姿は人間のようだが明らかに人間ではないし、動物的なのかもしれない。

だが、たまに片言だが聞き取れるような発音で言葉を話したりもする。

会話は成立しないが、その言葉と行動が伴うことからもしかしたら人間的な部分も持っているのではないかと言われている。

全て推測であり、真実を知る者は誰一人としていない。


「これは事実だよ!もう何十年も、ずっとみんな知ってる!怯えてる!あんたを殺そうとしてるんだよ!?」

「おもシロくなイナ」

「くそっ…通じないじゃないか…何の言葉なら通じるってんだよ……」


テッドの視線はこっちに向いているが、手はシオンの首を掴んだままだ。

あのまま力を入れられたらシオンの喉は完全に潰される。


「壊すのが…好きなんだよね?それともお腹でも空いてるわけ?なんか食べるならこっちにさ…」

「タべる」

「え?」

「タべる」


シオンの喉から手を離し、ゆらっと立ち上がるテッド。

そして不気味な笑みを浮かべてこっちを見る。


「食べるって…僕のこと…かよ…」


低姿勢で突進してくるテッドのあのスピードを避けきる自信はない。

だから体を霧散させてあらかじめ仕掛けておいた一番近くの転送陣の元にすぐに移動する。

シオンが突然いなくなり、山中を探し回っている時に重装備をした兵隊達に会った。

そこで聞いたのがこの近辺でテッドが出現しているということだった。

それを聞いて僕は場の開けた場所にすぐに転送陣を二つ設置しておいた。

転送陣の限界個数は六つだ。

残りの四つは残しておいたが、テッドとシオンを見つけた時点で一つを上の方の木の幹に設置した。

今はそこに一旦退避した。


自分達のような人間以外の者が使う転送陣は一般で言う魔法陣とは違う。

まず、円などのややこしいものは必要ない。

小さくても自分の名前をちゃんと書き込み、自分の(たましい)をそこに少し込めておけば転送陣の完成だ。

解除すればそこに名前が残ることはないが解除しなければ誰の転送陣かがわかってしまうため、やたら使うことはあまり望ましくない。

人間は転送陣も魔法陣も使うことはできないが、人間の血を受け継ぐ魔女の類いは魔法陣だけを使うことができる。

彼らは悪魔や天使、自分のような堕天使まで召喚する(よびだす)ために魔法陣を使う。

そのため、魔法陣=召喚陣の意味になる。

つまり、魔法陣は自分達のような者を召喚するためだけに使うのであって本物の魔法を使う者は魔法を使うのに魔法陣など要らないのだ。

召喚されてその主の配下に着くと契約を交わすと、召喚された者が自ら魔法陣に名前を書き込み、気を込める。

これで魔法陣は強制転送陣になる。

召喚主は、好きな時に何度でも召喚できるわけだ。

こちらとしてはハッキリ言って迷惑でもあるがそれなりの代価はきちんと払ってもらうため、文句は言えない。

契約違反をした場合は、共に命をもって償うことになっている。

因みに、最初の召喚方法は相手の名前を知らなければ召喚することはできない。

そのあとに契約の話になる。


テッドは自分と同じタイプなのではないかと思う。

召喚される側なのではないかと思うのだ。

テッドを魔女達が召喚できないのは、テッドの名前が本当の名前ではないのかもしれない。

こちらは転送陣は使えても魔法陣は使えない。

魔女の類いはその逆だ。

テッドが転送陣を使える者なら彼女も転送陣を使って移動してくる可能性もないわけではない。

油断はできない。


退避した木の上で、近くに流れる川にいる魚に狙いが逸れて魚を潰しているテッドを見ながら、僕は脳内をフル回転させていた。

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