Q. 主人公の生死をお答えください
短編ミステリーです。
秋の味覚を、どうぞお召し上がりください
「御夕飯ができましたよ」
床の間の前で猪口を傾ける私の前にそっと差し出された足付き膳。
椀に盛られた左の白米。右に汁物。副菜が三つ。
畳の擦れる音一つ立てることなく立ち上がった彼女は、襖の前で恭しく頭を下げた。
我が庄屋で足入れ期間から叩き込まれた『家風』を彼女はずっと守り続けている。
米を口に放り込み、汁を啜る。
塩味が濃く、茶色く濁った汁の中に舌の上を滑るぬめりを感じた。咀嚼すると、固く締まった弾力が歯を押し返す。
「美味しいですか」
もう一度米を口に運び、尋ねる彼女に頷きを返した。
以前ならば、跡取りの兄から舌打ちを返され、隠居の祖父や、当主である父から椀を投げ返されていただろう。いや、その前に膳を出すことすら母に許されなかったかもしれない。
再び手に取った汁物。
椀の香りを嗅ぐも松茸の香りはない。
椎茸とも占地とも違う。
「これは初茸の汁か」
「いいえ」
「では、滑子?」
「いいえ……それほど気になりますか。以前はこのような事お聞きにならなかったのに」
作法を無視して尋ね続ける俺に、彼女は穏やかに微笑んだ。
婿に出されるのが嫌で、憂さ晴らしのように手を出した村の娘。婿入りは流れ、子を身籠った彼女は俺に嫁ぐことになった。
ただでさえ婿入り話を破断にした身。疎まれながら下女のような生活を強いられる彼女を庇うことなどできなかった。身重の身体を引きずって、耐え忍びながら当家の家風を覚えたことだろう。
「仏前に膳を供えて参ります」
深く頭を下げた彼女が襖を閉める。
ギシリ、ギジリと丁重に運ぶ足音。閉じられた襖の向こう側で息を潜めていた小さな足音がそれを追うように遠ざかっていった。
その音に耳を傾けてながら、坪椀、平椀、向付へと順に箸をつけていく。
——最初は、兄の妻。嫡妻の産んだ息子が行方知れずになった。袴着の儀を済ませたばかりだ。
悲嘆に暮れる兄と嫡妻。
娘への扱いが、少しマシとなった。
次に、体調を酷く崩した母が苦しみの末、帰らぬ人となった。
彼女への扱いが、少しマシとなった。
次に、当主である父上が心の臓を病み、あっけなく旅立った。後を追うように隠居が弱り始め、兄が仕事に追われるようになる。
俺への扱いが少しマシとなった。
そして今、跡取りの兄も、嫡妻も——
冷たい墓石の下に眠っている。
その節目節目に、茸が膳の上に出ていたことをふと思い出した。
背筋に走る冷たさを振り払うように首を振り、汁椀の中身を飲み干す。
椀の底に沈んでいたのは、栗褐色の傘に肉質の柄。
やはり茸だった。
でも何の茸かは分からない。
襖の向こう側から、ギジリ、ギジリと同じ足音が戻ってきた。それを追うように、軽い小さな足音が響いている。
心の臓が狂ったようにドクドクと音を立てる。
俺は汁椀の底に力無く横たわる茶色の茸を、ゆっくりと箸で摘み上げた——




