21話※【大罪の座】
「大罪」の名を冠する存在たちの、底知れない強大さと不気味さが伝わる重要なシーンですね。
小説家になろう(およびカクヨム)の標準的なルビ形式 `漢字` と、強調の傍点 `《・》` を用い、スマホ読者が「誰の発言か」を追いやすいよう改行と余白を調整して編集しました。
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### ■概念の深淵
「おや?」
虚空に、楽しげな、子供のような声が響いた。
「どうしたの? 珍しく大きな声を出しちゃって」
応えたのは、鈴を転がすような、しかし感情の欠落した女の声。
「やあ、レヴィちゃん。
いやさ、久々にベルちゃんを覗いてみたらさ、やられちゃってるよ。ボコボコに」
「ベルちゃん? ああ、思い出したわ。あの出来損ないね」
女――レヴィと呼ばれた意識は、心底興味なさそうに鼻で笑った。
「そういう言い方は感心しないな。一応、僕たちと同じ大罪の一角だよ?」
「だってそうでしょ? 折角手に入れた力を使いもせず、自分で自分を封じ込めて、穴蔵から一歩も外に出なかったんだから。この力さえあれば、すべて自分の望みのままにできるのに。……それはそうと、怠惰は誰にやられたの? 出来損ないと言っても、人間がどうこう出来る存在ではないはずだけれど。それこそSランクが2パーティ束になっても、返り討ちにする程度には理不尽だったでしょうに」
「なんだかんだ言って、しっかりベルちゃんの事見てるじゃん。レヴィちゃんってば、もしかしてツンデレ?」
「――死になさい」
刹那、精神の宇宙を焼き尽くすような戦術級魔法の奔流が、無詠唱で放たれた。
「ちょっ! いきなりそれ!? もうちょっとで僕の概念が灰になるところだったよ!」
「どうせ、すぐに元通りになるでしょう? しぶといのが貴方の唯一の長所なのだから」
「はは、それはそう! 否定できないね」
おどけた声は、少しの沈黙のあと、重々しく告げた。
「でね? 怠惰が誰にやられたかだけど……これまたびっくりだよ。暴食ちゃんが起きてたんだ」
「ベルちゃんが二人……ややこしいわね。話の流れからすれば暴食の方かしら。確かにあの子が目覚めるのは本当に久しぶりね。でも、目覚めたばかりの暴食が、出来損ないとはいえ怠惰をどうこう出来るとは思えないけれど。貴方、目でも耄碌し始めたのかしら?」
「ひどいなー。……じゃあ、どうやって倒したか教えてあげないよ?」
「……。まあ、別に聞きたくはないけれど。貴方がどうしても話したいというなら、聞いてあげてもよくてよ?」
「ほんとそういうところ可愛いよね。……あ、待って、また魔法を練らないで! 分かった、話すよ! ……驚かないでね。ゼブブちゃん、ベルちゃんを――|《《》》食べちゃった|《《》》」
「…………!?」
深淵に、今度こそ真実の驚愕が走った。
「いやぁ、僕も長く生きてるけどさ、同格を捕食してノードを結合しちゃうなんて、あんな荒業は初めて見たよ。面白いなぁ、あの|《《》》カイト|《《》》とかいう器」
「…………ちょうど今、私のところへ依頼が来たわ。新宿ダンジョンへの、世界冒険者連盟総本部、執行官派遣の要請。……直接私が行って、見てこようかしら」
「あーいいな! 僕も行きたい!」
「貴方が出てきたら、その時点で世界が終わるわ。自重なさい」
「それはそう。……強くなるのはいいけど、不便も増えるよね。少し動くだけで簡単に世界が壊れちゃう。
はぁ、仕方ない。
ちゃんとルールを守って、大人しくしとく事にするよ。
じゃあ僕の代わりに、ゼブブちゃんをよく見てきて。……あの子は、必ず僕たちのところまで登ってくる。
この宇宙で、一番|《《》》空っぽ|《《》》な子だからね」
「……貴方がそこまで言うなら、そうなのでしょうね」
不穏な、それでいてどこか芝居がかった会話が消え、深淵に再び静寂が戻る。
彼らの視線の先には、地獄の底から這い上がり、獲物を求めて加速する銀灰色の化物の姿があった。




