第8話 都合のいい位置
自分の立ち位置が変わったのは、
誰かに言われたからではなかった。
気づいたときには、
そう扱われるようになっていた。
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グループ作業のとき、
自然と名前が呼ばれる。
「〇〇、ここお願いしていい?」
理由は添えられない。
断る前提も含まれていない。
「いいよ」
それで話は進む。
誰かが不満を言うこともない。
感謝も、特別にはされない。
最初から、
そこにいるものとして計算されている。
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作業は滞らない。
意見が割れたとき、
間に入る役割が回ってくる。
「どっちでも大丈夫だと思う」
その一言で、
場は落ち着く。
決定が遅れることもない。
誰かが傷つくこともない。
正しさより、
摩擦が減ることが優先される。
自分は、そのために使われている。
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休み時間、
知らないクラスメイトが隣に座る。
「ここ、いい?」
質問の形をしているが、
答えは決まっている。
「どうぞ」
相手は安心したように息をつく。
会話は続かない。
でも、席は立たれない。
沈黙が成立する場所として、
ここが選ばれている。
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噂話を聞かなくなった。
相談事も減った。
代わりに増えたのは、
「そこにいてほしい」という需要だ。
話を聞く必要はない。
解決もしなくていい。
ただ、
場の温度を一定に保つ存在。
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その役割に、
違和感はなかった。
負担も少ない。
責任も曖昧だ。
感情を動かさなくていい。
判断を下さなくていい。
編集済みの自分にとって、
最も楽な位置だった。
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ある日、
クラスメイトが言った。
「〇〇がいると、変な空気にならないよね」
褒め言葉として、
処理されている。
「そうかな」
返事は、いつも通り。
「うん。いてくれると助かる」
助かる、という言葉に、
個人的な感情は含まれていない。
機能としての評価だ。
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それを聞いても、
何も感じなかった。
誇らしさも、
不安も、
湧いてこない。
ただ、
役割が確定した、
という認識だけが残る。
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放課後、
予定がないのに残ることが増えた。
誰かが声をかけるかもしれない。
かけられなくても問題はない。
自分がいることで、
何かが安定するなら、
そこにいる意味はある。
そう考えるのは、
自然な流れだった。
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帰り際、
恋愛的に近い存在だった相手と目が合う。
軽く会釈を交わす。
それ以上はない。
お互い、
今の距離を崩す理由を持っていない。
安心できる人。
都合のいい位置。
それらは矛盾しない。
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家に帰り、
制服を脱ぐ。
鏡に映る自分を見ても、
違和感はない。
特別な表情も、
特別な疲労もない。
今日も、
特記事項はなかった。
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ただ、
一日の終わりに、
ふと考える。
もし自分がいなくなったら、
この配置はどうなるのか。
誰か別の人が、
同じ位置に収まるのだろうか。
その問いは、
すぐに処理される。
考える必要はない。
今は、
問題が起きていない。
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役割は機能している。
関係は安定している。
だから、
変更する理由はない。
自分は、
ちょうどいい位置にいる。
それで十分だ。




