表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

第8話 都合のいい位置


 自分の立ち位置が変わったのは、

 誰かに言われたからではなかった。


 気づいたときには、

 そう扱われるようになっていた。



 グループ作業のとき、

 自然と名前が呼ばれる。


 「〇〇、ここお願いしていい?」


 理由は添えられない。

 断る前提も含まれていない。


 「いいよ」


 それで話は進む。


 誰かが不満を言うこともない。

 感謝も、特別にはされない。


 最初から、

 そこにいるものとして計算されている。



 作業は滞らない。


 意見が割れたとき、

 間に入る役割が回ってくる。


 「どっちでも大丈夫だと思う」


 その一言で、

 場は落ち着く。


 決定が遅れることもない。

 誰かが傷つくこともない。


 正しさより、

 摩擦が減ることが優先される。


 自分は、そのために使われている。



 休み時間、

 知らないクラスメイトが隣に座る。


 「ここ、いい?」


 質問の形をしているが、

 答えは決まっている。


 「どうぞ」


 相手は安心したように息をつく。


 会話は続かない。

 でも、席は立たれない。


 沈黙が成立する場所として、

 ここが選ばれている。



 噂話を聞かなくなった。


 相談事も減った。


 代わりに増えたのは、

 「そこにいてほしい」という需要だ。


 話を聞く必要はない。

 解決もしなくていい。


 ただ、

 場の温度を一定に保つ存在。



 その役割に、

 違和感はなかった。


 負担も少ない。

 責任も曖昧だ。


 感情を動かさなくていい。

 判断を下さなくていい。


 編集済みの自分にとって、

 最も楽な位置だった。



 ある日、

 クラスメイトが言った。


 「〇〇がいると、変な空気にならないよね」


 褒め言葉として、

 処理されている。


 「そうかな」


 返事は、いつも通り。


 「うん。いてくれると助かる」


 助かる、という言葉に、

 個人的な感情は含まれていない。


 機能としての評価だ。



 それを聞いても、

 何も感じなかった。


 誇らしさも、

 不安も、

 湧いてこない。


 ただ、

 役割が確定した、

 という認識だけが残る。



 放課後、

 予定がないのに残ることが増えた。


 誰かが声をかけるかもしれない。

 かけられなくても問題はない。


 自分がいることで、

 何かが安定するなら、

 そこにいる意味はある。


 そう考えるのは、

 自然な流れだった。



 帰り際、

 恋愛的に近い存在だった相手と目が合う。


 軽く会釈を交わす。


 それ以上はない。


 お互い、

 今の距離を崩す理由を持っていない。


 安心できる人。

 都合のいい位置。


 それらは矛盾しない。



 家に帰り、

 制服を脱ぐ。


 鏡に映る自分を見ても、

 違和感はない。


 特別な表情も、

 特別な疲労もない。


 今日も、

 特記事項はなかった。



 ただ、

 一日の終わりに、

 ふと考える。


 もし自分がいなくなったら、

 この配置はどうなるのか。


 誰か別の人が、

 同じ位置に収まるのだろうか。


 その問いは、

 すぐに処理される。


 考える必要はない。


 今は、

 問題が起きていない。



 役割は機能している。

 関係は安定している。


 だから、

 変更する理由はない。


 自分は、

 ちょうどいい位置にいる。


 それで十分だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ