第3話 確認漏れ
違和感は、指摘として現れた。
朝の職員連絡が終わったあと、担任が一人の生徒を呼び止めていた。声は抑えられているが、内容は聞こえる。提出物の扱いについて、確認が不足していたらしい。
自分の名前は呼ばれていない。
それを確認してから、教室に入った。
授業は通常通り始まった。
進行に問題はない。教師の説明も明確だった。ノートを取る手は止まらない。
途中で、前方の席から手が挙がる。
提出期限についての質問だった。
教師が一瞬、資料に目を落とす。
回答は出たが、少し曖昧だった。
その場はそれで進んだ。
休み時間、同じ質問が別の形で投げられる。
今度は、自分に向けてだった。
「これ、今日までだっけ?」
「予定では、そうなってる」
そう答えた。
事実だった。
ただ、その言葉に、相手は少しだけ迷った表情を見せた。
それ以上は聞いてこない。
昼前、担任から声をかけられる。
提出物の管理について、簡単な確認だった。
「念のため聞くけど、全体にはもう共有してる?」
「共有済みです」
間違いではない。
掲示はされているし、連絡も回っている。
担任は頷いた。
「なら大丈夫だね」
その場で話は終わった。
だが、午後になって、事態は少しだけずれた。
提出された書類の中に、形式が異なるものが混じっていた。
内容は正しい。だが、指定された形式ではない。
数は少ない。三件だけだった。
担任が眉をひそめる。
大事にはならない。だが、修正は必要だ。
「誰か、事前に確認してなかった?」
問いは、特定の相手に向けられていない。
自分は、状況を整理する。
掲示はあった。口頭連絡もあった。
だが、再確認の場は設けていない。
「確認はしてました」
そう答えた。
担任がこちらを見る。
責める視線ではない。
「じゃあ、伝わり方の問題かな」
その言葉で、場は落ち着いた。
誰かのミスではない、という整理がされたからだ。
修正の対応を引き受けることになった。
該当する生徒に声をかけ、形式を説明する。
相手はすぐに理解した。
不満も出ない。
「ごめん、勘違いしてた」
「大丈夫」
それで済んだ。
作業は短時間で終わる。
提出物は整い、再確認される。
問題は解消された。
放課後、担任が声をかけてくる。
「助かったよ」
その言葉に、特別な反応は返さない。
事実として、対応しただけだ。
「でも、次からは念のためもう一段階確認しようか」
「分かりました」
それで話は終わった。
帰り道、先ほどの生徒とすれ違う。
軽く会釈をする。相手も同じように返した。
気まずさはない。
家に戻り、今日の流れを整理する。
確認が一段階不足していた。
だが、規則違反ではない。
手順上の改善点が一つ増えただけだ。
次回は、事前確認を追加する。
それで再発は防げる。
記録に残す必要はなかった。
報告書も求められていない。
制度的には、
問題は起きていない。
修正が入り、安定が保たれた。
それで十分だった。
布団に入り、目を閉じる。
明日の予定を確認する。
変更点は、一つだけ増えていた。
特記事項として扱うほどではない。




