余白の行き先
記録上、
彼の一日は問題なく終わっている。
遅刻なし。
衝突なし。
感情的逸脱なし。
特記事項なし。
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だが、
その日の最後に、
一つだけ処理されなかったものがあった。
内容は小さい。
誰かの言いかけた言葉。
途中で止まり、
そのまま流された一文。
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本来なら、
整えられるはずだった。
適切な意味に変換され、
不要な揺らぎは削除される。
いつも通りなら。
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だがその日は、
処理が遅れた。
理由はない。
手順ミスでもない。
ただ、
次の工程に回されなかった。
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その反応は、
使われなかった。
編集もされなかった。
保留にもならなかった。
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夜、
眠る直前。
彼はふと、
その言葉を思い出す。
意味は考えない。
評価もしない。
ただ、
浮かんだ。
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胸が少しだけ、
重くなる。
だが、
苦しさではない。
違和感に近い。
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その感覚は、
行動には変わらない。
言葉にもならない。
彼は何もしない。
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それでも、
反応は消えなかった。
整えられなかった反応は、
そのまま残る。
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残ったまま、
行き場を失い、
やがて、
別の形を探し始める。
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それが、
生成になるのか、
歪みになるのかは、
まだ分からない。
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記録上は、
依然として変化はない。
特記事項なし。
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ただ、
循環は始まっている。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この物語で描かれた出来事は、
どれも特別なものではありません。
日常の中で、よくある選択や反応ばかりです。
だからこそ、
「特記事項なし」という評価が、
どこまで人を守り、
どこから人を削っていくのかは、
はっきりとは書いていません。
もし、読後に
少しだけ言葉にしづらい違和感が残ったなら、
それもまた、
この物語の一部だと思ってもらえたら幸いです。
この先、
何かが起きるのか、
それとも起きないままなのか。
それは、ここでは決めていません。




