番外編 静かな人
彼について話すとき、困る。
悪い点が出てこないからではない。
良い点も、具体的に挙げられないからだ。
「問題ない人」
それが一番近い。
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会議で名前が出るとき、
だいたい確認のためだ。
「一応、彼にも共有しておこう」
「把握はしてるよね」
前提が疑われない。
反対もしないし、
変な提案もしない。
こちらの話を遮らない。
でも、深く掘り下げてくることもない。
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相談をした人がいた。
終わったあと、
「どうだった?」と聞くと、
「楽だった」
と答えた。
楽だった、というのは、
救われた、とは少し違う。
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彼は、
何かを“してくれる”わけではない。
ただ、
問題を起こさない。
それが、
いつの間にか評価になっている。
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一度、冗談めかして聞いたことがある。
「疲れない?」
彼は少し考えてから、
首を振った。
「別に」
それ以上、続かなかった。
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感情がないようには見えない。
笑うし、驚くし、戸惑うこともある。
ただ、
どれも長く残らない。
次に会うときには、
きれいに整っている。
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安心はする。
任せても大丈夫だと思える。
でも、
頼りたいかと言われると、
少し違う。
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彼がいなくなったら困るかと聞かれたら、
「困らない」と答える。
代わりがいる、という意味ではない。
ただ、
欠けた感じがしない。
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彼は、
場を成立させる。
だが、
場の記憶には残らない。
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ふと、
「この人、何を大事にしてるんだろう」
と思うことがある。
だが、
答えを知りたい、とは思わない。
知ったところで、
何かが変わる気がしないからだ。
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今日も彼は、
そこにいる。
特に理由はない。
それで十分だと、
誰もが思っている。




