第14話 現状維持で
それは話し合いというほど、
はっきりした形ではなかった。
ただ、
確認に近い。
⸻
放課後、
廊下の端で声をかけられた。
人通りは少ないが、
完全に二人きりでもない。
選ばれた場所だと分かる。
⸻
「最近、忙しそうだね」
責める調子ではない。
観察の報告に近い。
⸻
「そうでもない」
否定はしないが、
深掘りもしない。
⸻
相手は頷く。
「でも、変わってないよね」
何が、とは言わない。
⸻
「うん」
変わっていない。
その認識は一致している。
⸻
少し沈黙が入る。
相手は、
言葉を選んでいるようだった。
⸻
「今の距離、楽じゃない?」
確認だ。
提案ではない。
⸻
「楽だと思う」
評価として、
正確だった。
⸻
相手は、
ほっとしたように笑う。
その反応で、
目的が達成されたと分かる。
⸻
「だよね。変に期待しなくていいし」
“変に”という言葉が、
境界を示している。
⸻
期待しない。
期待させない。
その合意。
⸻
「今のままでいこう」
結論が出る。
疑問形ではない。
⸻
「うん」
異論はない。
⸻
それ以上、
話すことはなかった。
別れる理由も、
特に必要ない。
⸻
その日から、
関係は微調整された。
頻度は変わらない。
距離も変わらない。
⸻
ただ、
揺らぎの可能性だけが、
意識的に排除される。
⸻
周囲から見れば、
何も変わっていない。
仲がいいまま。
穏やかなまま。
⸻
だから、
質問もされない。
⸻
昼休み、
隣に座る。
会話は短い。
天気。
提出物。
行事。
⸻
踏み込まない話題が、
自然に選ばれる。
⸻
相手は、
それをありがたそうに受け取る。
安心の更新。
⸻
「一緒にいると、疲れない」
再確認される。
⸻
それは、
関係の完成宣言だった。
⸻
疲れない。
傷つかない。
変わらない。
それ以上の価値は、
最初から求められていない。
⸻
夜、
メッセージが届く。
「今日はありがとう」
具体的な理由は書かれていない。
⸻
「こちらこそ」
定型に近い返事を返す。
⸻
それで、
会話は終わる。
⸻
不満はない。
欠落も、
問題として認識されない。
⸻
期待されないことは、
楽だ。
応えなくていい。
裏切らなくていい。
⸻
その代わり、
何も始まらない。
⸻
だが、
始まらないことは、
この関係の条件だ。
⸻
それを受け入れた時点で、
衝突は解消されている。
⸻
今日も、
特記事項はない。
関係は、
安定している。
動かさないという選択によって。




