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第13話 引き継ぎ可能


 年度の途中だが、名簿が更新された。


 理由は簡単で、

 管理の都合だと説明された。


 変更点は、

 個人にとっては些細なものだった。



 番号が振り直され、

 役割表が整理される。


 名前の並びが、

 少しだけ変わる。



 掲示された紙を見て、

 自分の位置を確認する。


 上でも下でもない。

 端でも中央でもない。


 均されている。



 委員会の担当欄に、

 注釈がついていた。


 「不在時は、以下が代行」


 複数名の名前が並ぶ。



 自分の名前も、

 その中に含まれていた。


 代行する側として。

 同時に、

 代行される側として。



 説明は簡潔だった。


 「誰か一人が欠けても、

  作業が止まらないように」


 正しい理由だ。



 反論の余地はない。

 感情を挟む必要もない。


 全体最適として、

 よく整っている。



 作業マニュアルが配られた。


 分厚くはない。

 要点だけがまとめられている。



 読み進めると、

 見覚えのある動きが並ぶ。


 普段、

 自分がしていることだ。



 気づかないうちに、

 手順として切り出されている。


 言葉にされ、

 番号が振られている。



 「ここ、〇〇がやってるやつだよね」


 隣の人が言う。


 確認の調子だった。



 「うん」


 それ以上の説明は要らない。



 「じゃあ、誰でもできるね」


 軽く言われる。


 否定しない。



 誰でもできるように、

 整えられている。


 それは、

 褒め言葉の範囲内だ。



 放課後、

 引き継ぎの練習が行われた。


 実際に、

 不在を想定して回す。



 自分は、

 説明役に回された。


 指示を出し、

 確認をする。



 特に詰まることはない。


 説明は短く、

 要点だけで済む。



 質問も出ない。


 手順が、

 感覚ではなく、

 文書に落ちているからだ。



 作業は予定より早く終わった。


 「効率いいね」


 そう言われる。



 自分が評価されているのか、

 仕組みが評価されているのかは、

 曖昧だった。



 たぶん、

 どちらでも構わない。



 恋愛的に近い相手も、

 その場にいた。


 こちらを見る。



 「〇〇がいなくても、

  大丈夫そうだね」


 冗談めいた言い方。



 「うん」


 事実だ。



 安心したように笑う。


 それで、

 話題は終わる。



 帰宅後、

 配布されたデータを開く。


 自分の担当箇所が、

 色分けされている。



 クリックすると、

 補足資料が表示される。


 例外処理も、

 すでに書かれている。



 自分が判断していた部分は、

 ほとんど残っていない。


 判断ではなく、

 条件分岐になっている。



 それでも、

 困ることはない。


 迷いが減る。



 間違える余地も、

 減る。



 画面を閉じる。


 今日も、

 特別な感想は出てこない。



 自分は、

 役割として存在している。


 役割は、

 人を選ばない。



 だから、

 自分である必要はない。


 その理解は、

 不快ではなかった。



 むしろ、

 楽だった。


 自分を説明しなくていい。

 自分を主張しなくていい。



 明日、

 別の誰かがこの役をしても、

 結果は同じだ。


 それで、

 問題は起きない。



 特記事項は、

 やはり存在しない。


 それが、

 制度にとっての完成形だった。


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