第12話 代わりが効く
席替えがあった。
事前のアンケートはなく、
くじ引きでもない。
担任が、名簿を見ながら淡々と配置を決めていく。
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名前を呼ばれ、
指示された席に移動する。
窓際でも中央でもない。
特に意味のない位置だった。
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周囲は、
少しだけ顔ぶれが変わった。
知らない相手ではないが、
親しいとも言えない。
ちょうどいい距離だ。
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「よろしく」
形式的な挨拶が交わされる。
そこに、
期待や探りは含まれていない。
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授業が始まる。
ノートを取る音が重なる。
誰かが消しゴムを落とす。
それだけの空間だ。
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グループワークが指定された。
四人一組。
たまたま、近い席同士でまとめられる。
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役割分担を決める流れになる。
誰かが言う。
「〇〇は、まとめでいい?」
理由は説明されない。
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断る必要はない。
反対する理由もない。
「いいよ」
それで決まる。
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まとめ役は、
意見を整理するだけだ。
主張は求められない。
判断も、最小限で済む。
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作業は滞りなく進む。
意見が対立することもない。
全員が無難な案を出し、
無難な形に収まる。
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発表は、
他のグループと大差なかった。
特に目立たず、
特に間違いもない。
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評価は、
全体点として処理される。
個人名は、呼ばれない。
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昼休み、
一人が言った。
「〇〇、今日いなくても回ったよね」
悪意はない。
確認に近い。
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別の一人が続ける。
「でも、いた方が楽ではあった」
評価としては、成立している。
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必要ではないが、
邪魔でもない。
その位置。
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恋愛的に近い相手も、
今日は距離を取っていた。
他の友人と話している。
こちらを気にする様子はない。
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目が合えば、
軽く手を振る。
それで十分だ。
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放課後、
委員会の作業があった。
欠席者が一人出たが、
特に問題にはならなかった。
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「じゃあ、この部分、〇〇がやって」
自然に振られる。
空いた穴を、
無理なく埋める役割。
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作業は終わる。
引き継ぎも、
簡潔で済む。
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帰り道、
ふと思う。
今日一日で、
自分がした判断は、
ほとんどなかった。
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言われた場所に座り、
割り当てられた役割をこなし、
必要なら補完する。
それだけだ。
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それでも、
誰からも困られていない。
それどころか、
「助かった」と言われている。
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存在は、
固定されていない。
空けば埋める。
埋まれば目立たない。
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それは、
便利な性質だ。
だが同時に、
代替可能でもある。
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家に帰り、
今日の出来事を思い返す。
強く残る場面はない。
不快も、
高揚もない。
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記録に残すほどのことは、
何も起きていない。
特記事項は、
やはり存在しない。
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明日、
自分が別の席にいれば、
誰かが同じ役を担うだろう。
それで、回る。
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その構造を理解しても、
特に感情は動かない。
ただ、
そういう位置にいる、
という認識が増えただけだ。




