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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第1章 ヴェイザ

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第8話 武術

「次は武術系のスキルを確認しようか。百桃は勿論のこと、わたしたちも一応、武術系をとったよね。でも最初は…」

 橘花くんが美しい笑顔で頷いてくれたので、二人して目顔で百桃を促す。

「ふふ、ご期待にお応えして、私が【剣術】を披露します! 武器は鉄の短剣だけど…直訳では「黒い金属、くろがね」だけど「鉄」のことだって分かるのね」

 共通語の表現が「黒金属ブラクメタル」だ。和名も同じ語源よね。


 百桃は、左腰から刃渡り20cm程の両刃短剣をスラリと抜いた。すっと半身になって右手を後ろに引いたと思うと、ビシっと前に突き出す。続いて短剣を左下に振り降ろし、目にも止まらぬ速さで右上に薙ぎ上げ、体の脇に引き絞ると、手首を返して再び鋭く突き上げた。その踊るような動きに合わせて舞っていたマントが、静かに背中に落ち着く。


「「すごい…」」

 とにかく動きにブレがない。素人の見立てでしかないものの、剣筋は最短距離で美しい軌道を描いているようだったし、突きで剣を止めた際にも、剣先が微動だにしないのだ。姿勢もピタリと静止する。胸を別にすれば、だけれど。さすがは【剣術:第五段階】。少なくとも、一端(いっぱし)の使い手のレベルだと思う。


「御酒花さん、剣道とかの経験は無いですよね?」

「うん…魔法の時もそうだったけど、何故か自然と体が動くの」

「百桃、これからは頼りにしちゃうから!」

「任せてね!…武器は早めに何とかしたいかな」

「いや、防具の方が先と思います。御酒花さんの安全が第一ですから」

「…あ、有難う、橘花くん…」

 真剣な表情で心配する橘花くんに、頬を染めて呟く百桃。


「そう言えば、百桃。尻尾も無いよね?…これも却って良かったの?」

「そうですねえ。直立二足歩行の人類は、座ると尾骶骨がお尻の下の方に来ますからね。もし尻尾があったら、僕たちと同じ椅子には座れませんね。尻尾があるにも関わらず尾骶骨の位置が上、という傾斜の骨盤の場合は…お尻を突き出して、膝を曲げて歩くことになるでしょうね。それから…」


「…橘花くん、もう分かったから。私、そこまで考えずに獣人にしてしまったけど、耳も尻尾も、幸運としか言いようがないよね。本当に良かった…」

「僕も御酒花さんが…いや、その、僕は【投擲】を第二段階にしたのですが…」


 橘花くんが周囲を見回し、時空魔法を試したときに使った拳大の石を拾った。サイドスローのように腕を振り抜くと、結構なスピードで石が飛んで行く。10mくらい先の立ち木に命中して幹を抉って跳ね返った。


「僕は野球経験が無いのですが、命中しましたね。体を使う技も、元の世界で未経験でも大丈夫なことは確定でしょう。威力は微妙かも。頼りなくて申し訳ない」

 橘花くんが真摯に頭を下げてくれる。

「そ、そんな。橘花くんの光魔法があるから安心して戦えるし…橘花くんの智慧も本当に頼りになるから」

 百桃の言う通りよ? 時空魔法も秘密兵器になりそうだし。次はわたしね。


「ええと、わたしは【棒術】を素質無しで第一段階にしたのだけれど…棒が無いから、また機会があったらね」

 すると百桃が黙って手近の木に近寄ると、片手であっさりと枝を折り取ってしまった。とても筋肉が付いているようには見えない細腕なのに…。続いて両端を短剣でスパッと切り揃え、余計な出っ張りを取り、器用に切り口などを整形してから、わたしにポイっと投げ寄こした。


「はい、璃花」

「あっと…百桃、短剣を器用に扱えるのも高段階ならではの技なの?」

「…多分、そうだと思う。【狩猟】と【調理】も関わっているのかも」

「複数スキルの相乗効果があると考える方が自然ですよね」


 仕方がない。わたしの【棒術】は素質無しで第一段階だから、果たして…と思って両手で持ってみると、自然と半身になって構えの姿勢に移行することができた。ビュッと突いてみたり、薙刀みたいに下から振り上げてみたりした。わたしとしては、意外に動ける自分に驚いたけれど…。


「う~ん、もっとこう、腰を入れて…」

 百桃が首を捻っている。それも可愛い。

「どうだった? やっぱり、百桃と比べると全然違うよね」

「…正直なところ、かなり差があるように感じました」

「うん、自分でも思ったから。でも百桃、【棒術】の指南もできそうなの?」


 百桃は必殺の首傾げに加えて、その大きくて綺麗な瞳を巡らせてから答えた。

「…そうね。本格的な訓練はどうかと思うけど。基本的な体の動かし方とかは、アドバイスできそうな気がする」

「ある程度の高段階になると、武術全般に素質の効果が及ぶのかもしれませんね。考えてみれば、剣道の有段者が初めて槍を使う場合、剣道未経験者が槍を使う場合よりは絶対にうまく扱えるでしょうから、当たり前かも?」


「そうねえ。余裕ができたら、百桃に稽古を付けてもらうのもいいかもね」

「僕も、最低限の武術を会得して、少しでもお二人の負担を減らしたいです」

「うん、二人とも、そのときは任せてね! びしびし行くからね?」

「「…お手柔らかにお願いします」」

 こうして今度は、わたしと橘花くんの二人が笑いながら拳を握り、エールを贈り合うのだった。百桃との時と違って、拳は合わせなかった。


 転生してからどのくらいの時間が経っただろうか? そもそも一日のうちでどの時間帯に転生したのかな。太陽の位置は高くはない。午前中それとも午後?…緯度や季節にも依るのか。地球で見ていたのと同じ大きさと明るさに見える恒星ね。転生したときは、太陽の高さなんて気にしなかった。

「…やはりソーラーツインなのかな。人類そっくりの生物がいるくらいだから…」


 橘花くんは、わたしたちの問いたげな表情に気付いて説明してくれた。年齢や質量や温度や金属量などが地球の太陽とそっくりな恒星をソーラーツインと呼ぶそう。でも地球の太陽は、自転が遅く活動が穏やかでリチウム量が少ないという珍しい特徴を持つので、完璧なリアルソーラーツインは発見されていないそう。


 なるほど。ほぼ同じ人類が進化するには、先ず太陽がそっくり同じという条件が必要かもしれない。同じように太陽を仰いでも、見るべきところが全く違っていた。さすがは橘花くんよね。

「しまった、太陽の位置を確認しておけば良かったです」

 それどころか、直ぐにわたしが気にしていた点にまで気付いて、合わせてくれる。いつも有難う、橘花くん。

「ううん、誰にだって無理よ。でも、そろそろ村とか町とか…人の住む場所を目指してもいい頃合いよね?」


 橘花くんはチラリと土手の上を見上げたものの、枝ばかりが目立つ藪が密生しているのを見て、登れそうにないと判断したのだろう。近くにあった、だいぶん頼りなげに生えている立木に近付くと、ヒョイヒョイと軽やかに登ってしまった。枝が大きく撓ったものの、何とか元に戻った。


「あっ…橘花くん、気を付けて!」

 百桃が思わず、という感じで声を掛ける。橘花くんは、にこりと笑って音も無く地面に降り立った。森人は身軽なのね。

「御酒花さん、有難う。でも、森人の名に恥じず、恐らくは種族特性で木登りが得意みたいです。それより…あちらの方に壁みたいな人工物が見えます」


 そう言われて橘花くんが指さした方を背伸びしながら窺った。見通しが良くないから遠くを見渡すのは難しいのだけれど…木に登らなくても黒っぽい線が覗いているかも。ええと、三角関数を使って、高さによって見える距離が分かるよね。いえ、惑星の丸みを考慮しないと駄目よね。


「この惑星が地球と同じ直径として…人の目線の高さで4~5kmくらい先が見えたはず。木に登って3mとして…確かルートを使う式で高さが2倍になっても距離は2倍にはならない。高さ3mから見える地平線の距離が6kmくらいかな? 地表からでも見えていますし、道が曲がっていて距離が伸びるのと相殺しても、4kmから6kmくらいの道程と推計して、大きくは外していないと思います」

 うん、本当に頼りになる。二人をまとめてゲットしたわたし、グッジョブ!


「太陽もそっくりだし、ここが惑星、というところは大丈夫よね?」

「そうですね。【博物学】の知識からも間違いないと思います。この星の名前は…直訳で「人が育ち世」か」

「…漢字翻訳だと「我等世」で音訳が「ウィラルテ」ね。ワールドに似ているのは偶然? 英語っぽくない響きよね?」

「ラテン語系の響きに感じますね。古い言葉がそういう風に聞こえるようにしてくださっているのかな…」

 神様の翻訳は、かなり細かいニュアンスまで再現していただいているのかも。


「…そろそろ、町?の壁の方に向かって出発する?」

「……。そうですね」

 橘花くんは百桃の提案に頷きつつも、壁とは反対側の方を振り返った。

「反対側にも何かありそうなの?」

「橘花くん、【探知】の反応?」


 わたしと百桃も釣られて反対側を見た。何も感じない、と思う。いえ…ひょっとして…誰かが…同級生が…いる?

「…【探知】では無いような。あちらの方向には…いや、気の所為でしょう」

 橘花くんは、わたしたちの反応を確かめながら答えた。わたしと百桃は顔を見合わせる。彼は迷いつつも遠慮がちに提案してきた。


「それでは、神様からいただいた装備だけ確認してから、町に向かって出発するということで如何でしょうか」

「あ、それがあったよね。大事なことよね」

「ええと、二人と私は選んだ【装備】が違うから…」

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