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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第2章 赤い棘

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第66話 一歩前進

「お、おはよう…ショウ…」

「おはようござ…おはよう、リカ。モモ」

「ショウ、おはよう!」


 既に朝日が昇っているようだ。ショウくんが…ショウが、窓を開けてくれたのだろう。開け放たれた格子戸から柔らかな曙光が差し込んでいる。わたしたちは、並べてくっつけたベッドで目を覚ました。微笑みながらモモとわたしの顔を【浄化プルガーテ】してくれる。まともに寝起きの顔を見られたのは初めてかも。


(リカの顔はぜんぶ、好きだよ)(…もうッ!)

 そっと顔を寄せて囁いてくれた呟きに思わず反射してしまった。あなたは、なんでもお見通しだから…。

(初めて見たモモの寝顔、「天使」としか言いようがなかった)

(うふふ…好きなだけ見てくれていいのよ?)

 そして、あなたは二人を平等に愛してくれるの!


 あの後…モモを問い詰めようとした瞬間に扉がノックされ、モモがサッサとベッドの上で澄まして正座してしまったので、わたしも慌てて倣って…開いた途端、

「ショウ! リカも私と同じだって! 答えはイエス! だからショウもいっぱい愛してね!」とモモが小声で叫んだ(夜中だからね)と思ったら、あっという間にショウの胸に飛び込んで、唇を塞いでしまった。


 余りにストレートな返事にも焦ってしまったけれど、次はわたしの番だ、ということに気付いて更に狼狽してしまい、漸く満足したモモが彼を押し出してきたときには、心臓の音しか聞こえなくなっていた。初めてのくちづけが甘酸っぱいなんて嘘ね。幸せ過ぎて味を感じる余裕も無かった。


 そして嬉し泣きを始めたモモをショウと二人で抱き締め合い…わたしも涙が零れてしまったけれど…勿論、それ以上に進むことはなく。「せめてベッドをくっつけて寝ようよ」と提案するモモに苦笑しながら、なるべく静かにベッドを寄せ、ショウを真ん中に川の字となり、手を繋ぎ合って幸せな眠りに就いたのだった。


「…あの、朝のご挨拶もしたいの…」

「お、おはよう、は言ったよ?」

「リカ。分かっている癖に。ほら、リカからどうぞ」

 ええ~! 明るいところではまだ…で、でも…逡巡しているうちに美しい顔が遠慮がちに近付いてくる。


「じゃ、じゃあ、頬っぺに…」

 ショウがそっとわたしの肩を抱き、頬に軽くキスをしてくれる。わたしもお返しに…。モモと目が合う。

(ちょっと、私も頬にするしかなくなったじゃない!)

 口を尖らせながらモモの表情が語っている。だって、まだ恥ずかしいもの…。


 ほんの一歩進んだだけ。それでも三人にとっては、大きな一歩だ。何となく居心地の悪い雰囲気のまま、ショウがおトイレに行くのを見送った。さて、わたしはモモに聞きたいことがある。

「ところでモモさん? わたしに話さないといけないこと、あるよね?」


「…うっ。うん。ごめんね。初めてのキスを抜け駆けしちゃって…でも、でもね、ほら、覚えている? 南門の先でヤドリギの下で…リカ、そのときがきたら譲ってくれるって言ったじゃない?」

 …完全に忘れていた。

「そ、そう言えば、そんな約束したかも…でも違うでしょ?」


「…そ、そうよね。あの、そっと抱き締めてもらっていたこと、言えなくてごめんね。でもね、ほんの数回なの。転生初日の次は…ほら、土手で沢小鬼の群れに襲われた日。あの晩、私、ベッドに入ったら自分が恐ろしくなってしまって。ショウを助けるためとは言え、あんな…震えが止まらなくなって…そうしたら気付いて来てくれて。ショウだって疲れていたのに『有難う、君は命の恩人だ』『次は僕が守ってみせる』って囁き続けてくれて…やっと眠れたの」


 …あの晩、そんなことが。確かに、あの晩は仕方がないよね。わたしを起してくれなかったのは、どうかと思うけれど。でも、そのことではないでしょ!

「モ~モ~さ~んん?」


「…わ、分かっているって。私がプロポーズされたのは一昨日。内容もリカとほとんど同じよ? 起動操作を試したあと、リカがキスでもした後みたいにうっとりするから堪らなくなって…追いかけてきたショウに泣きながら抱き着いてしまって…私、董ちゃんの代わりにはなれないけど、でも、妹扱いでいいから、少し遠くでいいから、どうかお傍に置いてください、ってお願いしたら…」


 わ、わたし、そんな恥ずかしい顔をしていたの…。

「…僕はとっくにモモを妹だなんて思っていないよ。モモが僕を想ってくれる以上に君を愛すると誓う、って言ってくれて…でも、私を気遣って無理しなくていいのよ、って言ったら、転生初日に決心したって…」

 やっぱり。あの晩、明らかになったモモの覚悟は衝撃的だったもの。


「それでね、ショウはね…でも、ごめん、僕はリカのことも同じくらい愛している。こんなこと、許されないかもしれないけど、もし、二人が決心してくれるなら、僕は三人で支え合って共に生きていきたいって。だから『これってプロポーズよね?』って聞いたら…ふふ…片膝で跪いて手を取ってキスしてくれて…彼ったら緊張しちゃって…『も、も、勿論、プロポーズだよ』って…うふふ…」

 モモったら! ショウが答えるまでには随分、間が空いたんじゃないの?


「…だからね、私も心の底から愛している。答えはイエスよ。でも、ちゃんとリカにもあなたの気持ちを伝えてからね、って言ったの。そうしたら、「魔法袋」がうまく起動できないのは相性が悪いからだ、とても…なんて言い出すから、誰よりも二人を見てきた私が保証する。リカはあなたと相性が良すぎることに戸惑っているだけよ。彼女もずっと前からあなたを愛しているのよって…」


 モモは杖使いと魔具士の相性の件を知っていたのだ…。そして昨日は機会を窺っていたのだと言う。道理で、二人が名前を呼び捨てるようになって、魔法袋を試すときにも密着して、それでいてショウとわたしの二人にしようと…そして焦ったわたしが…二人とも、うまくモモに誘導された気もするけれど、気の所為?


「…リカこそ、さっきは何よ? あなたが頬にしたら、私も同じにするしかないじゃない! 昨晩は無我夢中で感触も覚えていないから確かめようと思ったのに」

「そ、そのわりに昨晩は長い時間して…それに、これからはいくらでも…」

「じゃ、必ず「おはよう」と「おでかけ」と「がんばろう」と「おつかれ」と「おかえり」と「おやすみ」のご挨拶を、しっかりすることでいいよね?」

「…え、そんなに…う、うん…」


「それから「完全版」の起動、早速試してみようね。今度は絶対うまくいくよ?」

「…わたしもそう思う」

「魔法袋が完成したら、どんどん牛頭鬼を倒してお金を稼がないとね。そうそう、月止薬も飲み始めないと」

「ちょっとモモ!」

 昨晩からの展開が早過ぎるよ…。


「リカ。準備は万全にしておかないと。それに効果が完全になる迄は一週間も待たないといけないのよね…向こうでは七日だったけど、こちらでは六日でいいの?」

 モモ、それは、たったの一週間って言うのよ!

「ね、最初に「登仙楼」で採寸したとき…私、頑張れるかな…」

「…い、い、一体、何のこと?…」


 頬を染め合っている内にショウが戻ってきた。わたしはモモに目で促されて、今度こそしっかりと朝のご挨拶をした。ショウの唇と、そして舌から流れ込んでわたしの心を震わせたその味については、秘密。モモの勢いに流されてしまったのかもしれない。でも結果的には良かったと今では思う。


 魔物の溢れるこの世界は平和な日本とは違う。わたしたちは明日をも知れぬ身だ。今、感じるこの想いは、仮初の幸せなのかもしれない。でも、だからこそ、あなたの愛を感じていよう。わたしの愛を捧げよう。この世界で生きていく限り。恒神様、そして董ちゃん。どうかお見守りください…。

※次回から第三章「姫花草」。週末に更新予定です。その前に短編を投稿します。

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