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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第1章 ヴェイザ

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第6話 四つの魔法

 三人のとった能力と言語対照を動員して推測したこと。この世界の人は自分のステータスを見られない、と思う。魔術と魔具術は「出来ること」の順番から腕前を推し量るので、レベルに相当する「段階」がある。でも他のスキルは「段階」で表現しないので、ゲームのようなレベル概念は存在しない、と思う。


 そして魔法は「マギア」で魔法学は「マギオロギア」と聞こえるのに、火魔術は「イグニサルス」だ。橘花くんは「ラテン語で「火=イグニス」ですから、魔法関連の言葉はラテン語風に音訳されるのかも」と推測した。ラテン語まで知っているのね。わたしにラテン語の知識は無いから、神様の漢字翻訳に頼る方が良さそう。


「わたしの火魔術から試してみるね。最初は…これが「第一段階」ということね…【火種イグニーテ】と【操火モウェーテ】。「火の魔素を集め火になれかしと神に祈りを捧げ、杖先に火種を灯すべし」という知識が頭にあるけれど…」


 わたしはローブの裏から取り出した長さ30cmくらいの小さい木杖を掲げると、先端に意識を集中した。魔素を集めて火にするには…魔素も元素だとすると、震わせて熱を与えればいいのかな…実際には神様に祈らなくても大丈夫そうだし、呪文も魔法名も必要ないけれど、分かり易くするために添えた。


「【火種】!」

 杖の先端から僅かに離れた空間に、蝋燭の火くらいの暗赤色の炎が出現した。

「続いて、【操火】!」

 杖は固定したままで炎をゆらゆらと動かす。何故かできるという感覚があったので、そのまま炎を杖から離して浮かせ、頭上でグルグルと周回させてみた。思わず感動してしまった。魔法ってすごい!


「次に、第二段階の【火矢サギッタ】!」

 頭上で回していた炎を杖の先端に戻し、素早く杖を振り降ろすと、赤い炎の矢となって飛んで行った。


バスッ!

 数メートル先の細い木に命中し、中程を見事に消し折った。太さは直径10cmほどだろうか。切り口は燃えていないものの煙が出ているので、慌てて少し近付いて「第三段階だけれど【消火デレーテ】ね」といって杖を向ける。煙は消えた。

「ついでに、もうひとつの第三段階【火球スフェラ】ね」


 先程よりも魔力を込める。今度は掌から出してみよう。魔素を集めるだけではなく、圧力も加えて押し固めるイメージで…ヴン!と音がして【火矢】よりも明るい赤色の玉が掌の傍に浮かび上がる。掌を引いて突き出した瞬間に僅かな残像を尾として飛び去り、別の木に突き刺さった。この動作、やりたかったのよね!


ボンッ!

 一瞬だけ上がった炎は忽ち拡散して消え失せ、立木は破片と共に四散した。

「璃花、かっこいい!」

「なんだか感動しますね!」

 二人の賞賛がこそばゆい。わたしは単に魔法を選んだだけだもの…。


「第四段階には【火盾スクトゥム】があって、自分の近くに火の盾を出せる。第五段階になると【火壁パリエース】になって、少し離れたところに大きな火の壁を出せるよ」

 二人とは反対側の方に向いて、かなり魔力を込めて…これは杖が必須という気がする…う~ん、なるべく遠くに魔素を纏めあげて、圧力はうんと加えて火の壁になるようにイメージして…。


グオオオッ! 

 杖先から5mくらい先に、5m四方くらいの火の壁が出現した。頭から何かが急速に吸い取られる感覚。わたし自身の魔力が減っていることが分かる。段階に応じて魔力消費も多いのよね。分かり易い。慌てて魔力の放出を止めた。やや遅れて燃え盛る火の壁は消滅し、チリチリと微かな火花だけが周囲を舞った。


「威力や速度も調整できそうですか?」

「うん、できると思う」

 今度は指先から、速度を重視して【火矢】を放ってみよう。目標は…2、30mくらい先の地面から顔を出している灰色の岩。レーザー光線をイメージして…。


チュン!

 最初の【火矢】よりスピードが上がったそれは一瞬で岩に到達し、弾け消えた。岩は表面が焦げて少し抉れたかな。岩を貫くような威力は無いのね。その他の使える火魔法を二人に告げていくと、何やら考えていた橘花くんが「次は御酒花さんにお願いできますが?」と笑顔で百桃に頼んだ。


「うん、わかった。砂魔術の第一段階は【砂粒エフンデ】と【操砂モウェーテ】で…」

 百桃は杖を持っていない。掌を下にして腕を伸ばすと、砂粒が零れ落ちた。続いて落ちた砂粒を掌にまで浮かして戻して、わたしと同じように頭の上の方で回したものの、少しずつ散ってしまった。散った砂は…残っている。

「あれ、離れるとうまく操作できないみたい…」


 首を傾げた百桃が、続いて第二段階の【砂矢ハレーナ】を発動する。シュッと砂の筋が飛んで行ったものの、木に当たると弾けてしまう。樹皮は抉れている。更に第三段階の【石弾シレクス】を試したところ、発動しない。

「…杖が要る、という気がする」

「ごめん、百桃。この世界の魔法は杖使用が原則で、特に自分の最高習得段階の魔術は杖が必須みたい。これを使って」


 わたしの杖を構えた百桃が、改めて【石弾】を放つ。今度は丸い石が飛んで行って見事に木の幹を打ち抜いた。【火球】は爆発力に優れ【石弾】は貫通力に優れる、という【魔法学】の知識の通り。続いて第三段階の【消砂デレーテ】を試そうとするも、少し前屈みになって杖を翳さないと足元の土が消えなかった。


「足の先から魔力を出してみることは、できそうですか?」

「ええと、どうかな…ううん…」

 踏ん張った足先の地面は、ギリギリ分かるかどうかくらい、僅かに陥没した。

「意外と使えないね…神様に祈るようにはしてみたけど…」


 百桃が明らかに気落ちしてしまう。魔法の素質を同じようにとっても、個人差が設定されているのだろうか。隠しパラメーターでINTとかMNDとか。

「御酒花さん、個人差かもしれませんが…種族差でしょうか?」

 橘花くんが、右手に持った杖の先端から細く絞った蛇口くらいの水流を出した。続いて、地面に溜まった水に杖を向けたものの変化がない。屈みこんで杖を水の傍に近づけると、水溜まりにぐるぐると流れが生まれた。


「水魔術第一段階の【水滴スフィラテ】と【操水モウェーテ】です…種族差というなら、森人の僕なら距離があっても水を浮かせられそうですが、出来ませんでした。う~ん、すると…習得しているレベルの差?」


「あ、そう言われるとわたしの【魔法学】の知識にあるよ。この世界の魔法は先ず接触した状態で魔術を操るころから始まって、だんだんと対象範囲や効果が広く大きくなっていくの。第一段階では体から離しては使えない。第二段階で初めて「飛ばす」ことができて、高段階ほど遠くに魔法の効果を及ぼせられるみたい」


「つまり、真榊さんが第一段階の【火種】を空中に浮かせて自在に動かせたのは、第五段階まで習得している状態だからこそ、ということで、もし第一段階だった場合は、僕の水魔術のように杖とか手に接触した状態でしか火を操れないということですね。そうすると、そもそも杖の役割は…」


「うん。補助の意味もあるけれど、特に火魔法を火傷しないで操るために杖を使い始めたみたい。魔力を通し易い「魔木シパテル」という木を使っているの」

「そうか。そうすると私は【消砂】を足から魔力を出して発動しようとした。でも習得段階が第三だと、第三段階魔術は杖が要るから、足からでは接した土を僅かに消せただけなのね。すると、第一段階の【操砂】を使えば…」


 百桃が再び実験した。地面に添えた杖から魔法を出すと、1mくらい先の土が陥没して周りがクレーターのように盛り上がった。土を消したのではなく移動させたのだろう。杖無しでは30cm、足からだと10cmくらい先の土を動かせた。

「…足から魔法を出すことを練習すれば、もっと離して動かせそう。【消砂】も練習すれば距離も伸ばせて消せる量も増えるのね?」


「そう言えば、百桃は【魔法学】をとっていないから当然として。【魔法学】の第一段階には、さっきのような知識は含まれていないの?」

「そうですね。【魔法学:第一段階】だと「この世界には魔素が満ち溢れていて、それを操るのが魔法だ」という基本理論や、魔術の一覧とその簡単な説明。あとは最初に発動するコツ…と言っても「現象を思い浮かべて祈祷せよ」か…【博物学】と比べるとかなり知識量が少ないのは不自然だと感じますね…」


「その辺は学問の違いということ?…百桃、さっきの百桃の使い方だけれど、剣を交わして鍔迫り合いをした瞬間に相手の足元を崩せたら必殺技じゃない? 獣人が魔法を使ってくるとは思われていないだろうし」

「うん、そうよね。かなり練習が必要そうだけど。私、頑張るね!」

 飛び切りの笑顔で百桃が答える。元から可愛かったのに、【美形】のお陰でもう完全無欠の絶対美少女ね。


 彼女は転生前から評判だった。小柄で小顔で細身。気持ち垂れ気味の大きな目にすっきり高い鼻筋と上品な唇が綺麗に整っている。それでいて控えめでお淑やかな性格が滲み出る、柔らかくて甘い顔立ちなのだ。色白ながらも温かみのある肌理細やかな美肌だしね。こんな子が、遠慮がちにそっと見上げて来るのよ?


 橘花くんも百桃に対しては、少なくともかなりの好意を持って接していると思う。でも、とてもとても大切に扱っているというか、少し恋愛対象とずれている気がしないでもない。それでも、恋仲になるのは時間の問題だと思っていた。転生したことで一気に距離が縮むのかも、ね…。

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