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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第2章 赤い棘

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第43話 分離体

 十日目の朝。お世話になった「溢れ鍋亭」の女将さんに挨拶して、意外と多くなっていた荷物を担いでヴェイザの南側の本町へ渡った。昨日のうちに予約しておいた「袋道亭」へ寄って不要な荷物を預け、「赤い棘(プカ・キスカ)」との待ち合わせ場所へと急いだ。幸いなことに彼女たちよりも早く組合前広場に到着できた。


「ショウ様! お待たせしてしまって、申し訳も!」

「今、来たばかりですから。本日は宜しくお願いいたします」

「い、いや、あたいたちにそんな挨拶を…」

 やがて姿を現した女魔物狩の面々と挨拶を交わしていると、組合からナナさんが出てきた。依頼の最終確認をしていたのだろうか。わたしも行くべきだった。


「ナナさん、申し訳ありません、気が付きませんで…」

「い、いえ、念のためにクンディ様に確認しただけですから、ショウ様こそ、お気になさいませんよう」

 胸に拳を当てて頭を下げた彼に対して、逆に慌てたようにナナさんが答える。う~ん、本当は貴族ではないのだから、悪い気がする。このままでいいのかな…。


 南門を出立する馬車や徒歩の旅人に混じって街道を歩き始めた一行は、五日目のあの時と同じルートを辿って草原に分け入り、アウストリ川の土手を目指した。賑やかだった彼女たちも街道を外れると雰囲気が豹変する。以前、北門の先で見た時と同じように短剣使いのブレーザさんと弓使いのタングニーザさんが先行した。モモはナナさんと組んで、何やら教わりながら右外側の警戒を受け持つ。


 わたしと彼、それにマクアナさんが真ん中。左外側は剣士のフロッカさんと槍使いのフリスタさんだ。彼は【探知】を持っているから警戒に出てもいいのだけれど、スキルの説明をすることはできない。それに彼女たちもステータスが見えないから確認できないだけで、【探知】を持っているかもしれないしね。


 やがて、わたしたちが沢小鬼ガリイホルトに襲われた土手に到達した。あれから五日たっている。でも地面の乱れや黒くなっている血の跡などが残っていた。ここから先は「赤い棘」の仕事だ。斥候役の二人に加えてナナさん、それにくっついてモモも周囲の地面を探っていく。わたしは彼の反応を窺っていた。


 間もなくブレーザさんが合図をして、全員で少し下流側に移動を始めた。彼の反応より早かった。わたしと彼は、最後尾からなるべく静かに付いていく。ブレーザさんが皆を制した。マクアナさんが音も無くブレーザさんの元へ行き、少し話すと戻ってきて、小声でわたしたちにも教えてくれた。


「…やはり崖沿いの穴に巣があったよ。最初にリカさんの【火球スフェラ】を巣穴に放り込んでくれるかい? あとは、わたしらに任せてもらおうか。取り零しがあったらお願いするよ。ショウ様、宜しいですか?」

「分かりました。モモ…は僕たちの護衛を頼みます」

 モモが何か言いたげに目を向けたけれど、彼は有無を言わさずに指示した。わたしたち三人はブレーザさんに手招きをされて高所に移動する。残りのメンバーはいつの間にか散開して配置に付いていた。


 崖の上からそっとうかがうと、木立の陰からギリギリ土手沿いに洞窟のような穴が見えた。沢小鬼が何匹か彷徨うろついている…小さな個体も、お腹の大きな個体も…リカ、しっかりしなさい。放置すればどんどん増えてしまうのよ。それに魔物は人喰いなのよ! わたしは杖の震えを止めるように両手で握り締め、マクアナさんからの合図を待って【火球】を発動した。


ドゴオオン!

 赤く燃える球が巣穴に飛び込んだ一瞬の後に爆発音が響き渡り、空気を揺るがす振動と共に爆風と土煙が吹き出してきた。目を刺すような血飛沫と、ちぎれ飛んだ何かと一緒に…わたしは堪らずに顔を背けた。背中を優しく撫でてくれている二人の手からも、震える心が伝わってくる。


「ゲシャアアア!」「ゲアッ!」「ゲゲ!」

 弓使い二人の放つ矢が次々と魔物を貫く。と、大きなお腹を抱えていた沢小鬼から、ズボっと膨らみが分離した! 身軽になった魔物がそのまま彼女たちに襲い掛かるものの、剣と槍、そしてマクアナさんの巨大なコルチャクラの敵ではない。何しろコルチャクラは沢小鬼を真二つにしてしまうのだ。


 共通語だと「根絶棒」とか「壊滅棒」とかいう意味になるらしいけれど、まさに沢小鬼にとっては殺戮兵器だろう。不意を突かれたからか、連携も無しにバラバラに突っ込んで来る魔物は只の的でしかなかった。それほど時間も経たない内に、抵抗する角持ち小人はいなくなった。


 わたしたちは棒状の短剣を放って魔物を仕留めていたブレーザさんと共に下へと降りて行った。彼が【発光ルケーテ】を灯して、ブレーザさんやフロッカさんと洞窟の入口を確かめる。蒼い顔で首を振った。穴の中には残党はいなかったようね。いれば襲いかかってくる筈だから。死骸はあるだろうけれど…。


 女魔物狩の面々は表情ひとつ変えずに止めを刺していく。分離したお腹を含めて。そう。彼から事前に聞いてはいたのだけれど、人型魔物は雌雄両体。そして子宮に相当する部分は、体の外側に張り出して形成される。いざと言う時は、先程のように切り捨てることも可能なのだ。


 「妊娠出産の負担が少ない、合理的な形式ではありますよね…さすが異世界の魔物」とは彼の弁。それでも、三人とも血塗れの肉塊が覗いてしまっている分離体を視界に入れることさえ、できなかった。

「こういうのは初めてでしたか?」

 後処理がひと段落したところで、ナナさんが声を掛けてきた。


「申し訳ありません。理屈では分かっているつもりなのですが。ご迷惑を…」

「いえ。わたしたちの仕事ですから…」

 マクアナさんも近付いてきた。蒼い顔をしているモモに話し掛ける。

「…そういう感覚は大事にした方がいい。いずれ、そんなものは無くなってしまうが…何の躊躇もなく魔物に手を掛けられるようになった、と自覚したときが一番、怖くなるからね。自分のことを、ね」

「「「…………」」」


 モモに話し掛ける体を取っているけれど、言うまでも無く、わたしたち三人に向けた言葉だろう。そして、マクアナさんの目を見たわたしは、彼女が本当に言いたいことも分かってしまった。魔物の命を奪うことに何の痛痒も感じなくなったその時は、人間の命に対しても同じなのだと…。


 その後は周辺を探索して、はぐれの沢小鬼を何匹か仕留めた。彼女たちは魔石と魔角を取った死骸を、次々と崩れかけの巣穴があった洞窟に放り込んでいった。ナナさんがわたしに頼んでくる。

「リカさん。砂魔術で穴を塞いでくれませんか?」

 やっぱり。北門の先の「私設野外診療所」の椅子や診療台は、何故か森人の彼ではなく、わたしが作ったと思われているのだ。でも、こういう事態は想定していたので、打ち合わせ通りに対応する。


「すみません。わたしはなるべく火魔術を訓練したいのです。【火球】で穴を崩すのでも構いませんか」

「ああ、火の技で魔匠士デクステラを目指されるのですね。それでお願いします」

 ナナさんはマクアナさんの顔を見て判断を仰ぎながらも承諾してくれた。興味深い情報を聞けた。複数素質持ちは、どれかひとつを優先して伸ばすのが一般的なのかな。ということは…。


 わたしはナナさん以外を避難させ、なるべく遠くから【火球】を打ち込んだ。二発目で洞窟の天井が崩れ落ちる。響き渡る轟音と、朦々(もうもう)と上がる土煙に驚いたのか、対岸から水鳥が鳴き喚きながらバサバサと飛び上がった。思わず川面を見やると、今日もアウストリ川は陽光を受けて美しく煌めいていた。


 塵煙が収まってから完全に穴が埋まっているのをナナさんに確認してもらい、皆と合流した。更に川沿いを探索し、やや上流の内陸に巣穴を発見し、身重と幼体ばかりの群れを同じように殲滅した。そしてお昼休憩を挟み、土手沿いを下流の方まで伝っていって巣穴になりそうな穴を三つ、わたしの火の球で潰した。


 その後は、上流に向かってジグザクに川岸から疎林まで虱潰しに探索して、はぐれの沢小鬼を倒していった。この討伐にはモモも参加した。わたしの魔力は、半分くらいは残っている感覚があった。でも、脳裏に刻まれた惨景に気持ちが乱れてしまって、彼に寄り添われながら最後尾を付いて行くだけだった。


 彼は一度だけ、そっと手を握ってくれた。わたしは慌ててモモを確認したけれど、気付かれてはいない、と思う。「赤い棘」の皆さんも含めて。感謝の気持ちを籠めてギュッと握り返してから手を放した。漸く帰路について草原を戻り南門に辿り着いた頃には、(あか)い夕陽が背中を焼いていた。掌はずっと温かいままだった。

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