第42話 勝負あり
「さあて、お手並み拝見と行こうか!」
剣士のフロッカさんが嬉しそうに木剣を振る。槍使いのフリスタさんも長い木棒を担いでいる。いつの間にか武具店で調達していたみたい。短剣使いの無口なブレーザさんも両手で短い木剣を二本、クルクルと回している。残りの普人女性のタングニーザさんは弓なので参加せず、警戒に当たるらしい。
わたしたちは南門を抜けると…今日も門番はガットさんたちで「お疲れです!」という彼女たちの大声に怯んでいた…草原に入り込み、下生えが少なくて地面の露出が多い開けた場所を探して陣取っていた。彼とわたしの隣に立ったマクアナさんとナナさんは苦笑しながら、普人女性メンバーたちを眺めている。
「あの、新しい装備を受け取ったばかりで…少しだけ体を動かしたいのですが」
「ああ、ゆっくりで大丈夫だよ」
モモがマクアナさんに許可をとると、飛び跳ねるような動きで体を伸ばした。続いて木剣を構え、硬革胸甲の具合を確かめつつ、ヒュンヒュン、ビシッ、と小気味よく振り回して様々な動きを披露していった。モモ、見惚れちゃう!
「お待たせしました。それではお願いします」
「「「………」」」
黙ってモモの動きを見詰めていた普人の三人が顔を見合わせる。
「…フリスタ、隊長に」「ああ…」
フリスタさんが木棒をマクアナさんに放り投げてきた。
「…こいつは、わたしでも…まあ、訓練を受けるつもりで剣を合わせようか。ちょっと待っておくれよ」
片手で木棒を受け取ったマクアナさんは地面に放ると、背中から自分の巨大な獲物を降ろした。持ち手側がバットのようで、先の方が平らになって両脇の溝に刃が差し込んである見慣れない武器だ。ガチャガチャと刃を溝から外すと、木片を押し込んでその上をグルグルと布で巻く。次いで武器を両手に持って頭の上に持ち上げると、ブウンと風音を響かせて一回りさせた。
「…げえっ、関羽…」
彼が呟く。知っていたのね…。
「ん? 寸止めくらいはできますから、安心してくださいよ」
マクアナさんが聞き咎めつつも笑顔で答えてくれた。
正眼で木剣を構えたモモと、半身で巨大な変わりバットを構えたマクアナさんが対峙する。ナナさんにそっと武器の名前を聞くと「有能な戦士だけが持てる武器、すなわちコルチャクラです」と教えてくれた。
「それでは、いいかい?」
「いつでもどうぞ」
次の瞬間、マクアナさんが振り被ったと思ったら、鋭い踏み込みと共に柄の方を滑らせるように押し出す。いきなりフェイント! モモは身を捩ってコルチャクラを避けると、マクアナさんの懐に飛び込むようにして脇胴を狙う。マクアナさんはギリギリで武器を回転させ、モモの横撃を柄で受け止めた。
そのままコルチャクラを横に振ってモモごと薙ぎ払おうとしたものの、モモは素早いステップで下がって難なく避けた。マクアナさんは猛然と迫ると、ブンブンと斜め上からの振りを繰り出す。モモは左右に避けつつ、踏み込む機会を窺っている。膂力はマクアナさんが上回る。まともに受け止めれば分が悪いだろう。
マクアナさんがコルチャクラを地面に叩きつけた反動を利用して薙ぎ上げる。先端部分にモモの木剣が引っ掛かった。ここぞ、とマクアナさんは木剣を巻き上げた…いや、モモは自ら手放したのだ。彼女はあっという間にマクアナさんの脇を擦り抜けつつ、体が伸びて空いていたマクアナさんの脇下を手刀で撫で切りにした。
「勝負あり」
ナナさんの冷静な声が響く。普人女性たちは無言だ。
「やはり、一分と持たなかったね…」
「…いえ、私の剣は所詮、道場剣法ですから…」
「道場剣法?…面白い表現だね。実戦は乏しいということだね。そうだな…負け惜しみになるが、形振り構わない命の遣り取りをしたら、わたしが勝ったかもね」
「はい」モモが素直に頷いている。
(…関羽より強いのは、誰だっけ…)
彼の独り言が聞こえた。勿論わたしは知らない。それにしても、かなりの手練れだと思うマクアナさんを一蹴してしまうモモの剣の腕、【剣術:第五段階】というのはすごいのね…。わたしたちがとったスキルの習得段階については、認識を検める必要があるのかもしれない。
武術も第十段階が最高と設定されていた。でも、努力すれば辿り着ける段階というより、不世出の天才だけが辿り付ける遥かな高み、という意味なのかもしれない。魔法だって…第五段階で魔匠士と呼ばれる達人扱いになるけれど、最終到達段階を決めるのは、生れ付きの才能が大きいのではという気がしてきた。
彼がモモとわたしを見て確認してから、マクアナさんに申し出た。
「マクアナさん。リカ…は棒術を少しだけ扱えます。恥ずかしながら僕は、武術はまったくの素人ですが、投擲は多少なりとも覚えがあります。簡単に稽古を付けていただけませんか? お礼も差し上げられるかと」
「いえ、礼など…」
マクアナさんが遠慮してきたので、わたしが副官らしく再度、提案する。
「皆さんのお時間とお手間を取らせてしまいますから。払わせてください」
「本当に不要ですよ。お三方の能を確認するのは依頼仕事の範囲ですから」
ショウとモモの表情を確認する。ここは御厚意に甘えておこう。
「では、いずれ魔術でお返しさせていただきます」
「お気遣いに感謝します。リカさんと…ショウ様も、振ってみてください」
わたしと彼は木棒と木剣を持って前に出ると、ひと通り振ってみた。
「ふむ…女杖使いの護身術としては、こんなものだろう。だが、ショウ様の最後の盾としては心許ないな…フリスタ、ちょっと見てあげてくれ」
やっと出番が来た、という感じでフリスタさんが手招きして、構えの手の位置などを修正してくれる。わたしはそのまま教えを受けていった。なるほど、本職ではないモモよりも実践的な気がする。
「ショ、ショウ様、す、筋は悪くないです。このフロッカが手取り足取り教えて差し上げますから!」
彼は駄目出しを受けている。何日か素振りしただけで素質も段階も無いからね。
「…う~ん。ショウ様、投擲の技を見せていただけますか?」
困ったような表情をしつつ、ナナさんが提案する。
「ええと、基本しかできませんが…」
彼はモモの石弾を取り出し、ひゅっ、とサイドスローのように腕を振り抜くと10mほど先の立ち木に減り込んだ。
「いいですね。近接はお二人に任せて、こちらを訓練されては? ワラカ…いや、投石紐はお持ちではないのですか?」
ナナさんが腰のポーチから革の紐のようなものを取り出す。
「…使った経験のある状態みたいだな…いや、何でもないです。ナナさん、貸していただけますか?」
彼はナナさんから投石紐を受け取った。真ん中の広くなっている部分に石弾を包み、二つ折にして手に巻き付けて長さを調整すると、体の側面で振り回して石弾を放った。狙った立ち木の端を掠めて跳ね飛んだ。
「ご自分の道具ではないですからね。初投なら十分だと思いますよ」
ナナさんは投石紐を戻してもらうと、頭上で振り回してから投石した。相当なスピードで飛んで行った石弾が音を立てて立ち木に減り込み、幹を大きく震わせた。続いてナナさんは細くて短い短剣を取り出して、彼に試させた。
こちらは、きっちり前に飛んで行って見事に立ち木に突き刺さった。そうよね。スポーツではあるまいし、【投擲】が石球を投げるスキルである筈がない。当然のことながら、投石紐や投げナイフを扱う技術よね!
これなら彼も活躍できるかも、と我が事のように嬉しくなりながら、わたしはフリスタさんやフロッカさんに模擬戦の相手までしてもらって汗を流した。汗はすぐに【清浄】で消してもらえるけれどね。皆さんも「ショウ様、快適です!」「有難うございます!」と恐縮しつつ感激しきりだった。
続いてわたしが【火矢】と【火球】を披露した。【火矢】は速度を上げたり、【火球】は強めに威力を込めてみたりした。【火矢】の速度にも驚かれたけれど、なんといっても【火球】だった。出力を上げ過ぎたのか、立ち木どころか辺りの藪まで薙ぎ払って爆発したからだ。
「うおおおっ!」
「震えちまう!」
「火球ってこんな威力だったかい?」
「…凄まじい…」
明らかに引かれて、怖いものでも見るような視線を向けられてしまった。自分でも驚いたのだけれど。
「…なるほどねえ。二人ともその若さで護衛を任される筈だ…」
「姉さん。やはりお三方は…」
マクアナさんとナナさんは納得顔で頷き合っている。わたしたちは顔を見合わせて苦笑した。打ち合わせの時から彼女たちの対応が丁寧になったから、変だとは思っていたのだ。クンディさん、いえ、クンディ様がどう紹介したのか知らないけれど、森人の貴族と護衛だと強く匂わせたのだろうな…。
横山光輝『三国志(第26巻)』(げえっ、関羽)
※次回更新は、1/31(土)を予定しています。




