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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第2章 赤い棘

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第41話 打ち合わせ

「体表面を【頑丈(ドゥラーテ)】するといっても、2~3cmくらい離れる感じですからね。突然、綱全体が空間を押し退けられて移動させられるのだとすると、粉々になってもおかしくないのかな。でもそれなら服に影響が無いのは何故なのか。一定の時間、その空間に存在していた物質には作用しないということ…?」


 彼が納得はし兼ねるという感じで悩みつつも、その場を纏めた。この後、わたしの火魔術でも彼の発案で少しだけ実験したのだけれど…そう。魔法の名前に引き摺られて、色々と見えなくなっていたらしい。実際に使うときに必要なのは、わたしの覚悟だけ。大変な覚悟が要るけれど。


 三人とも魔力を使ってしまった上に時間も迫ってきたところで、タイミング良く町から昼始め(正午だ)の鐘が響いてきた。わたしたちは本町の南門を潜り、組合前の広場でお昼をいただいた。いつもの豆スープにパンにチーズだけれど。最初の頃に買って少しずつ食べてきた干酒実(ほしさけのみ)(干葡萄ね)も、今日でお仕舞い。


「さすがに飽きたよね…依頼仕事が終わったら、本町側の宿に泊まってみる?」

「食事が変わるかもしれませんからね。前向きに検討しましょう」

「そうね。あ、あの……」

 モモが何か言いたそうにしたものの我慢して、目顔で懇願してきた。…大丈夫よ、分かっているって。ひと部屋で取るから。わたしの意思を感じとった彼女は笑顔で頷くと、話題を転じた。


「…せめて果物でも買い足そうよ。そう言えば、そろそろ紫蜜柑が出るって宿の女将さんが言っていたよね。ショウくん、これはブラッドオレンジに近いと思う?」

「そうですね。【博物学】の絵でも、皮が少し赤くて中の房も赤紫色ですから」

「お店には無かった気もするけれど…入荷予定とかを確認してみようね」


 食べ終わってひと通り【浄化】してもらい、そんな会話を交わしていると、革製品店の奥さんであるスクリッダさんが「仕上がりましたよ」と声を掛けてきてくれたので、三人でお店に入った。弾む足取りで奥に消えるモモを見送り、わたしと彼はお店の革製品を眺めながら着替えを待った。


「ショウ…様、リカ、どうでしょうか?」

「モモ、強そうな女戦士になったね」

「これからも、ますます頼りにしていますよ」


 革服の上に硬革胸甲を装着したモモが、含羞(はにか)みながらも嬉しそうにしている。これなら「赤い棘(プカ・キスカ)」の皆さんにも引けを取らないと思う。お店の前に出て、軽く剣と盾を構えて振ったり体を動かしたりした。特に問題なさそうね。見事に膨らむ胸甲が目を惹くけれど、少なくとも揺れなくなったから!


 モモが体を動かしていると昼一の刻(午後一時ね)の鐘の音が鳴り響いたので、お店の人たちに礼を述べ、魔物狩組合の扉を押した。魔物狩さんは…ひと組だけね。治療したこともある人達だ。モモにだけ軽く視線を向けたようだけれど、わたしと彼には特に反応しなかった、と思う。


 受付で名乗る前に、クンディさんでもフリゾルさんでもない女性職員さんが、丁寧な態度と満面の笑みで「ショウ様」を応接室に案内してくれた。ついでに、という感じでモモとわたしもね。中に入ると、既にクンディさんと「赤い棘」のマクアナさんとナナさんが座っていた。


「申し訳ありません。約束の時間に遅れてしまいましたでしょうか」

 彼が右手を握って肘を畳んで左胸に当てる、こちらの挨拶をした。

「いえ、時間通りですから、お顔をお上げください。マクアナさんたちとは昼前にお約束していましたので。さあ、どうぞ座ってください」


 クンディさんが勧めるままに長椅子に…大丈夫なのよね。クンディさんに対しては今更、従者仕草をしてもね。三人は初日と同じように彼を真ん中にして着席した。クンディさんは微笑まれている、今度はマクアナさんとナナさんが顔を見合わせた。やっぱり、わたしとモモは座らない方が良かった?


 昨日の依頼の内容から特に変更は無かった。マクアナさんは彼に、河原のどの辺りで沢小鬼ガリイホルトに囲まれたのか、対岸の地形などを挙げながら確認してきた。わたしは全く覚えていなかったけれど、さすが彼は淀みなく答えていって、マクアナさんとナナさんも納得顔で頷いていた。本当に頼りになる!


「それでは、モモさんの装備を見るのは初めてだし、南門の先で簡単に腕を確認させて貰おうか。リカさんも、可能な範囲でいいから魔法を見せてくれるかい?」

「はい。こちらこそ、宜しくお願いいたします」

 彼が頭を下げながら例の挨拶をしたので、わたしたちも倣う。二人はまた戸惑うような目線を交わして、同じ挨拶を返してきた。慣れない動作で不自然だと思われただけなら、いいけれど…。


「あ、すみません、忘れていました」

 クンディさんが席を立とうとしたわたしたちを引き留めてきた。

「明日は調査・殲滅が長引く可能性がありますので、ショウ様は本町側で宿を取られた方が良いかと思います」

「有難うございます。では先日ご紹介いただいた宿を、今日の帰りに予約します」

 彼が答える。わたしたちは軽く目顔で頷き合い、続けて聞いてもらう。


「ええと、クンディさん。別件でお聞きしたいことが」

「はい、何でしょうか」

「…飽く迄も仮定の話ですが。もし、町の外で狩りの最中に…他の人間に襲われた場合など…その…」

 彼は言い淀んでしまう。クンディさんはマクアナさんたちを見て頷くと、軽く溜息を吐いてから答えた。


「…リコヤン兄弟ですね。彼女たちから聞いています。下手に捕縛などされるよりは、撃退していただいて構いません」

「「「…………」」」

 予想していた答えだけれど、「殺していい」と言っているも同然ね…難しい顔をしていたマクアナさんが口を開く。


「…クンディ様は言い難いだろうから言ってしまうが。奴らは前の代官レクトル様とは繋がっていたという花粉が舞っていたからね。実のところ、一昨年に奴らを組合に告発したのは、わたしらだ。調査の結果、(あかし)は無いとなって…奴らは消えた。昨年になって代官様が交代したが、わたしらはヴェイザを避けた。どうやら新しい代官様は立派な方だという花粉を吸って、今年は確認がてら早めに来てみたのだが…」


 クンディさんは神妙な顔をしている。ナナさんがクンディさんに尋ねた。

「クンディ様。失礼を承知で再度お聞きします。ラオフ男爵様は、名誉を重んじるお方ですよね?」

「…はい。リコヤン兄弟のような輩とは関りは無いと、再度、明言させていただきます。前の代官様は告発の翌年に偶然にも退任され、軍務に就かれました。魔物狩組合にそのような影響力はございませんので、飽く迄も偶然です」


 クンディさんは「偶然」を強調した。何もしなかったのでは無い、ということかな。四協帝国クアドリオンの実態が分からないわたしたちには判断材料が無い。この件もあって、マクアナさんたちは先に話し合っていたのかもしれない。


 マクアナさんを窺うと(すると、奴らの後ろには…それとも…)などと呟いている。ナナさんはわたしの視線に気付いて、微笑みながら頷いてくれた。この件は、これ以上の進展は無さそうね。わたしたちはクンディさんに礼を述べると、今度こそマクアナさんたちと一緒に組合を辞した。


 外の広場に出ると、「赤い棘」の残りのメンバーが待ち構えていた。また「ショウ様!」と大騒ぎになると思ったのに…。

「隊長、どうでしたかい?」

 真面目な顔で、「お頭」とも呼ばずにフロッカさんが聞いてくる。

「ああ、少なくとも、今のラオフ代官様は関係ないだろう」

「…ふん。それなら遠慮なく…」

 フロッカさんの目が怪しい光を放つ。他の女性たちの眼光も鋭い。


「どうだかな。わたしらと出会ったからには、もう消えちまっている可能性が高いと思うがね。問題は南か北か、だな」

 マクアナさんがそっけなく答える。フロッカさんは肩を竦めた。この動作の意味は同じなのね。その後は一転して「ショウ様!」が始まった。連れだって賑やかに南門の方へ向かう。申し訳ないけれど彼女たちの対応は彼に任せつつ、わたしとモモは気になったことを小声で話し合った。


(ねえ、モモ。ガットさんも、マクアナさんたちも、クンディさんのこと「様」付けにしていたよね)

(私もそう思った。ひょっとしてご身分が…貴族出身とか?)

(わたしたちも呼び方を変えた方がいいよね?)

(うん。次からは気を付けよう。あとね、ソファに座るのは…)

(やっぱり、そうよね。これも次からは…)

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