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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第2章 赤い棘

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第34話 赤い棘

「ひょ~っ! 森人さまだよ!」

「震えるぜ。少し早めだったが、来た甲斐があったってもんだ!」

「あたい、濡れちまうよ~!」

「………ほう」


 ええ~! 今までに出会った魔物狩さんたちの中でも一番、お下品では…女性なのに。彼女たちは金属鋲で補強した革鎧で全身を固めていて、何故か一箇所を赤く塗っている。但し肌の露出は殆ど無い。普人女性たちの喧騒が続く。


「くそっ、こういう時に限って、傷ひとつねえ!」

「森人さま、頭巾を降ろしてガバっと顔を見せておくれよ!」

「誰か、あたいを思い切り殴ってくれ!」

「………同じく」

「おい、貴族さまだったら、下手すると()()()だぞ!」


 大柄で逞しい獣人女性が一喝した。巨大な棒なのか剣なのか分からない獲物を背負っている。角耳は金属の兜から飛び出ている。彼の推測通り角耳が魔力感知器官なら、リスク承知で出した方が良いのかも。もう一人の獣人さんは鍛え上げられた細身で、弓使いね。普人女性は一人が弓で、あとは剣や槍だ。


「お頭。森人のお貴族さまは、こんな普人辺境を彷徨うろついていないだろ?」

「フロッカ。「お頭」は止めろ、っていつも言っているだろうが!」

 貴族かどうかは曖昧にしておきたいから、対応に困るのよね…。チラリとモモを窺うと目配せしてきた。ここは意味有りげに微笑んでおくだけにしよう。わたしたちの態度を見て、少なくとも貴族の権力を振り翳すつもりがないことに安心したのだろう。獣人の「お頭」は軽く頭を下げつつ話し始めた。


「…すまないね。こいつらは、口は途轍もなく悪いが、性格まで悪いという訳ではなくてね。多分、だけどな」

「お頭、そこは言い切ってくれよ!」

「同じ魔狩隊なのに、連れないねえ…」

「あたい、悲しいよ~!」「……泣く」

「だから「お頭」は止めろと…はあ。もういいや」

 六人組は、豪快に哄笑し合う。いえ、普人女性の一人は一言呟くだけで、細身の獣人さんも落ち着いた笑みを浮かべているだけね。


「それで…生憎と無傷だが。わたしら全員を【清浄エウェッレ】してもらって旅の汚れを落とすとしようか。お幾らだい?」

「え、ええと…大分その…ですので全員で銀貨18枚では?」

 固まっていた彼が、何とか復活して答えた。

「それでお願いするよ。おまえら安心しろ! 共用費からだ!」

 マナグさんも共用費と言っていた。魔狩隊は意外ときちんとしているのかも。


「さっすがお頭、話が分かる!」

「も、森人さま、手を握ってしてくれるかい?」

「どきやがれ、あたいが先だ!」

「………譲らない」

 頭を抱える獣人お頭さんを他所に、普人の女戦士たちは姦しく彼の前の特等席を占めようと押し退け合う。


「ちょっといいかい。そこの獣人のお嬢さん」

 その間に、獣人女性二人がモモに話し掛ける。最初からこれが目的ね。後でモモに聞けば良いとは言え、わたしは耳に神経を集中しつつ固唾を飲んで見守った。

「わたしは「赤い棘(プカ・キスカ)」の隊長で、こっちではマクアナって名乗っている。後ろはわたしの妹で、ナナだ。全員、黄銅札…」


「あたしはフロッカ! フ、ロッ、カ!」

「フリスタだよ! よろしく!」

「あたいはタングニーザ~!」

「…ブレーザ…」

「お前らには聞いてねえ! いいから少しは静かにしていろ!…何度も、すまないね。顔を見せてくれるかい?」


 モモが深く被っていたフードを頭の後ろに降ろし、彼のすぐ横に侍る。ついでに、とばかりにわたしも倣った。彼も少しだけずらしていたフードを完全に降ろし、三人ともしっかりと顔を見せた。

「「「「「「……!!!……」」」」」」

 女魔物狩さんたちが目と口を開いて絶句する。


「なんてこった…使徒エランダ様じゃあるまいし…」

「震えちまう…短けえ夢だった…」

「歯軋りする口惜しさも湧いてこねえ…」

「………ううむ」

「こいつは驚いたね。あんた…」

「…モモと言います」

 獣人二人は素早く視線を交わすと、迷いつつもマクアナさんが口を開いた。


「そ、そうか。モモさん。あんた…大丈夫だとは思うが…その…」

「…姉さん。彼女の目を見て分からない? 余計なことだよ」

「そう、だな。だが、この辺じゃ珍しい獣人同士だ。わたしらがこの町にいる間は、何でも頼ってくれ!」

「…有難うございます…」

 わたしと彼の名前も聞き出した後、その後はすっかり静かになった「赤い棘」の面々は、大荷物を担ぎ直して気合を入れるとヴェイザの北門を潜っていった。


「…嵐のようだったね」

 まだ門の方を見詰めたままのモモが、しみじみと呟く。

「女性だからこそ、かもしれませんね。敢えて乱暴に振舞うことで、余計なトラブルを避けようということでは」

「モモ。マクアナさんとナナさんが言い掛けたこと、分かる?」

「………多分。リカ、後でね」


 モモは、チラリと彼に視線を流しながら答えた。初めての獣人との邂逅だったけれど、彼女らの驚き自体は分かる気がする。マクアナさんもナナさんも、偶々かもしれないけれど所謂「男顔」だった。勘でしかないものの、わたしも「明らかにモモとは違う」という印象を受けたから。


 その後は患者さんにも恵まれず、わたしたちも「溢れ鍋亭」に引き上げた。「赤い棘」の人たちが同宿だと、また大騒ぎになると心配したけれど、別の宿を取ったみたい。最終的には装備を整えた費用と同じくらい稼ぐことができた。モモは結局、マクアナさんが何を言い掛けたのか、教えてくれなかった。


 その晩。このところモモのお腹の調子も悪くならないので、就寝前に筋肉と()()を【深癒サナーテ】してもらっている。お陰で筋肉痛とも無縁だ。彼に「溜まった乳酸を消しているの?」と聞いたところ、なんと乳酸は筋肉痛の原因ではなく、逆に傷の治癒促進に使うエネルギー源とのこと!


 激しい運動の直後に生じる早発性筋肉痛は、筋肉の損傷や血流不足で起こる。でも翌日とかに痛くなる遅発性筋肉痛は、筋肉疲労によって筋繊維から様々な物質が漏れ出して、それを炎症と勘違いした神経が「筋肉が痛い」と反応してしまっている、ということだそう。知らなかった。


 だから彼は、筋肉の炎症を消すだけでなく感覚神経を宥めるイメージで【深癒】している。でも本来は【深癒】だと治せないらしい。「筋肉が痛いのだから、と筋肉だけを治そうとして失敗しているのでしょうね。これは光魔術の仕組みを理解する上で、重要なポイントかも」とは彼の弁。


 そして転生して初めて手鏡を見たわたしだったけれど…驚いた顔をして映っていたのは、神々しいまでに完璧な美少女という事実を突きつけられて動揺していた。

「ほら、リカ。使徒様みたいって言われる理由、分かったでしょ」

 そう言って鏡に映り込んで来たモモこそ、奇跡の美少女なのに…。

「リカは、そんなに変わらないけどね。ね、ショウくん?」

 そ、それって…彼の前でそんなこと…。


「…モモさんも、ですよ。二人とも前から眩しすぎて…いや、その、二人の外見がどうなろうとも僕は最後まで守ります。あっ…ええと、非力な森人ですが。それでも力の及ぶ限り…何よりも大切な僕の…な、仲間ですから」

「ショ、ショウくん!…私も、絶対にあなたを…二人を守ってみせる!」

「…………あ、有難う…」

 わたしは何故か顔を上げることができなかった。


 鏡に映る少女は、戸惑いの表情を纏おうとも含羞はにかみで赤く染まろうとも、その美しさは微塵も損なわれない。そして、深紫の瞳で穏やかに見守ってくれている彼もまた、内面まで美しい男性ひとなのだ。わたしは胸の奥に沸き起こる騒めきを必死に抑え込み…ぎこちない時間がゆっくりと過ぎ往くことになった。

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