第33話 装備
「そりゃあ、武器は予算次第だ。ウチが扱うのは青鋼までだが。牛頭鬼を相手にするって言われても…あんたたち三人でかい? 魔術士が二人もいるとは言え、獣人の嬢ちゃんが一人で前衛を張るのだろう?…大丈夫なのか?」
組合前の広場でいつもの昼食を済ませたわたしたちは、広場に面した武具店を訪れていた。武具店のご主人は、牛頭鬼狩りをするための武器が欲しいと言うと、不審そうな顔で尋ねてきた。うん、尤もな疑問よね。
「試してみてもいいですか?」
「ああ、構わないぜ」
モモは剣が立て掛けられているコーナーをざっと見ると、一本の長剣を手に取った。刃渡りは今持っている短剣の二倍以上だろうか。両刃で幅が5cmくらいかな。真ん中に溝が掘られている。モモは片手ですっと構えると、ヒュンヒュンと小気味良く型でも見せるように振り、最後はビシっと突きを決めた。
「ほう。すまないな、俺としたことが恥ずべき見立て違いだ。なるほど、俊英の女剣士と魔術士の護衛か…しかも途轍もない美形の…そういうことか…」
どういうことなのか、わたしが聞きたい。それからご主人の態度は一変し、「女剣士さんの腕なら、鉄剣なんて役不足もいいところだ。最低限、黄鋼だな」などと言いながら、モモに幾つかの剣と小型の盾を試させていった。
そして最終的にモモが選んだのは、変わった剣と盾だった。刃渡りは50cmも無い。根元の2/3くらいが少しS字に湾曲した片刃で、先端1/3くらいが鋭く尖った両刃なのだ。小盾は直径30cmくらいの円形…というより笠か蓋みたいな形で裏に取手が付いている。バックラーというのだっけ?
「この剣はお買い得だよ。何しろ新古品だ。前の代官様の注文品だが突然、交代になったからな、宙に浮いてしまった剣でね。ちょいと独特の形だから買う奴も現れず…吊り具と油付きで、小丸盾と合わせて銀貨35枚だ」
「ショウく…ショウ様、どう思…いますか?」
「選択の理由だけ聞かせて…くれますか?」
「…はい。やや短めの刀身ですが、私の身長には合っています。両刃と片刃が同居しているのは中途半端とも言えますが、刺突にも斬撃にも応用が利きます。私が一人で前衛を受け持ちますし、多様な相手に対処できることを優先しようと思いました。剣の品質も悪くないように感じます」
「了解しました。リカ…もいいですね?」
「わたしも賛成…です。いえ、宜しいように」
「お買い上げに感謝!…森人さまと、女魔術士さんはいいのかい?…いや、護身用に短剣くらいは持っていますか」
「ええと、今後は一通り揃えていきたいのですが。まずは、彼女の防具を優先しようと思っています」
「そうですか。ショウ様、獣人には動き易い革鎧の方が良いでしょう。うちは既製品ばかりですが…隣の革屋は俺の妹の嫁ぎ先でして、いろいろご提案できますよ。というか女剣士さんは、かなり調整しないと…」
モモは身長と凹凸のバランスが取れ過ぎているからね! 革鎧も購入すればまとめて値引きすると言ってくれたので、わたしたちはご主人と一緒にお隣の革製品店を訪ねることになった。
「おう、あいつはいるかい? 獣人の女剣士さんに皮鎧を見繕いたいが、かなり調整が必要そうでな…」
「ああ、裏で作業しているはずだ。…おおい! ちょっと来てくれ!」
革製品店のご主人が奥さんを呼び出した。なるほど顔の雰囲気や、がっしりした体付きは武具店のご主人とそっくりだ。革製品店のご主人も加わって、三人であれこれと検討してくれる。
その結果。奥さんにモモの…何故か、わたしも…身体測定をしてもらったけれど、ある程度の防御力を見込める硬革の胸甲は新調するのがお勧めで、獣人の俊敏性を活かすためにも革服の要所を鋼片で補強して合わせると良いのでは、ということだった。牛頭鬼革の革服上下が銀貨15枚。鋼片の補強は銀貨4枚から。
その他、モモ用に買い求めた鋼片入りの籠手になっている肘までの長手袋は銀貨6枚だった。剣や盾と併せた値引き交渉の結果、わたしと彼用の普通の革手袋と、編み上げブーツの脛部分に差し込める三人分の鋼片、革の手入れ用のワックスと布をサービスしてくれることになった。
ベスト型の牛頭鬼の硬革胸甲(肩当て付)は部分新調して銀貨20枚で、三人とも注文するなら銀貨50枚になってモモの革服の再調整代も含めてくれる。また獣人用の角耳型の兜は、普人用の既製品に穴を開ける手直しが必要。モモの胸甲は注文するとして、それ以外は一旦、持ち帰って検討することになった。
革服は調整が必要なので、受け取りは明後日以降だそう。前金で銀貨60枚を支払い、その場で靴を補強してもらい、剣と盾と籠手を受け取り、モモが籠手を装着する前に彼が【浄化】したところでお店の三人が驚いたので、商品を有料で【清浄】することを提案した。
武具店のご主人ヒヨルさんと、革製品店のご主人レゾルさんと奥さんのスクリッダさんは、如何にも高価そうな剣や兜、黒光りする硬革の鎧や、多様な鞣し皮などを持ち出して来た。わたしも精一杯、今後の取引の可能性を匂わせて…実際に購入する可能性が高いものね…例の丁重な口上に笑顔を乗せて交渉した。
今日は帰りに治療もする予定なので彼の魔力とも相談になるけれど、結局、モモ用の硬革胸甲の新調代で相殺するということで交渉が成立して、出された製品を数日に分けて全て【清浄】することになった。胸甲は、実際に新調するのは胸のカップ部分だけ。他の部分は中古品の調整なので安く済み、納期も三日だった。
「…なんだか随分、お金を使ってしまったけど」
「モモさん、大丈夫ですよ。治療や採集で直ぐに取り返せますし」
「そうよ、モモ。天下無敵のモモ様が頼りだから」
「二人とも有難う。ショウくん、魔力は平気そうなの?」
「【浄化】ではなく【清浄】ですしね。半分以上は残っている感覚があります」
「そう言えば、武具店のヒヨルさんも…あなたが森人の貴人か何かで、モモとわたしが護衛って勘違いしていたよね」
「私も咄嗟にショウ様、にしたけど…これで通そうか?」
「…貴族を騙るリスクが心配です。恐らく罪になるのでは」
「そうよねえ…でも、相手が勝手に判断してくれるなら敢えて否定せずに…」
「ショウくん、今後は新しい場所では、そんな感じでいこうよ」
「…そう、かもしれませんね。曖昧にしておく、ということなら…」
わたしたちは、例の服屋さんでモモ用に革服に近い色合いの肌着、それも今、着ている冬用の厚手の大綿(この世界のコットン)製ではなく、薄手の大綿製の肌シャツやレギンスを探すことにした。革製品店にも置いてあったのだけれど、直しは外注に出すそうなので、服屋さんで聞いてみることにしたのだ。
「うちも外注になるけど、いいかい? 今なら空いているから…たぶん、明後日の朝に仕上がると思うよ」
結局、服屋の女将さん、カリザさんのところでも同じだった。でも直し代込みで上下合わせて銀貨3枚と大銅貨5枚。濃く染めてあるぶん高いけれど生地自体は薄いので意外と安い。服をどんどん買うようになったら、直接、職人さんに頼んでみてもいいかな。でもカリザさんの稼ぎを減らすことになって悪いかも。
恐る恐る聞いてみたところ、新調するなら別の商売だから全然構わない、そのうち紹介するよ、言ってくれた。それでも悪いと思ったのか、彼が卓上の鏡を買おうと言い出した。わたしたちは遠慮したのに…縦長の楕円形で掌サイズだ。銀貨10枚と大銅貨5枚。金属を磨いた鏡ではなく、綺麗に映るガラス鏡だった。
あとで彼に聞いたところ、ガラス鏡はガラスに銀箔をアマルガムで密着させて作るのが基本。地球では14世紀頃には既にあったそうなので、この世界でも以前から存在していても不思議はないとのこと。そう言えば、宿の窓は重い板戸だけれど、本町では小さいながらもガラス窓を見かけるしね。
何故か「金属鏡は曇ってよく見えない」という風説が広まっているけれど、実際には青銅鏡でも問題無く映るそう。わたしもモモも誤解していた。寧ろ青銅鏡の欠点は、完璧に平らにするのが難しいために「像が歪む」ことだった。でもこの世界は砂魔術で矯正できるから、例え青銅鏡でも綺麗に映ると思う。
午後の治療仕事は、朝に溜まっていた患者さんをまとめて熟したこともあってか、やや低調だった。今日はたくさんお金を使ったことだし、もう少し稼ぎたいな…と思っていたところ、「玄奥の森」の狩りからの帰りではなく、ヴェイザ脇街道を北から旅してきたらしい魔物狩さんたちの一行が視界に入ってきた。
「あれって、ひょっとすると…女性だけのパーティ? こちらでは「魔狩隊」ね」
「そうみたいですね。女性の魔物狩自体、初めてですよね」
「…見間違いでなければ、もうひとつ、初めての出会いがあるね…私と同じものが頭にあるよ…」
そう。なんと獣人二人を含む、女ばかりの六人組だったのだ!




