ウィラルテの神話:その弐 言葉を知らぬ者
世界に人族が行き渡った頃、人族の間で争いが起きました。鉱人が森人の住まう森まで焼き払って薪や炭としたからです。そして増えすぎた普人もまた、草原の多くを農地へと変えてしまったからです。
「そのように木々を切ってしまっては、森の恵みがなくなる」
「そなたら森人も、我らの道具を使うではないか」
「そのように麦を作り続けては、水が汚れてしまう」
「そなたら森人も、我らの麦を食べるではないか」
はじめは口だけの争いであったものが、いつしか手が出るようになりました。そして遂に言葉を聞く人族同士で、血を流し合う態に陥ってしまったのでございます。恒神様の御言葉がありました。
{我が言葉を知らぬ獣が現れた}
獣の魔物が現れたのです。獣と殆ど変わらぬ姿をしていながら、その額には魔石がありました。参の族は共に戦いました。森人は火の技で倒し、普人と鉱人は石と木の武器で倒しました。獣の魔物はその数を減らし、人々は元の暮らしを取り戻しました。すると再び争いが始まってしまいました。
{我が言葉を知らぬ者が現れた}
人の魔物が現れたのです。その額には魔角があり、その頭の中には魔石がありました。そして何よりも人族を好んで襲う恐ろしき鬼でございました。いつしか獣の頭に角耳が生えました。獣は角耳を欹てて魔物から逃れました。そして遥か遠き角の地より、寒風と共に獣人が舞い戻ってきました。
士気阻喪の極みにありました獣人は嘆きました。
「遠き地は人の魔物で溢れ、赤き地となってしまった…」
「遥平原に住まうと良い。逸速きそなたらに、大地の臍の守りを任せたい」
参の族は喜んで獣人を受け入れ、再び肆の族となって魔物に抗することになったのでございます。
{新たなる技を授けよう}
畏きも尊き恒神様の御言葉がありました。魔物により赤子まで殺され、人族の数が減ってしまったのを憐れんでくださったのでございましょう。水と風と砂の技はこうして森人に伝えられ、他族に教える務めが与えられました。普人は素直に教えを受けましたが、やはり技を覚えられる者は少なかったのでございます。
獣人は狩りに駆け回るばかりでしたので、森人の傍に侍りし一人の少女だけが教えを受けました。鉱人は森人と仲違いしたままでしたので、教えを請うことすらありませんでした。それでも森人は言いました。
「止むを得ぬ。我らはこれより護人を名乗り、他の族をも護ろう」
普人は拳を宛てがいました。
「我らは森人を扶け、共に戦おう」
獣人は胸を反らしました。
「我らは森人の矛となり、また盾となろう」
鉱人は顔を背けました。
「我らは施しを受けぬ。この鉄の斧で鬼どもを退けてくれよう」
ああ、我等世の人族は、なんと卑近な魂であることでしょう。現の世にいたるまで、森人と鉱人は朋友となることは無かったのでございます。恤み深しき恒神様の御許しを賜らんことを。ト・アペイロン!
※明日、R15短編新作「黄昏の戦姫」(約2700字・1話完結)を公開します。「徨う花の物語 第33話:装備」は1/9(金)午後に公開予定です。ブックマークして通知をお待ちくださると嬉しいです。




