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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第1章 ヴェイザ

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第26話 練習

「モモさん、【石弾シレクス】を回収できるように打ち出せませんか。僕の投擲の球として使えないかと思って…」

「うん。真球の【石弾】の方がコントロールできるよね…なるべく弱く打ち出してみればいいのかな…」

 モモがわたしの陰で、橘花くんの杖を上に向けて【石弾】を打ち出す。ほぼ垂直に上がったテニスボール大の石が落下してきたところをモモが柔らかくキャッチして、無事、回収することができた。


「初日は確認しませんでしたが、これも石英っぽいですね。【硬化ソリダーテ】した【砂矢ハレーナ】の塊ということかな」

「うん。リカ、時間が経つとこの石が消えたりはしないのよね?」

「それは大丈夫みたい。町の城壁の硬化石もずっと在ることだしね」


 わたしたちは昼過ぎから北門の外で待機したけれど、やはり人通りが無かった。雑談をしながら、モモは短剣を振ったり、わたしは杖無しで火魔術をどこまで使えるか試したりした。橘花くんは魔力を温存したいので投擲の練習でも、というところでモモの【石弾】を球にすることを思い付いたのだ。


 彼は立ち木を的にして投擲の練習をした。橘花くんが投げる度に、いそいそとマントを翻して石弾回収に走るモモが本当に可愛らしくて、もし尻尾があったらブンブンと振っていたのだろうなあ、と思ったのは内緒ね。彼も恐縮しながら、可愛くて堪らない、という美しくも優しい笑顔を彼女の背中に向けていた。


「…お裁縫セットの鋏が、和鋏だったのには驚いちゃったよね」

「確か、U字型の和鋏の方が古くからあって…ギリシャ型と言って、X字型の普通の鋏はローマ型だったと思います」

「さすがね。あと、植物繊維として「大綿おおわた」と「亜麻」と「弾絹はじきぬ」って言っていたよね。コットンとリネンとシルクと考えればいいのかな? そうすると、わたしたちの魔術士服は多分、大綿製よね」


「僕の【博物学】に拠ると、こちらでも翻訳が同じ「蚕」がいて、蚕から「弾絹」の糸が採れるみたいです。高級品で、地球の絹と違って丈夫で伸縮性も高いのが特徴ですね…ナイロン、いやポリエステルとかポリウレタンみたいな糸かな。お金さえあれば、合成繊維並みに快適な衣服を揃えられるのかも」


「毛素材も伸縮性があるから、私の服は多分、牛毛よね。ショウくん、私の【狩猟】だと羊の毛は使わないみたいだけど、【博物学】でも同じ?」

「牛は…「毛深牛(けぶかうし)」と言って、毛も皮も乳も肉も利用するみたいです。ヤクに似ていますね。羊は「野羊」という動物がいて地球の山羊に近そうです。毛が短くて皮と肉と乳の利用です。毛深牛がウールなのでしょうね」


 そうこうしている内に、森の方から六人組の魔物狩が現れた。大荷物を背負っているけれど、表情が明るい。牛頭鬼バイペドルスを仕留めたのだろう。声を掛けると、上機嫌で打身などの【表癒クラウデ】を依頼してくれた。銀貨7枚。狩りがうまくいけば早めに戻ってくるのね。素材を持ちきれないからだろう。


「牛頭鬼って、どのくらいの稼ぎになるのだっけ」

「確か掲示板に…魔石が大銀貨、大きな魔角が2本で銀貨2枚、枝肉にして100kgくらいで大銀貨2枚前後、皮が銀貨2枚くらいで、計銀貨34枚くらいでしたか」

 続いて【狩猟:第一段階】持ちのモモが更に解説してくれる。


「…1頭仕留めたら、枝肉の半丸を一人ひとつずつ背負って、もう一人がその他の荷物で警戒も兼ねる。大の男が三人で1頭持って来るのが限度ね。私たちの場合は、私が半丸をひとつ担ぐとしても…ショウくんとリカで半丸を分割して持てばギリギリいけるのかな…でも、その状態で警戒しながら帰るのは不安かも」


「早く「魔法袋」を作らないとね。必要なのは魔力を通しやすい魔角の粉を混ぜた魔銅板と魔銅墨、魔石粉を混ぜた魔鉄針。魔力を貯められる魔石と大きな袋…口は大きくしないとね…ひょっとして縫わないといけない? いずれにせよ、まずは簡単な狩りをしてみてからよね」

「そうですね。「魔法袋」を作るのは面白そうですが、まだまだ先ですね」

 道具を揃えるだけでも、何枚もの銀貨に羽根が生える気がする。


「ところでモモ。【火矢サギッタ】が急所に当たれば一発という気がするけれど、モモも牛頭鬼には勝てるよね?」

「短剣だとリーチの差が大きいから、鉄の長剣が欲しいけど。でも1対1なら短剣でもいけそうな気がする」

「いきなり牛頭鬼でも大丈夫な気もするけれど、沢小鬼ガリイホルトから試す方が無難よね」


「ええ、安全第一で行きましょう…でも、そんな未対戦の相手に「勝てそう」という感覚も分かるのですか?」

「…そうね。牛頭鬼は強い魔物ではない筈だし、第五段階というのは手練れだと思うから。正直、今までに会った魔物狩さんたちからは、私より強い人はいないかな、という印象を受けるの」

「武術の腕が良いと、そういう感覚も生まれるのですね。分かる気がします」


「そう言えば、魔法の腕に関しては魔物狩さんたちから何か感じた? 魔術士とか杖使いっぽい人には出会っていないよね? 少なくとも、わたしたちと同じ服装の人はいなかったものね」

「そうですね。普人の杖使いは百人に一人くらいですよね。魔物狩なら、杖使いの割合が多くなる気もしますが。いや、逆に魔法が使えると引っ張りだこで、魔物狩をする必要は無いのかもしれませんね」


 車両が到着する時間になった。馬車や荷車は、今のところ止まってもくれないのよね。結局、この日の稼ぎは、朝に銀貨3枚、早仕舞いの魔物狩が銀貨7枚、夕に銀貨10枚で大銀貨2枚分だった。


 三日目の夕食は、わたしたちにとっては喜ばしい大きな変化があった。シチューの材料は同じだったけれど、味付けに「赤椒」を使っていなかったのだ! それだけで段違いに美味しく感じられた。


「ああ、赤椒は胃腸に良いこともあって、この町では年がら年中、入れるけどね。ウチは時々、赤椒味を止めてみるのさ。やっぱり他所の人たちには、この痺れが苦手みたいだからね!」

 三人は「今日は特に美味しかったです!」「できれば日替わりくらいで赤椒なしでお願いします!」などと女将さんを誉めそやして、夕食を終えたのだった。


 その日の夜。着替えをするといって橘花くんにトイレに行ってもらった間に、二人で大切なことを相談していた。

「モモ、昼間の服屋さんで貰ったのを見せてくれる?」

「うん、これ。布袋の中に綿が少し入っているだけ」

 紐が二本、伸びていて肌着に結んで使うらしい。


「モモ、前回はいつだった?」

「…私は修学旅行前にちょうど終わったから、まだ先かな」

「わたしも、旅行の少し前くらいに終わったかな。でも周期って…転生でリセットされないのかな」

「次、来てみないと分からないよね。四つ貰ったけど、ひとつ大銅貨5枚だって」

「地球のものと比べると吸収しないだろうから…使い捨てにするとお金が…」


「こっちの人は、洗って使い回すみたい。私たちの場合…ショウくんに【浄化プルガーテ】してもらえばいいけどね」

「う~ん、それは抵抗があるというか、恥ずかしいというか」

「…私、覚悟する。リカも…」

「…こ、これのための【浄化】って言わなくても、服の上から時々【浄化】してもらうことを習慣にすれば…」


「ショウくんの魔力が心配よ。リカ、ピルみたいな止める薬はあるの?」

「ある。月止薬といって、髭だらけの山芋みたいな「髭芋ひげいも」の根茎、黒いエンドウマメみたいな「昏豌こんえん」の茎葉、茎がイボイボの「疣豆いぼまめ」の種、それから「魔木」の根の油「魔根脂まねやに」を煎じて練蜜で混ぜた丸薬。副反応も、偶に吐き気がする人がいる程度。長期的だったり珍しかったりする副反応は、分からないだけかも…」


「痛み止めも欲しいよね。痛み止めは普通にあるでしょ?」

「うん。でも、とっても苦いみたいよ」

「…確か、剥がれ落ちた子宮内膜を押し出そうと収縮するから痛くなるのよね。これも【浄化】で消せるかもしれないよね?…結局、私たちの覚悟次第なのかな」

「…そ、そう…よね…」


 そもそも【清浄】や【浄化】が使える橘花くんが仲間だということ自体が、とても得難いことなのだ。狩りの途中でおトイレに行きたくなった場合もそうだけれど、この世界で生きていく上では、いずれお願いしないといけなくなるだろう。恥ずかしくても覚悟は決めないといけないのかも、ね…。


 三日目の晩は、肌シャツとレギンスの上に、新しく買ったチュニックを着て寝た。やはりリラックスの度合いが大きく違った。モモは腹痛を訴えた。すぐに治療してトイレに行けたから今回は大丈夫だった。橘花くんは何度もモモの体調を確認していた。屋台のお料理は、もう試さない方がいいだろう。

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