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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第1章 ヴェイザ

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第18話 初めての稼ぎ

 五人組の魔物狩が歩いてくる。全員男性で普人だ。全身を革鎧で固めている。肩当てとか脛当てとかが別になっていて、遠目には悪役レスラーみたいに見えたものの、傍で見ると格闘技系のアスリートくらいだった。そういえば、組合のホールにいた人たちもそんな感じだったかな。


 両肩に跨いで大荷物を担いでいる。粗布で巻かれたその塊からは赤黒いものが滲んでいて、怯んでしまった。獲物の肉の塊なのだろう。彼らが近付くにつれ、強烈な獣臭、そして生臭い鉄と脂の匂いが辺りの空気を覆い尽くす。必死で吐き気を堪えた。これもファンタジーと現実の違いよね…。


 そして、一人だけ別の荷物を担いでいる男性が。こちらは…毛皮みたい。嵩張っているものの、そこまで重くは無さそう。その人は顔を歪め脇腹を抱えて、苦しそうに一歩一歩踏みしめるように足を運んでいる。間違いなく怪我をしているよね。患者さん第一号になってくれますように。


「あの、すみません。こちらの森人の方は光魔術士です。宜しければ治療して差し上げられますが?」

 わたしは悪臭で歪まないように努力しながら、笑顔で話しかけた。モモはまだ疲れた顔をしているので、目深にフードを被って診察台の角に腰掛けたままだ。


 五人の魔物狩の目が驚きに見開いて一斉にわたしの顔に集中し、次いで橘花くん…治療の際には森人だと分かる方が信用されそうなので、フードは少しだけずらして金髪を見せている…に移った。やや迷う素振りを見せたあと、一番ごつくてリーダーっぽい人が、怪我をしている人に話し掛けた。


「おいアザル、治療費は共用費で持つから、診てもらえ」

「…いや…しかし…せっかく、の、稼ぎが…」

「お前が何日も寝ている方が響くだろうが」

「取り敢えず、怪我を診させてください。診察だけなら無料ですよ」


 橘花くんがモモ作の診療椅子に座るように促す。その言葉に安心したのか、怪我をした人…アザルさん、がリーダーっぽい人に手伝ってもらって荷物を降ろし、既に緩めていた革鎧を外して、痛そうに肌シャツを捲って脇腹を見せた。わたしは無意識のうちに目を背けてしまっていた。


「失礼しますよ」「ぐうっ!」

 彼が患部を確かめたのだろう。食い縛るような呻き声が聞こえてきて、思わず身震いして目も瞑ってしまった。

「肋骨に三本ほどヒビが入っていますね。普通の【治癒キュラーテ】では厳しいかな…長めの【治癒】で銀貨15枚では?」

「そんな値段でいいのかい? やってくれ!」


 リーダーさんが即決する。橘花くんが杖を当てると、白光がボウっと脇腹を包んだ。骨折は【深癒サナーテ】が基本だけれど【治癒】でも時間を掛ければ可能。習得段階を隠すために【治癒】だという振りをすることにしたのだろう。


「おおっ? 一瞬で痛みが消えたぜ! すう~、はあ~。思い切り息を吸っても、何ともねえ! 森人さん、感謝しますぜ!」

 アザルさんは笑顔で立ち上がって、体をあちこち動かして具合を確かめている。

「凄腕じゃねえか…旅の神官補ディアコヌス様でしたかい? ま、まさか、お貴族さまで?」

「いえ、貴族ではありませんし、神殿にも所属していません。それに僕たちは今日登録したばかりの魔物狩の新人ですから、普通に話してください」


「…あんたたちが魔物狩をするのか?」

 リーダーさんが三人を見渡しながら尋ねる。ローブに包まっているモモは武装しているかどうかも微妙だしね…わたしは黙って杖を立てると【火種イグニーテ】で火を出して、頭の上を高速で八の字に周回させてみた。先程からずっとわたしを凝視している残りの三人を意識しながら。睨む勇気があれば良かったのだけれど。


「…【火球スフェラ】も使えそうな魔術士アルティスタか。【硬化ソリダーテ】も、となると…こいつは恥ずべき見立て違いだったな…って、お前ら! 魔術士のお嬢さんに変な目を向けるんじゃねえ! 焼かれてえのかッ?」

 意外なことにリーダーさんがメンバーの非礼を咎めてくれた。魔物狩さんたちも、左胸に右拳を当てて頭を深く下げて…例の挨拶で頭を下げると謝罪?…「つい、見惚れちまって」「すまねえ」などと頭を搔いている。頭を掻く動作の意味は同じなのね。もしかして、そう悪くない人たちなのかも。


「…お詫び替わりにと言っては何ですけれど、他の皆さんにお怪我は無いのですか?【清浄エウェッレ】も使えますよ?」

「ああ…かすり傷なんかは皆、拵えているが。そうさな…」

「マナグ隊長、俺が銀貨4枚出しますよ。俺の怪我の所為で慌てて解体したから、いつもより汚れちまっているし。森人さん、これで、こいつらの手を【清浄】してくれませんかい?」

 治療を受けたアザルさんが銀貨4枚を取り出して【清浄】を依頼してくれた。


 橘花くんが、アザルさん以外の四人の手を肩くらいまで【清浄】しながら、軽い世間話のように質問する。

「狩りの成果を伺っても?」

「ああ、今日は運よく牛頭鬼バイペドルスを2頭、狩れたからな。まあ、あいつが一発、食らっちまったが。あとは藪小鬼グロブホルトだ」

「最初の狩としては、やはり牛頭鬼は避けた方が無難でしょうか?」

「…全くの初めてなのか?」

 マナグさんは驚きを滲ませながらもアドバイスしてくれる。


「それなら、本町の南門の先で沢小鬼ガリイホルト狩りから始めた方がいいぞ」

 やっぱり、街道で魔物に出会う可能性もあったの?

「僕たちはヴェイザ脇街道を南からヴェイザに入ったのですが、沢小鬼には出くわさなかったですね」

「街道沿いには出てこないだろうな。南門を出て暫く歩いて、十字傷のある岩に挟まれた野道を左の方…川に近い林の奥や土手まで行けば出るぞ。昼間は沢小鬼以外の魔物は出ないからな、新人にはお薦めできるぜ?」


 そういうことね。狩った魔物の情報などは秘密にするのかと思ったけれど、そうでもないらしい。でも考えてみれば、野道の目印以外は出張所の掲示の情報と大差ないし、わたしたちを体よく南門へ追い払ったという見方もできる。わたしたちにとっては十分、有益なアドバイスで助かるけれど。


 銀貨で合計19枚を支払ってくれたマナグさんたちは、元気になったアザルさんにも荷物を振り分けると意気揚々と北門を潜って行った。実はマナグさんたちの治療をしている間に髭面の2人組が通り過ぎたのだけれど、彼らは怪我をしていなかったのか、こちらを見て密々(ひそひそ)と話しながら町へ入っていった。残念。


「…臭いがすごかったね。まだ残り香が漂っている気がする…」

 モモがふう~っと溜息のような長い息を吐きながら呟く。

「わたしたちも狩りをするなら、これに慣れないといけないのね…」

「申し訳ない。風魔術で臭気を掃えるでしょうが、森人といえども目立ちすぎるかと思って…でも、マナグさんはリカさんが砂魔術も操れるのでは、と判断していましたが…変ですよね?」

 うん、わたしもそう思った。モモも顔を上げて発言する。


「…光魔術士という時点で、他に魔法を最低二つ使えるということだから、ショウくんが砂魔術を扱えるのでは、と推測するのが普通よね。リカ、普人の複数魔法持ちは珍しいのよね?」

「そうね。数百人にひとり、という感じね。それに【魔法学:第二段階】にも、種族によって出やすい魔法の素質が異なる、という知識は無いと思う…」

「判断できる情報が足りませんね。幸いというべきか、元々モモさんが砂魔術を使えることは秘匿する予定でしたから。僕とリカさんのどちらが砂を操れる「振り」をするのか、は曖昧にするしかなさそうですね」


 わたしは頷いて、魔術の習得段階の秘匿についても確認することにした。

「それから、わたしが火を杖から離してぐるぐる回しただけで、第三段階の【火球】まで使えそうと判断していたよね。魔法の腕が上がるほど、体から離したり複雑に動かせたりする、という辺りは広く知られているのね。わたしも第三段階くらいだという振りをした方がいいよね?」

 紫の瞳は一瞬だけ思索に耽ってから、直ぐに同意の笑顔を返してくれる。


「そうですね。僕も【治癒】で無理して治したように見せかけましたが、リカさんも人前では【火球】までしか使わない方がいいかもしれませんね。無論、モモさんの砂魔術と僕の時空魔術は秘中の秘、ということで」

「事情が分かってくるまでは、目立たない方が無難よね」

「うん、私もショウくんに賛成。その方針で!」

 三人とも笑顔で頷き合った。モモも少しは元気になったようで良かった。


 その後も暫く待機したものの、声掛けも空しく、更に三組の魔物狩と荷馬車を二台に徒歩の行商人を数組、見送ることになった。残念そうな顔をしている人もいたけれど、何故なのかな。結局この日の患者さんはアザルさん一人だけ。陽が落ちてきたこともあり、三人はヴェイザの北砦へと引き上げることにしたのだった。

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