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【R15版】徨う花の物語(さまようはなのものがたり)  作者: 紫瞳鸛
第一部 転生 第1章 ヴェイザ

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閑話 クンディは考える

 極自然な動作で、森人の美少年ショウ様が獣人の美少女モモさんに長寛衣ながゆるいを着せてやり、普人の美少女リカさんとモモさんが、しまったという体で慌てた様子になるのを笑顔で見守る。建物から出る際にも、三人ともぴょこんと頭を下げる見慣れない挨拶をしてから去っていった。

(…本当に、いろいろと不思議な方たちねえ…)

 わたしは、先ほど組合の重い扉が開いた瞬間から振り返ることにした。


 扉を支えた長寛衣の人物の横を軽やかに擦り抜けて、同じく長寛衣に包まって完全に顔を隠している小柄な人物が組合に入ってきた。続いて普人の少女。二人とも当たり前のような態度で通り抜けながら、それでもお礼は述べたようだ。そして、ひとり顔を出している普人の少女は…。

(まあ、なんて、なんて、綺麗な子なの…普人では有り得ないどころか!)


 神々しいまでに整っているのに、美人特有の冷たさは微塵も無くて、寧ろ優しくて可愛らしいお顔立ち。緊張に表情を硬くしているけど、笑えばそれこそ満開の花が咲き零れるだろう。お肌も輝くばかりに滑らかで、濡れ光るような髪と星が煌めく瞳色が無ければ、森人と見紛うばかり…いや、これ程の麗しさは森人でも…。


 どちらの御令嬢だろうか。長寛衣ではなく懸布かけぬのだが、あの女胴着姿は魔術士アルティスタに違いない。居合わせた魔物狩たちが驚いて注目している。しかし、こちらを窺うと努力して目線を外して無関心を装う。

(そうそう、組合の中で問題を起こしたら、たちまち降格ですからね!)


 魔物狩組合に依頼でもあるのかと思ったら、扉を支えていた男性が真ん中に立ち、普人の絶世の美少女と、もうひとり…どうやらこちらも少女ね…が、すっと両脇に控える。おや、扉を支えた男性は従者ではないのね。男性は長寛衣の子を振り返ると、三人の受付の中からわたしを選んで歩み寄ってきた。


(あら。男性ならば間違いなく、うちの自慢の看板娘のフリゾルを選ぶのに…)

 近付いてきた男性が頭巾をずらす。その瞬間、思わず身動ぎしてしまった。

(森人の…しかも超越した美形! わたしも森人を大勢見ている訳ではないけど、これは正に…)

使徒エランダ様のよう」と言う誉め言葉は、この方のために在るに違いない。


 その後も驚きの連続だった。差し出されるのは光り輝く新造帝貨。間近で見る新品の衣服は、余程の高級店で仕立てたのかという出来栄え。但し紋章が無い。何よりも、森人のショウ様は真摯な敬意を向けてくださるのに卑屈ではない。貴人特有の教養と品格を感じる。少なくとも郷士身分で間違いないだろう。


 こちらも自然と、より丁重な対応をしてしまう。家名を告げられないとは不思議だが、相応のご事情がお有りなのだろう。それにしても、世間知らずなところも考え合わせると…後難を避けるためにも確認しておかねば。

「ええと。少しお時間をいただけますか? お手間は取らせませんので」

 わたしは謎の森人一行を奥廊下へと案内しつつ、フリゾルに声を掛ける。


「フリゾル、ちょっといい?」

「クンディさん! あ、あの使徒様のような森人の若君は…それに女魔術士の方も有り得ない程の…」

「…後で教えてあげるわよ。それより、建物の周囲を探ってみて。護衛風の人がいないかどうか」

「やはり、どちらかの貴家の…」

「それを確認するのよ。お願いね」


 わたしは光魔術サンクタルスの治療依頼の最低価格を記した紙を用意して、応接室に戻った。三人は長寛衣や懸布を脱いで立っている。なんてこと、獣人のモモさんまで超越した美貌! 見事な肢体が無ければ子供にしか見えないし、護衛としては軽装で…でも立ち居振る舞いからは確かに武術の心得が有りそう。どうなっているの?


 動揺を隠しながら着席を促す。なんとショウ様を真ん中に長椅子に揃って座られた。しかもお互いの座る距離が近い。これはどういうこと? と思いつつお忍びかどうか確認したが、否定されてしまった。飽く迄もお忍びであることは隠されたいのだろう。そのために敢えて対等に見えるように座られたのか。


 ショウ様とリカさんが十七でモモさんがまだ十六!…従者セルウァたちは顔だけ見れば成人しているかどうかも微妙だが、魅惑的な肢体を見れば納得、というか凄すぎる。ショウ様はとても十七とは…でも三人の様子を見れば、ほぼ同い年というのは理解できる。主従とは言え兄妹同然に育たれたのか…或いは乳兄妹かもしれない。


 森人貴族としては礼儀作法に違和感がある。見慣れぬ所作だが、森人の旧い家系には古式が保存されているというし…。無論のこと森人も大半は平民だ。しかし光魔術士サンクタルティスタともなれば、郷士格に引き上げられることが多い。これほどの美形の従者を複数付けるとなれば、男爵本家以上の可能性が高いと思うが…。


 丁寧に断った三人がいったん席をたち、なんと額を寄せ合って相談した。こんなことをする主従がいるだろうか。しかし森人貴族の従者に属性が重ならぬ魔術士と護衛というのは、定番の組み合わせだ。お忍びと思わない方がどうかしている。しかも間違いなく複婚関係と思ったのに、それも否定されてしまった。


 事情を察するに、原因はやはり二人の従者だろう。リカさんもモモさんも美し過ぎる。ショウ様とは釣り合っているとは言え、有り得ぬほどの麗しき二人を夫の傍に置いて耐えられる森人の壱妻いちのつまは、まずいまい。「美し(うるわし)のリナリア」様でさえ、どうか…女の感情は種族や身分の差があるから、と割り切れるものではない。


 なにしろ森人の従者と言えば、影のように主に付き従い命を賭して守り通すものだ。そして森人妻は夫と寝屋を共にする夜が少ない。全員魔術士としての務めがあるのだから。高位貴族であれば任地も配慮されようが…だからこそ、森人男性には異性の従者を付け、事実上の複婚関係にもなるのだ。


 …恐らくショウ様のご婚約者が、彼女らの正式な複婚を認めないどころか、従者から外すことを主張されたのだろう。そしてお優しいショウ様は、それこそ幼少時から共に研鑽されたであろう二人と離れることは忍べず、出奔してしまったのかもしれない。その場合は、貴族籍を剝奪されている筈だ。


 いや、そんな無責任なことをする方には見えない。それに例え位階の降下があったとしても、誇り高い森人に直に確かめることなど出来やしない。家名と身分を秘したい、ということであれば粛々と受け入れるしかないのだ。そもそも、わたしが考え過ぎているだけかもしれない。


 単に普人地域で身分を隠して徳を積みながら自身の才をも磨こうと旅をしている、と言ったところか。十七であれば、光魔術は恐らく第二段階だろう。実地に経験を積んで腕を上げ、ご出身とは別の一門の貴族家に売り込もうという線が、最も無難かもしれない。あの仲睦まじさも、ショウ様がお優しい故に違いない。


 わたしの亡き良人(おっと)も優しかった。他人の目が無ければ、扉の開け閉めや服の脱ぎ着に手を貸してくれることもあったが、無論、わたしの実家の方が上である所為だ。それでもショウ様を見て、あの人のことを…魔物討伐の指揮中に命を落としたモルテンを…彷彿としたのかもしれない。さあクンディ、仕事をしなければ。


「さて、魔物狩の皆さん」

「あ、クンディ様…クンディさん。あの三人は一体…」

「やはり貴族関係ですかい?」

「大店の嬢ちゃんと護衛だろう?」

「いや、男は森人だったぞ? 従者二人を連れたお忍びだろう」

 居合わせていた魔物狩たちが口々に尋ねてくる。


「まあ、そんなこと、教えるわけにはいきませんよ。飽く迄も魔物狩の新人として扱って欲しいそうですよ」

「…ってことは、やっぱり。物好きな森人さまだな」

「人類を魔物から守る最前線に立つ魔物狩の皆さん。まさかとは思いますが、妙なことを企んだりはしませんよね?」

「と、とんでもねえ、クンディさん!」

「俺たちゃ、黄銅札で終わるつもりはねえんです!」


 魔物狩たちは慌てて訴える。これくらいで良いだろう。本当にあの三人が砦の北門辺りで光魔術を使うなら、直ぐに()()()()()だろうし。あとは、振る舞いを注意しておきたい魔物狩は…それから各門の衛兵や、フリゾルの実家にも念のために確認しておいた方がいいわね。


 少し気にし過ぎかしらね…わたしは妙に親切になってしまった自分にくすりと笑いながらも、仕事に戻っていった。ショウ様が何者にせよ、魔物狩として働くというなら分かってくることも多いだろう。わたしは心の中で頷くと、フリゾルたちが疼々(うずうず)と待ち構えているカウンターの向こうへ赴いた。

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