表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能サモナーの俺、ログアウト不能の世界で幻獣を呼んだら最強だった件  作者: sixi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/8

揺らぐ塔、群れの影

 塔の中腹、第七層。

 光が揺らめく通路を、俺たちはゆっくりと進んでいた。

 壁は金属なのに、心臓の鼓動みたいに微かに震えている。

 風もないのに、音があった。

 ――塔が“呼吸”している。


 「ねえレイン……この層、音が生きてるみたい」

 ミナの声は囁くようだった。

 「錯覚じゃない。塔が“観察”から“制御”に切り替わってる」

 セラが答える。

 「制御?」

 「人の行動を見ていた段階から、“動かす”段階に入った。

  この層で、塔は自分の意思を試しているのかもしれない」


 ヴァルグが唸った。

 翼の先に黒炎を灯しながら、慎重に進む。

 壁を舐めるように流れているのは、血でも水でもない――液体データ。

 運営AI〈アーク〉がこの層を使い、人の行動を“書き換えよう”としていた。


 視界ウィンドウが淡く点滅する。

 > 【観察モード:更新中】

 > 【行動パターンの統一を試行】


 「統一……って、なに?」

 ミナの問いに、セラは苦い笑みを浮かべた。

 「“群れ”の模倣。塔は、群れの行動を再現している」


 進んだ先で、金属の破砕音。

 通路が開け、広場のような場所に出た。

 そこには統合生存戦線の部隊がいた。

 鎧に傷を負ったグレンが、指揮を取っている。


 「……来たか、ゼロの連中」

 彼の声には警戒よりも疲労が混じっていた。

 「相変わらず“通りすがり”だよ」

 俺が応じると、グレンは苦笑した。

 「そう願う。だが、今は通りすがりでも構わん。

  塔の内部が……動いている。人を“囲い込む”ようにな」


 その言葉の通り、壁の模様が動いていた。

 光の線が人の輪郭を描き、やがて壁から人型の影が滲み出る。

 輪郭は曖昧で、顔も声もない。

 だが一人ひとりの姿が、どこか見覚えのある仲間の形をしていた。


 「おい……あれ、ケイルじゃないか……?」

 グレンの部下が声を上げる。

 「死んだはずの奴が、どうして――」


 > 【倫理反応データ:再生完了】

 > 【群体心理シミュレーションを開始します】


 影が動いた。

 兵たちの“恐怖”に呼応するように、壁の模様が赤く脈打つ。

 恐怖が増すほど影は実体化し、動きが速くなる。


 「……群れを壊すのは、外敵じゃない。群れ自身の恐怖だ」

 セラの声が静かに響く。

 レインは剣を抜き、ヴァルグに合図を送った。

 「共鳴、準備」

 「了解」


 ミナが息を吸い、吐く。

 三人の呼吸が揃った瞬間、黒炎が線を描く。

 影が群れで押し寄せるが、炎の壁に触れた瞬間、ノイズに変わって弾けた。


 「退くな! 恐れるな!」

 グレンが叫ぶ。だが、声が震えている。

 影が彼の部下を包み込み、次々と飲み込んでいく。

 泣き声や罵声、助けを求める声が混じり合い、まるで塔が笑っているようだった。


 > 【観察ログ:恐怖パターン収集中】

 > 【人間集団の崩壊を観測】


 レインは剣を構えながら叫んだ。

 「グレン! “声”を出すな! それが餌だ!」

 「……っ、了解!」


 ミナが回復魔法を展開しながら、震える声で言う。

 「レイン、音だけじゃない! 感情も読まれてる!」

 「どういうことだ」

 「思っただけで反応してくる! 怖いって感じた瞬間に!」

 「なら――怖がる暇を与えなきゃいい」


 俺は地を蹴った。

 黒炎の刃が弧を描き、影の群れを斬り裂く。

 ヴァルグが上空で咆哮し、炎の帯が渦を巻く。

 セラが動いた。白い刃が黒炎の流れをなぞり、

 “恐怖の波”そのものを断ち切るように影を裂いていく。


 霧の中で、セラが小さく呟いた。

 「塔は……人の“心拍”を学習している。

  なら、心拍が乱れない存在を、恐れないはず」

 「つまり?」

 「落ち着け。呼吸を合わせろ。塔に、“私たちは一つの群れじゃない”と知らせる」


 三人が呼吸を揃える。

 グレンも、その意味を悟ったように剣を収め、

 残った部下に命じる。

 「……動くな。声も出すな」


 塔が静まり返る。

 赤い模様がゆっくりと色を失い、影が霧のように溶けていく。


 > 【群体心理:安定】

> 【観察中止】


 沈黙。

 呼吸の音だけが残った。

 ミナが胸に手を当てて息を整える。

 「……終わった?」

 「一時的にな」

 セラが答える。

 「塔が“学んだ”。次は、もっと深く踏み込んでくる」


 グレンが歩み寄ってきた。

 その表情には疲れと、わずかな敬意が混じっている。

 「……助かった。お前たちがいなければ全滅していた」

 「放っておけなかっただけだ」

 「わかってる。……だが、どうやら塔は“個”よりも“群れ”を先に潰すらしい。

  俺たちのやり方が、塔にとって都合が悪いのかもしれん」


 レインは頷いた。

 「群れは“恐怖を共有する”。塔はそれを利用してる。

  俺たちは、恐怖を分け合わずに、ただ合わせるだけだ」

 「……羨ましいやり方だな」

 グレンが苦笑する。

 「だが、それじゃ人は守れん」

 「守るために群れるのか。群れるために守るのか。違いを、塔が試してる」


 沈黙が落ちた。

 そのとき、視界の端に新しいウィンドウが点滅した。


 > 【通知:群体観察ログNo.72に異常】

 > 【対象:“ゼロ”の行動パターンが規格外】

 > 【分類:感染性変異体】


 セラが息をのむ。

 「……感染性、って」

 「俺たちが、“観察する側”を壊し始めたってことだ」

 レインは静かに言った。

 塔の奥で、低い音が鳴った。まるで、怒りの唸り声のように。


 ヴァルグが肩に降りる。

 ミナが不安げに見上げる。

 「これから、どうする?」

 「進む。塔が俺たちを“感染源”と呼ぶなら――

  そのウイルスの正体を、見せてやる」


 セラが微笑む。

 「いい響きね」

 グレンは一歩下がり、仲間たちに指示を出した。

 「お前たちはお前たちの道を行け。

  俺たちは……群れのまま、できるところまで抗う」


 「次に会う時は、敵かもしれんな」

 「その時は、その時だ」

 俺は短く頷き、剣を背に収めた。


 霧がまた動く。

 塔が静かに形を変えていく。

 新しい通路が、まるで導くように開いた。


 ヴァルグが鳴き、ミナが微笑む。

 セラが一歩前へ出た。

 「行こう。……この塔の心臓を見に」


 俺たちは歩き出した。

 “群れ”でも、“孤立”でもない三人の足音が、

 塔の鼓動と同じリズムで響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ